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窮地
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ウォルターの顔は伺えないが、その声には感情を押し殺したような切羽詰まった響きがあった。
理由を問うべきか。けれどもそんな暇はない。
「わかりました、ですが無理だと判断したらすぐに撤退しますよ」
「ん、ありがとう」
得策ではないと非難を込めた言葉に、ウォルターは苦笑まじりに礼を述べた。
けれども、アンジェリカも試してみたい戦法があった。大量の魔力を消費するが、そのために用意してきた魔力回復のポーションがある。
この森に入るなら《イビルエグゼキュタ》を倒すための戦略は必須だ。
「ウォルターさん」
「ん」
「お好きなように戦ってくださって構いません。全力で支援します」
ウォルターが動いてくれるなら、そこまで魔力を使わなくてすむかもしれない。
そう思って伝えた言葉に、ウォルターは驚きを含んだ顔で振り向いた。
「ははっ! 心強すぎだろ、おまえ」
ウォルターはすぐに視線を戻したが、それまでの張り詰めたような雰囲気は崩れ、いつもの穏やかな余裕が戻ったように感じた。
「お言葉に甘えて、暴れさせてもらうか――な!!」
勢いよく加速したウォルターは《イビルエグゼキュタ》の前に踊りでた。
それを見て身体強化の魔法をかけ直してから、アンジェリカも討伐のための呪文を唱える。
「ブリンク(分身」
唱えた瞬間にアンジェリカの姿を模した白い靄が2体現れる。
完璧な分身をつくることはできるが、今はその精巧さは必要ない。
白い靄を《イビルエグゼキュタ》を中心に三角形になるように移動させる。
「ホーリーアロー」
ウォルターが攻撃を仕掛ける前に逆の位置から魔法攻撃で《イビルエグゼキュタ》の気を逸らす作戦だ。
僅かに《イビルエグゼキュタ》の反応が遅れて一瞬隙が生まれる。
そこを見逃さずにウォルターは斬り込むが、寸前のところで防御されてしまった。
「だああ! 惜しい!」
反動で吹き飛んだウォルターは空中で体を回転させて地面に着地した。
「まだまだァ!」
ウォルターはアンジェリカとの連携をとりながら果敢に挑むが、決定打を与えることができない。《イビルエグゼキュタ》の反応速度が高すぎるのだ。
疲労が蓄積されウォルターは肩で息をするようになった。アンジェリカも数十本は魔力回復薬を飲んだ。
もう引くべきだ。《イビルエグゼキュタ》は森の外までは追ってこないが、途中遭遇するモンスターを避けながらイビルエグゼキュタの攻撃を躱し逃げきるだけの体力が必要だ。
「ウォルターさ――」
諦める気配が全くないウォルターを呼び止めようとした瞬間、ウォルターは攻撃を弾かれて吹き飛び木の幹に激突した。
それを逃さないと言わんばかりに《イビルエグゼキュタ》の腕が高速で伸びる。
「グングニルッッ!」
叫ぶように放った光の槍を《イビルエグゼキュタ》は高速回転をして消し飛ばした。魔力を込める時間がなかったせいであまり威力がでなかったが、ウォルターに攻撃が向かうのは阻止できた。
しかし邪魔だと判断されたのだろう、《イビルエグゼキュタ》はアンジェリカに向かって魔法攻撃を仕掛けた。
地面が隆起し円錐状の棘がアンジェリカの足元から突き刺すように飛び出す。連続で飛び出してくる棘を回避するのに精一杯で迫りくる《イビルエグゼキュタ》の手に反応が遅れた。
モンスターとの戦いは一瞬の気の迷いや見落としが仇となる。
「っ……!」
回避したものの、右脇腹にチリッとした痛みが走る。反射的にそこを抑えつつ《イビルエグゼキュタ》から距離をとる。
まずい、血を流してしまった。
《イビルエグゼキュタ》の赤い目がアンジェリカを捉える。標的に加わってしまった。
「アンジェリカ! 先に逃げろ!」
ウォルターの叫び声が聞こえる。
木の幹に体をうちつけたウォルターは怪我をしているはず。逃げるにしろまずそれを回復させなければならない。いや、ポーションを飲んで魔力回復が先か。
