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247 名前

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「「「ん~~~……」」」

 夕食を終え、メフィストを抱えながらソファーでのんびり寛いでいると、床に敷いたラグの上でハルトが何やら難しい顔でペンを走らせていた。
 その周りでレティちゃんとユウマも顔を突き合わせ、同じ様に難しい顔をしている。

「ん? ハルトたちは何をしてるんだ?」

 体を拭き終えたトーマスさんがダイニングへとやって来るが、うんうんと唸っている三人の様子を見て何事かと首を傾げている。

「いや、僕も知らなくて……」
「さっきから三人で相談中みたいよ?」
「相談?」

 オリビアさんはニコニコしながら何してるのかしらね~? と優雅に紅茶を飲んでいる。どうやらハルトたちが何をしていても可愛いらしい。

《 みんなしんけん! 》
《 だって、とってもだいじなことだもの! ね~? めふぃすと~! 》
「あ~ぃ!」

 僕の肩に乗るノアと、僕の腕に抱えられたメフィストを可愛がる妖精さんの話を聞いてそちらにちらりと顔を向けると、ラグの上では他の妖精さん達がソワソワしながらハルトたち三人を見つめている。
 
「皆、何してるの?」

 気になって後ろから覗き込むと、ハルトの持つ紙一面に文字? らしきものが書いてある。

「それ何?」
「ようせいさんの、おなまえです!」
「みんなで、かんがえてるの」
「おなまぇつけりゅの! ね~!」
《 《 《 ねぇ~! 》 》 》

 ユウマと一緒に楽しそうに首を傾ける妖精さん達。
 だから皆、あんなに難しい顔をしてたのか……! なるほど納得。
 ちょっとふにゃりとした文字だけど、紙には三人で一生懸命考えた名前がたくさん書いてある。

「名前かぁ~……。どんなの考えたの?」
「う~?」

 確かにノア以外はまだあだ名付けてないもんなぁ~……。
 僕の顔を見つめるメフィストの手をふにふにと握りながら、紙に書いてある名前の候補を見てみると……、

「わぁ~! たくさん考えてるね!」
「「「うん!」」」

 紙にはメルやリンクなんて言う可愛い名前から、アレクサンダーやマキシミリアンなんて言う強そうな名前も……。これは多分、ハルトが考えたんじゃないかな……。

《 ぼく、はるとにえらんでほしぃなぁ~ 》
「ぼく、ですか?」
《 うん! 》

 透き通った様に綺麗なみどり色の瞳を持つ妖精さんは、どうやら仲良しのハルトに名前を付けてほしいらしい。もじもじと手を弄りながら、ハルトをジッと見上げている。その愛らしい仕草に、後ろのソファーから唸る声が二人分、聞こえてくる。

《 わたしは、れてぃにつけてほしいな…… 》
「わたし?」
《 うん! 》

 レティちゃんに名前を付けてほしいとお願いするのは、きらきらと水の膜を張った様に潤んだ青色の瞳を持った妖精さん。頬をほんのり赤く染めながら、レティちゃんの指を握っている。その愛らしい仕草に、後ろからは以下略……。

《 ゆうま、ぼくのおなまえつけて~! 》
「ゆぅくんちゅけていぃの~?」
《 うん! いぃよ~! 》

 ユウマにお願いしているのは、太陽みたいに明るいオレンジがかった黄色い瞳を持つ妖精さん。他の子たちよりもほんの少し甘えん坊だ。ユウマの膝に手を置いて、ぴょんぴょんと跳ねている。その愛らしい仕草に、以下略……。

 ノアはみんなたのしそうだと笑っているけど、三人は妖精さん達にそう言われ、責任重大だと一層難しい表情を浮かべている。
 
「おにぃちゃんは、のあちゃんのなまえきめたとき、どうやってきめたの?」
「僕? そうだなぁ~、あの時は色々考えたんだけど、浮かんだ名前がイメージにピッタリだったから……、かな?」
「いめーじ?」
「うん。"ノア"って名前の、柔らかい響きがいいかなって」
「「「なるほど~」」」
《 えへへ~! 》

