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イビルエグゼキュタ

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 周囲の温度が急激に下がるかのような錯覚を覚え、アンジェリカははっと顔を上げた。モンスターが放つ魔力を感知するとそのように感じるのだが、はっきりと感知できるということはそれだけ高い魔力をもつモンスターだということ。つまり、強敵が現れる前兆だ。
 
 温度をなくしたかのように感情が伺えないウォルターの視線の先を辿るように林の奥を注視する。

 カタン、カタン、カタン、と軽い木の板どうしがぶつかるような音をだしながら闇を纏って現れたのは、この森の死神と呼ばれる中級ボス、《イビルエグゼキュタ》だ。

 苔のマントを着た木製の骸骨のような姿、ボサボサの長い髪のようにみえる蔦がモンスターというよりも幽霊のようにみえることから、死神と呼ばれるようになった。
 カタンカタンという音は、首が壊れた人形のように頭が左右に倒れたときに鳴っている。
 腰を丸めた老人のような姿勢のためあまり大きくは見えないが、全長3メートルほどはあるだろう。

 このモンスターは人間の血が流れたところに出現し、生死問わず血を流した者を執拗に追いかけて捕まえ血を吸う。逆をいえば、血を流さなければ遭遇することはほぼない。

 おぞましい魔力を纏う《イビルエグゼキュタ》は左右に揺れながらゆったりとした動きながらも真っ直ぐにウォルターに向かってくる。
 それから目を離さずにすくりと立ち上がって長剣を握り締めたウォルターに続いてアンジェリカも構える。
 周囲に他のモンスターの気配もなく、ビリビリとした緊張が走った。

 先に動いたのは《イビルエグゼキュタ》だ。ビュッと風を切りながら枝のような片腕が伸びた。
 ガキン! とそれを長剣で弾いたウォルターだが、その音はまるで岩でも弾いたかのように重くて固い。

 地面を蹴ってウォルターが距離を詰めていくのにあわせ、アンジェリカは身体強化の魔法をかける。

 《イビルエグゼキュタ》は血を流した者のみを攻撃してくるが、攻撃範囲が広いので一切気は抜けない。

 両腕を伸ばしたかと思えば回転を始めたので這いつくばるようにして回避する。
 一瞬にして半径20メートルの範囲にあった木々が木っ端微塵に吹っ飛ぶ。
 
 同じく回避していたウォルターは攻撃が止んだ瞬間に反撃に転じたが、寸前のところで飛び上がるようにして後方に下がった。
 ウォルターが立っていた地面から巨大な円錐状の土の塊が飛び出したのだ。


「くそ……やっぱり簡単にはいかねぇな」
 

 忌々しげに舌打ちをするウォルター。
 《イビルエグゼキュタ》が中級ボスに指定されている理由は、その倒しづらさにある。
 遠距離攻撃、近距離攻撃ともに得意とし、敵を一切近づけない反射速度と感知能力をもつ。
 さらに魔法攻撃が無効という、中級ボスにしては厄介なモンスターだ。

 けれどもなぜエリアボスとして指定されていないかと言うと、防御力が低く攻撃さえ当たれば簡単に倒せるからだ。
 

「悪い、もう少し戦わせてくれ」


 こいつを相手にするには人数で押しきるしかない。撤退を提案しようと考えていたアンジェリカは、ウォルターの言葉に眉をひそめた。
 

 

 
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