ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉リズモーニ王国 4

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 ~ドゥーア先生視点~


 ヴィオ嬢から、私達の為に魔道具を作ったけど安全に送る方法が分からない。と連絡が来た。
 小さなものであれば小包にして送ってもらえればいいが、お守りを大事な人の人数分というからいつもの封筒では嵩張かさばるのだと思った。

 うちで錬金の練習をさせていた時点で、学生たちよりも呑み込みが早かったヴィオ嬢だ。
 魔獣除けに冒険者ギルドの空間拡張、転移陣、ギルドカード、それらの魔道具を作り出した勇者に師事して作り出した魔道具など、どれだけの価値があるか分からない。
 貴族宛の荷物に手を出す愚か者がいるとは思いたくないが、万が一を考えて魔封箱を作ることにした。


「エルダートレントは杖の取り扱いしかありませんね」
「うむ、箱にするには心許ないな。これはヨーナスに頼むしかないか」

 プレーサマであればエルダートレントの一本や二本は手に入るだろう。ただ、その場合は何のために必要なのかを聞かれるだろう。
 ヨーナスの事だ、お守りの事を告げれば自分も欲しいと言いそうだな。

 そう思ったものの、質の良い魔素材はプレーサマに勝る場所は無く、魔道具の素材を探している旨を記した手紙を送った。
 一週間後、エルダートレントの丸太を、笑顔のヨーナス本人が持ってきたのはある意味想定内だった。

「素材指定は珍しいだろう? 何を作るのか気になったからな、この大きさでは転移陣にも乗せることが出来ん。儂が直接届けに来たぞ」

 わっはっはと豪快に笑うのは、若い頃から変わらない。
 ヴィオ嬢はこの豪快さに警戒を解いたと言っていたが、裏を読んでばかりの貴族達は余計に警戒するのだと伝えたら笑っていた。
『閣下さんは裏とか表とか面倒くさいから、嫌なものは嫌って言いそうですけどね』
 そんな風に言っていたな。

「ヴィオ嬢が、兄達に魔道具を送りたいと言っておってな。アルク殿に作ったものと似たお守りを持たせておるそうだがそれには何の効果も無いからと、家族を守るための魔道具を作るからそれを持っていてほしいと言われたんだ」
「そうか……。
 アルク殿が亡くなったのはヴィオの目の前だったんだ、冒険者をしていればいつか同じ目に合うかもしれんという不安なんだろうな。
 魔道具を転移陣で送るという事は、あれか? 魔封のあれを作るんか?」

 ヨーナスは何を作るのか直ぐに分かったようだ。

 辺境という場所柄か、他では見かけることの少ない希少な素材が手に入ることがある。今回ヴィオ嬢が行方不明になったあの場所でも、白金ランクでも厳しいのではないかと思われるような未知の魔獣が遺骸で見つかっている。
 素材の多くは穴が開いていたり、欠けていたり、原型が分からない状態だったようだが、それでも残っていた部分は検証の為にも魔導学園に送られた。
 それ以外にも時折王家から依頼をされて希少素材を送るのに、魔封箱は常備しているのがプレーサマ辺境伯という事だ。

「チマチマ送るのが大変でな、今回みたいなことが早々あるとは思えんが、無いとも言えんだろう? だから転移陣で送れるギリギリの大きさの魔封箱を俺も作りたい」

 作りたいと言っているが、ヨーナスに魔道具を作れる能力は無い。作ってほしいという依頼だろう。
 まあこれだけ大きな丸太があれば、作れなくはないが、まずはヴィオ嬢に送るための箱を優先させてもらおう。

 ◆◇◆◇◆◇

 魔封箱が完成し、念のために鍵は三個で設定することにした。
 手紙には万が一の為に詳細は書いていないが、勇者がいれば意味を分かってもらえるだろうと思い《上中央:風、下左:聖、下右:氷》と籠める魔力だけを記載しておいた。



 魔封箱を同封した手紙を送って数日後、ヴィオ嬢から返信の手紙と共に魔封箱が戻ってきた。
 しっかりと鍵がかかったそれに自分の魔力を流せば、カチリと鍵の開く音がして蓋が開いた。

「ん? トンガ君たちの分だと言っていたが随分多いな」
「あれか、土竜の奴らも母ちゃんの知り合いだったんだろう? それで含まれているんじゃないのか?」

 隣から覗き込んでいるヨーナスの言葉に、ヴィオ嬢ならあり得ると思った。
 ヨーナスがまだ屋敷に滞在している理由は、魔封箱が完成していないからだ。あんな大きな箱を作るのは時間がかかる。そもそも丸太から切り出すのも大変なのだ。
 その箱は木工細工の店に依頼をしているのだが、それが完成する前にヴィオ嬢からの返信が来たという訳である。

「まずは手紙からだな」

《ドゥーア先生こんにちは。魔封箱ありがとうございます。
 チアキさんから説明を受けて、この魔封箱がとても安全で頑丈である事を知りました。安心してお守りを入れて送ることが出来ます、本当にありがとうございます。

 ――――それから、魔封箱に入っているお守りは各自のお名前が書いてあるので、お渡しいただけると嬉しいです。
 忙しい先生に何もかもお願いしてしまってごめんなさい。
 ブン先生やエミリンさんは、きっととっても遠慮するだろうから、お屋敷代表として先生には贈らせてくださいね。
 それから、一度しか会った事が無いのにとても心配して色々動いて下さったプレーサマ前辺境伯閣下にも作らせて頂きました。お貴族様に贈るのは何か駄目だったりするかもしれないので、先生に判断してもらえれば嬉しいです。お兄ちゃん達の分は――――》

