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誓い 【終】
ゆっくりと内側から開かれる扉の先には赤いビロードの絨毯がまっすぐに祭壇まで続いている。
それを挟んで並ぶたくさんの着飾った参列者に見守られながら、パトリシアはゆっくりと足を進めた。
正しく純白の花嫁であるパトリシアの美しい出で立ちに息を飲む参列者には目もくれず、パトリシアが見つめるのは祭壇の前で待つ愛しい者の姿だ。
そしてその者もパトリシアだけを見つめている。特別に誂えた白いタキシードに身を包むロシュディはいつも以上に輝いて見えた。
す、と差し出された腕に手を添わせて数秒視線を合わせる。穏やかな湖面のような青灰色の目がとびきり甘く細められてパトリシアの胸がきゅんと痺れた。
息をあわせて祭壇に向き直り、厳かな雰囲気の中で婚礼の儀が始まる。
夫婦の契りを交わし、互いの指に結婚指輪を嵌め、パトリシアのヴェールがめくられた。
聞こえるのは自分の胸の高鳴りだけ。あまりの幸福感に目頭が熱くなってしまう。
向かい合ったロシュディの視線がパトリシアの唇に向けられ。
これから始まる王宮での生活に不安や恐れがないとは言いきれない。
けれども、最愛の人の傍にいられるのならばどんなことでも乗り越えていけると信じている。そして、どんなことがあってもこの愛しい人を守っていこうと誓った。
様々な思いを胸にパトリシアはそっと目を閉じる。
誰にもこの幸せを奪わせない。ロシュディ様も、家族も、国も、全て守ってみせるわ。
祝福を告げる鐘の音が鳴り響き、数羽の白い鳥が澄み渡る空に舞い上がった。――どこまでも高く、遠く。
時は流れ、“白の魔道士”だった女は“純白の王妃”として世に名を広め、強力な聖属性魔法で自国を守るだけに留まらずその力をもって他国とも友好を築いた。
その傍らには常に国王が寄り添っていた。稀代の愛妻家で王妃以外には目もくれないことで有名だったが、政治的な手腕も評価される賢王であった。
2人の間には2人の王女と3人の王子が生まれ、末永くオージェ国に安泰と繁栄をもたらした。
[完]
最後までご高覧いただきましてありがとうございました。
見切り発車で書き始めた小説でしたが、想像を超えるたくさんのご評価をいただけたこと、本当に嬉しく思います。無事書き終えることができたのは皆様の応援のおかげです。
次ページから後日談といいますか、おまけ的な話を掲載する予定です。
そちらもお楽しみいただければと思います。
別の作品でも皆様のお目に触れられる機会がありますように。それでは、また。
R3.9.20
赤藤杏子
それを挟んで並ぶたくさんの着飾った参列者に見守られながら、パトリシアはゆっくりと足を進めた。
正しく純白の花嫁であるパトリシアの美しい出で立ちに息を飲む参列者には目もくれず、パトリシアが見つめるのは祭壇の前で待つ愛しい者の姿だ。
そしてその者もパトリシアだけを見つめている。特別に誂えた白いタキシードに身を包むロシュディはいつも以上に輝いて見えた。
す、と差し出された腕に手を添わせて数秒視線を合わせる。穏やかな湖面のような青灰色の目がとびきり甘く細められてパトリシアの胸がきゅんと痺れた。
息をあわせて祭壇に向き直り、厳かな雰囲気の中で婚礼の儀が始まる。
夫婦の契りを交わし、互いの指に結婚指輪を嵌め、パトリシアのヴェールがめくられた。
聞こえるのは自分の胸の高鳴りだけ。あまりの幸福感に目頭が熱くなってしまう。
向かい合ったロシュディの視線がパトリシアの唇に向けられ。
これから始まる王宮での生活に不安や恐れがないとは言いきれない。
けれども、最愛の人の傍にいられるのならばどんなことでも乗り越えていけると信じている。そして、どんなことがあってもこの愛しい人を守っていこうと誓った。
様々な思いを胸にパトリシアはそっと目を閉じる。
誰にもこの幸せを奪わせない。ロシュディ様も、家族も、国も、全て守ってみせるわ。
祝福を告げる鐘の音が鳴り響き、数羽の白い鳥が澄み渡る空に舞い上がった。――どこまでも高く、遠く。
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赤藤杏子
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