 ノアは僕の肩に座りながら、照れた様に足をぶらぶら揺らして笑っている。あの頃はこんな風に話せなかったから、身振り手振りでコミュニケーションを取ってたもんなぁ~。すごく懐かしく感じるよ。

「あらあら、なぁに? 皆楽しそうね?」
「はい! ハルトたちが妖精さん達の名前を考えてたんです」
「名前を? ノアと同じ様にか?」

 オリビアさんとトーマスさんも覗きに来て、結局家族全員でラグの上に腰を下ろす。オリビアさんとトーマスさんは、ハルトたちが考えた名前を見て感心しきり。
 一体どんな名前になるんだろうと見守っていると、

「「「あっ!」」」

 突然三人が同時に声を上げた。
 
「ん? 皆、どうしたの?」
「おなまえ、おもいつきました!」
「わたしも……!」
「ゆぅくんも~!」
《 《 《 ほんと~? 》 》 》

 妖精さん達は待ちきれない様子でハルトたちを見上げている。

「皆、考えた名前、私たちにも教えてくれる?」
「おじいちゃんも聞きたいな」
「はい!」

 元気よく頷き、ハルトたちは妖精さんの方を向いた。

「ぼくが、かんがえたおなまえは、りゅかくん!」
《 ~~~~っ! 》

 どうですか? とハルトがそう訊ねると、妖精さんは羽をパタパタとはためかせながらすっくと立ちあがる。

《 ぼく……、りゅか! うれしいっ! 》

 満面の笑みを浮かべ、リュカと名付けられた妖精さんはうれしい、ありがとうと言いながらハルトの頬にぎゅうっと抱き着いた。ハルトも名前を気に入ってもらえてホッとしている様だ。
 そして次は……、

「えっとね? わたしがかんがえたなまえは、にこら……!」
《 ~~~~っ! 》

 どうかな? と、レティちゃんがそう言ってふんわりと微笑むと、ニコラと名付けられた妖精さんは瞳をウルウルと潤ませながらレティちゃんに抱き着いた。

《 わたし、にこら……! すてきななまえ! 》

 うれしいうれしい、とレティちゃんの頬に抱き着いている。レティちゃんも嬉しそうに、これからよろしくね? と笑顔を浮かべていた。

「あのねぇ、ゆぅくんかんがえたの! ておくん!」
《 ~~~~っ! 》

 ておくん、どぅ? と妖精さんの顔色を窺っているユウマ。気に入ってくれるかどうか、心配そうだ。

《 ぼくのおなまえ、てお! やったぁ~っ! 》

 テオと名付けられた妖精さんは、ゆうま、ありがとう~! と大はしゃぎで飛び回り、最後にはユウマの頬に抱き着いていた。はしゃぐその姿を見て安心したのか、ゆぅくんもうれち! とユウマもにっこにこだ。

《 いいなぁ~…… 》

 ポソリと呟いたその声は、メフィストを可愛がっている妖精さん。確かに、一人だけ名前が無いと寂しいよね。

《 わたしも、めふぃすとにつけてほしい…… 》
「う~?」

 僕の腕の中にいるメフィストを見つめながら、でもまだあかちゃんだもんね、と妖精さんは優しい手つきでメフィストの頬を撫でている。
 すると、それを見ていたハルトが紙を差し出しこう言った。

「ん~……、ぼくたちがかんがえたおなまえ、めふぃくんに、えらんでもらいますか?」
「メフィストに?」
「うん!」

 ハルトが提案したのは、先程まで三人が難しい顔をして考えていた名前の候補の中から、メフィストに気に入った名前を選んでもらおうというもの。確かに、可愛らしい名前も候補にはあったけど……。
 