 何故か手紙も一緒に覗き込んでいたヨーナス。
 もう自分の孫のようなつもりでいる事に笑いそうになるが、まさかヨーナスの分までお守りを? そして私の分まで?
 続きも気になるが、既に箱に気が行ってしまっているヨーナスのソワソワが私にも伝染したようだ。いや、嘘だな。私も魔道具が気になっている。

「見るか?」
「勿論だ」

 オットマールに頼んで箱の中身を出してもらう。
 一つ一つ小さな袋にお守りが入っているのが分かる。
『トンガお兄ちゃん』『ルンガお兄ちゃん』『クルトさん』『テリューさん』
 小さな袋に刺繍で名前が書いてある。
 苦手だと言っていた刺繍がこんなにも上手になっているとは、益々素敵なレディになっているようだ。

「おお、あったぞ」
「こちらは旦那様ですね」

『ダンブーリ・ドゥーア先生』『プレーサマ前辺境伯様』そう刺された袋を受け取る。
 コロンとした感触からリング状のものが入っていることが分かる。だが二つ?

「私から確認しても?」
「も、勿論だ。私は貰えると思っていなかったしな、うん」

 そう言いつつも、既に袋を開けかけていたヨーナス。慌てて袋を閉じて膝の上に置き直した。
 笑いそうになるが気持ちはわかる。私も巾着になっている袋を開き、中身を左手にそっと落とす。

「イヤーカフだね。二つという事は色変えではなかろうが、二種のお守りという事なのだろうか」
「旦那様、袋の中に用紙が入ってございますよ」

 袋を預けたオットマールに言われて小さな紙を受け取ると、お守りの詳細が書いてあった。

《右耳は浄化の効果を備えた身心を守る魔道具です。
 毒などを飲んだとしても体内で浄化されるので安心です。魅了魔法や洗脳などの危険な魔法からも身を守りますので、出来ればつけっぱなしにしてもらえると安心です。
 左耳は神様のおまじないのようなものです。
 先生のは文字をこの世界に作り出した女神チャルーンタです。様々な文字の理解が深まり、難解な文字も読めるようになる……かもしれません
 左右別の魔道具ですが、表側から見れば同じに見えるようにしています。なので聞かれたら神様の方の魔道具だっていえば大丈夫だという事でした》

「大丈夫だというのは、あれか? 勇者がそう言ったという事なのか?」
「そう、だろうね」

 そして、態々そう書いているという事は、かなり効果が高い魔道具になっているという事なのだろうね。文字の検証は今すぐにしたいけど、きっとヨーナスがもう待てそうにないか。
 ということで、ヨーナスの方も開けてみれば、入っているイヤーカフの見た目は同じ、右耳が浄化なのも同じで、左耳が違う神様だった。

「おぉ、俺のは、ええっと、情熱の神ヘルモーズ、勇気があり、情熱的な戦いの神様だから俺にピッタリだとよ。はっはっは、悪くないな」
「どんな効果があると?」

 嬉しそうに用紙を読んでいるが、私の物と同じような効果があるとしたらと気になって聞いてみる。

「おお、待て待て、何々――俊敏力が上がり、戦いの時に鼓舞することで仲間の勇気と基礎能力が……は?」
「――上がるという事か。そんな魔道具聞いたことないぞ」

 読みながら固まるヨーナスだが、思っていた以上の効果だな。
 ヨーナスの辺境伯という立場を考えてこの神を選んだという事は分かるが、これは凄いことだとヴィオ嬢は理解しているのだろうか。

「おいおい、国一番の錬金術講師がそんな事言うか?」
「大体にして、魔道具なんてものは結界の魔道具みたいな周囲を守るというものはあっても、こんな自分の身に着けるもので周辺に何か影響を与えるなんて普通は無理だ。どんな魔法陣を書けばそうなるのか私には分からんのだからな」

 そもそも、浄化の魔道具なんてものも初めて聞いた。こんなものは王家や高位貴族なら垂涎の魔道具ではないか。昨今の王家に対して暗殺者を仕掛けるようなものはいないとされているが、やはり権力の近くには危険がつきものである。
 毒を恐れることなく、魅了などの精神干渉の恐れもない魔道具など、そんなものが作れると知られれば、囲い込みをされることは必至だろう。

 ヨーナスも唯々喜んで良いものではないと気付いたのだろう。珍しく顔色を悪くしている。
 だが、ここに同席したのが運の尽きと思ってもらおう、王家にもこの魔道具については秘匿することになるからな。

「ヨーナスこれを」
「ううっ、同席した俺が悪かった。見なかった事にしたい」

 見せたのは巾着に刺された『フィルさん』という名前。
 平民のような気安い名前だが、この名を持つ人の本名はファイルヒェン・カイン・メネクセス、現メネクセス王国の国王陛下その人である。
 ヴィオ嬢の実父である事実を、この国では私とヨーナスだけが知っている。
 確かにあの方にこそこの浄化の魔道具は必要だろう。近々〔土竜の盾〕はこちらに来ると連絡があった。とんぼ返りをさせるのは申し訳ないが、彼らの分の魔道具もあるのだ。
 国王陛下に渡すこともきっと厭わないだろう。

 ヨーナスという心強い秘密仲間がいることは気持ちの上で非常に良い。この日に滞在してくれていた事に感謝しよう。
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