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種族を越えた愛情

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「ポーションを作ったその日のうちに全部使い切っちゃうなんて」

 新しい狩場に向かう前に立ち寄り、少しずつ集めた道具と機材で魔力回復のポーションを大量に作ったはずなのだが。空になった瓶をみて溜め息をつかずにはいられない。
 
 トライヴス国の討伐部隊が危機から持ち直したのを見届けたアンジェリカは、《キングマウンテンクラブ》の住処から歩いて2時間ほど移動した切り立った崖にある拠点へ来ていた。
 岩肌の切れ込みの奥の空洞は高所にあるため、崖上からロープ等を使って降りてくるか、空を飛ばなければ入ってくることができない。

 オニキスとの飛行中に見つけ、雨よけのために入って以来ここを冒険の拠点のひとつとしている。
 岩場なので中は涼しく、ポーションなどの材料の保管に適しているためだ。
 

「自分で作れるように設備投資しておいて良かった。買うと高いからね」
 

 それにしてもどうしたものか。
 材料を保管していた木箱の中を覗き込み、アンジェリカは肩を落とした。これではまた街に行って準備をやりなおさないといけない。そうすると新しい狩場に行くのも数日延期になるわけで。
 
 がっかりしているアンジェリカを慰めるように、オニキスがアンジェリカの後頭部に鼻を押しつけるようにしてすりついた。
 

「オニキス、今日は本当にお疲れ様」
 

 励ましてくれる相棒の頭を撫でる。今日の戦闘はオニキスがいてこそ成り立つ戦い方だった。
 
 この空洞にはオニキスも入ることができるが、まだまだオニキスは成長途中だ。数年も経たずにここへは入れなくなるだろう。
 そうなる前にオニキスも安心して過ごせる新しい拠点を見つけたいのだ。

 生まれたばかりの頃は懐に忍ばせたまま宿に泊まったりもしていたが、火を噴くことを覚えてからは火事を回避するために野宿するしかなくなった。

 この世界には竜だろうが構わず襲いかかってくるモンスターも多くいる。経験も少なく力も大人の竜と比べると弱い幼竜は、3歳になるまで親の庇護下で暮らすのが普通だ。
 
 人前に現れることも珍しいブラックドラゴン、それも幼竜なら人に狙われる可能性も高い。
 けれどもアンジェリカは人間で、冒険に必要な道具の買いつけなどでどうしても人里に下りる必要がある。その間、オニキスが無事でいるかが常に気がかりでならない。
 今は大きくなり多少は言うことを聞くようになって最初ほどの不安はないのだが、万が一オニキスがいなくなったらと思うと、考えただけで涙がでる。

 気持ちよさそうに金色の目を細めるオニキスを見つめながら、親とはこういう気持ちなのかと感慨深く思うのだった。

 
「ポーション用の瓶も材料もないし、明日はまた街に向かおうかな」


 友達もいない、仲間もいない。今のアンジェリカが心を許せる唯一の相手は、このファイヤーブラックドラゴンだ。

 オニキスと安心して暮らせる場所がほしい。そのためには自分も生きなければならない。
 急がずにしっかり睡眠をとり、準備を万全に整えることが近道なのだと言い聞かせながら、アンジェリカはオニキスと早々に休むことにした。
 


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