《 めふぃすと、えらんでくれるかなぁ? 》
「うん! きっとだいじょうぶ!」

 ハルトたちは、僕が抱えるメフィストに近付いて頭を優しく撫で始めた。

「めふぃくん、ようせいさんのなまえ、えらんでくれる?」
「あ~ぃ!」
「じゃあ、じゅんばんにいうね?」

 レティちゃんが書かれた名前を一つずつ読み上げていく。妖精さんも僕も、メフィストの反応を見逃すまいとジッとメフィストを見つめる。

「──はんな、みあ、める、りんく……」

 レティちゃんが読み上げる名前に、メフィストは反応せず……。これはダメかなぁ? と諦めムードが漂い始めた。だけど、レティちゃんは黙々と名前を読み上げていく。

「ろーじー、りりあーな……」
「あ~ぃ!」
「え?」
《 はんのうした? 》

 諦めていたからか、メフィストの声に全員が驚いてしまう。妖精さんも食い入るようにメフィストの様子を見つめている。

「ろーじー……」
「……」
「りりあーな……」
「あ~ぃ!」

 メフィストは読み上げたその名前に反応し、笑みを浮かべて手を叩いている。

「めふぃくん、"りりあーな"が、きにいったの?」
「あぃ!」
「ふふ、だって。りりあーなちゃん」
《 ~~~~っ! 》

 レティちゃんの言葉に、炎の様に赤い眼を持つ妖精さんはその目を細めメフィストに抱き着いた。

《 りりあーな……! とってもすてき! 》
「あ~ぃ!」

 頬にスリスリと抱き着くリリアーナちゃんを見て、メフィストはきゃっきゃと上機嫌だ。

「ふふ。皆の名前、もう一度教えてくれるかしら?」
「そうだな。ちゃんと覚えておきたいからな。もう一度聞かせてくれるかい?」

 オリビアさんとトーマスさんの言葉に、妖精さん達は皆、満面の笑みを浮かべて頷いた。

《 ぼくは、りゅか! かぜまほうがとくいだよ~! 》
《 わたしは、にこら~! みずのまほう、つかえるの! 》
《 ぼくのおなまえは、てお! つちで、なんでもつくれるよ! 》
《 わたしはりりあーな! ひをあやつるの! なんでももやしてあげる! 》

 リリアーナちゃんの自己紹介はちょっと物騒だったけど、皆名前を付けてもらえて嬉しそうにはしゃいでいる。

「よろこんでもらえて、うれしいです!」
「これで、もっとなかよくなれるね?」
「ゆぅくん、みんなのおなまえよべりゅの、うれち!」
「きゃ~ぃ!」

 ハルトたちも妖精さん達が名前を気に入ってくれて、ホッとしている様だ。

《 おなまえ、うれし~! 》
《 わたしたちのなまえ、きまったの! 》
《 おしえにいかなきゃ~! 》

 ん? 教えるって、誰に? そう聞こうとしたところで、窓からこつんと音がした。ふと顔を上げると、そこにはこちらを覗く梟さんの姿が……。

「あら、どうしたのかしら?」
「ふくろうしゃん、どうちたの~?」

 トーマスさんが僕の後ろで、まさかなぁ、と呟いた。
 オリビアさんとユウマが窓をそっと開けると、梟さんがこちらをジッと見つめている。そしてヒョイと家の中に上がると、ひょこひょことこちらに向かって歩いてくる。その姿はどこかユーモアがあって和んでしまう。

「梟さん、こんばんは。中に入るのは珍しいですね? どうしたんですか?」

 僕が尋ねると、梟さんは目をゆっくりと瞬いた。


《 お前たちだけズルい……。ユイト、私にも名前を付けてくれ 》

「え?」


 ホォーと一鳴きし、梟さんは拗ねた様にその場で目を瞑る。これには、名前を付けてくれるまで帰らないという梟さんの確固たる意志を感じる……。
 あ、後ろからトーマスさんの呆れた様な溜息が聞こえる……。

《 あと、威厳のある、格好いい名前がいい…… 》

 梟さんは片目をチラリと開けて、僕に要望を伝えてきた。
 
「ふくろうさん、あまえんぼうです……」
「おにぃちゃん、おなまえ、かんがえてあげて……」
「ふくろうしゃん、にぃにだぃちゅきなの」
「あぅ~」

 ハルトたちにもお願いされ、僕はこの日、梟さんの名前を決めるまで寝れなかった……。

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