選択とタイミングを間違えれば待ち受けているのは死。その重責から冷や汗が滲む。
理由を問うべきか。けれどもそんな暇はない。
「わかりました、ですが無理だと判断したらすぐに撤退しますよ」
「ん、ありがとう」
得策ではないと非難を込めた言葉に、ウォルターは苦笑まじりに礼を述べた。
けれども、アンジェリカも試してみたい戦法があった。大量の魔力を消費するが、そのために用意してきた魔力回復のポーションがある。
この森に入るなら《イビルエグゼキュタ》を倒すための戦略は必須だ。
「ウォルターさん」
「ん」
「お好きなように戦ってくださって構いません。全力で支援します」
ウォルターが動いてくれるなら、そこまで魔力を使わなくてすむかもしれない。
そう思って伝えた言葉に、ウォルターは驚きを含んだ顔で振り向いた。
「ははっ! 心強すぎだろ、おまえ」
ウォルターはすぐに視線を戻したが、それまでの張り詰めたような雰囲気は崩れ、いつもの穏やかな余裕が戻ったように感じた。
「お言葉に甘えて、暴れさせてもらうか――な!!」
勢いよく加速したウォルターは《イビルエグゼキュタ》の前に踊りでた。
それを見て身体強化の魔法をかけ直してから、アンジェリカも討伐のための呪文を唱える。
「ブリンク(分身」
唱えた瞬間にアンジェリカの姿を模した白い靄が2体現れる。
完璧な分身をつくることはできるが、今はその精巧さは必要ない。
白い靄を《イビルエグゼキュタ》を中心に三角形になるように移動させる。
「ホーリーアロー」
ウォルターが攻撃を仕掛ける前に逆の位置から魔法攻撃で《イビルエグゼキュタ》の気を逸らす作戦だ。
僅かに《イビルエグゼキュタ》の反応が遅れて一瞬隙が生まれる。
そこを見逃さずにウォルターは斬り込むが、寸前のところで防御されてしまった。
「だああ! 惜しい!」
反動で吹き飛んだウォルターは空中で体を回転させて地面に着地した。
「まだまだァ!」
ウォルターはアンジェリカとの連携をとりながら果敢に挑むが、決定打を与えることができない。《イビルエグゼキュタ》の反応速度が高すぎるのだ。
疲労が蓄積されウォルターは肩で息をするようになった。アンジェリカも数十本は魔力回復薬を飲んだ。
もう引くべきだ。《イビルエグゼキュタ》は森の外までは追ってこないが、途中遭遇するモンスターを避けながらイビルエグゼキュタの攻撃を躱し逃げきるだけの体力が必要だ。
「ウォルターさ――」
諦める気配が全くないウォルターを呼び止めようとした瞬間、ウォルターは攻撃を弾かれて吹き飛び木の幹に激突した。
それを逃さないと言わんばかりに《イビルエグゼキュタ》の腕が高速で伸びる。
「グングニルッッ!」
叫ぶように放った光の槍を《イビルエグゼキュタ》は高速回転をして消し飛ばした。魔力を込める時間がなかったせいであまり威力がでなかったが、ウォルターに攻撃が向かうのは阻止できた。
しかし邪魔だと判断されたのだろう、《イビルエグゼキュタ》はアンジェリカに向かって魔法攻撃を仕掛けた。
地面が隆起し円錐状の棘がアンジェリカの足元から突き刺すように飛び出す。連続で飛び出してくる棘を回避するのに精一杯で迫りくる《イビルエグゼキュタ》の手に反応が遅れた。
モンスターとの戦いは一瞬の気の迷いや見落としが仇となる。
「っ……!」
回避したものの、右脇腹にチリッとした痛みが走る。反射的にそこを抑えつつ《イビルエグゼキュタ》から距離をとる。
まずい、血を流してしまった。
《イビルエグゼキュタ》の赤い目がアンジェリカを捉える。標的に加わってしまった。
「アンジェリカ! 先に逃げろ!」
ウォルターの叫び声が聞こえる。
木の幹に体をうちつけたウォルターは怪我をしているはず。逃げるにしろまずそれを回復させなければならない。いや、ポーションを飲んで魔力回復が先か。
選択とタイミングを間違えれば待ち受けているのは死。その重責から冷や汗が滲む。
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