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358 ユイトのお料理教室 ~試食編②~
しおりを挟む※本日、二度目の更新です。
「あぁ~……、このプルンとした食感、癖になりそうです……」
「このダシマキと言うのも、とっても優しいお味で美味しいわ」
「ん! このスープ、とろみがあって温まるな!」
サラダを食べ終え、今は出汁を使った料理を試食中。
いつもの食事は静かに食べるそうだけど、今日は試食会。感想は今後の為に必要だとお願いし、一品ずつメモしていく。
「こちらの料理は全て昆布と鰹の出汁を使用しています。海の食材ですが、乾燥させているので海のないこの国でも口にする事が可能です。ポタージュやトマトスープとはまた違った風味で味に深みが出ると思うのですが、お口に合いましたか?」
「えぇ、とっても!」
「繊細なお味で美味しかったわ」
「この出汁は、また別の料理でも使用しているので楽しみにしていてくださいね」
出汁は概ね高評価。だけど少量ずつ出しているせいか、バージル陛下とレオナルド殿下は少し物足りなさそうだ。
だけどこれも想定内。
「あら、これも美味しそう」
「この細いパスタは初めて見ますね」
「うぅ……、ペペローネ……」
侍女さんたちが空いた皿を下げ、入れ替わりに並べていったのは三種類のパスタ料理。
ハワードさんの牧場で作っているモッツァレラチーズを使ったトマトクリームパスタに、アイヴィーさんたちのお店で購入した乾燥パスタを使用した蒸し鶏とキャベツのペペロンチーノ。それに見た目も鮮やかなナポリタン。
レオナルド殿下だけはナポリタンに入ったピーマンを見て何とも言えない表情を浮かべている。
こんなに表情に出して大丈夫なのかと、些か不安になるが……。
「こちらはモッツァレラチーズを主役にしたトマトクリームパスタです。チーズ単品でも濃厚で美味しいのですが、今回はトマトの酸味と一緒にお楽しみ頂ければと」
「これがイーサンが言っていたチーズね?」
「はい! 加えるだけで見た目もパッと華やかになりますし、味もイーサンさんの保証済みです!」
「ふふ、それは楽しみだわ!」
自分の名前が出たのに驚いたのか、イーサンさんは目をパチクリとさせて僕とリディアさんを見やる。ルイス殿下も興味深げにパスタを観察中だ。
「そしてこちらがにんにくと輪切りの唐辛子の風味を効かせたペペロンチーノです。匂いが気になると思いますので、今回はガーリクを控えめにしています」
「こちらは随分と細長いけれど……。食べ辛くないのかしら?」
「ニョッキやマカロニとはまた違うんですが、これもパスタの一種です。細くても弾力はしっかりしていますし、フォークに一口で食べ切れる分をくるくると巻き付けてお召し上がりください。食べにくければスプーンを支えにして頂ければ食べやすいかと」
今回は蒸し鶏とキャベジを入れたけど、アスパラガスや魚介類を入れてもいいと伝えると、視界の端でブルーノさんたちがメモしているのが薄っすらと確認出来た。
「そしてこちらがナポリタンと言うパスタ料理です。トマトクリームパスタとはまた違い、トマトソースで炒めるのですが、見ての通りペペローネやオニオンもたっぷりと入っています。野菜が苦手でもほんのりと甘味を感じて食べやすいかと思いますので、レオナルド殿下もお召し上がり頂ければ!」
「う、うむ……」
「兄上! とてもいい匂いです!」
「先程のサラダは食べれたでしょう? これも大丈夫では?」
「し、しかしだな……。ペペローネは苦いだろう……?」
「「兄上……」」
その言葉に溜息が重なるルイス殿下とライアンくん。だけど三人のその光景を見ていたバージル陛下たちは笑みを浮かべ楽しそうだ。
「このチーズとトマトソース、とっても相性がいいわ……!」
「ん~! 私はガーリクがもっと効いてても好きだなぁ」
「──……! ペペローネが、美味しい……!」
「良かったですね、兄上!」
段々と賑やかになっているこの食堂内。……と言っても、話しているのはバージル陛下たちと僕だけで、他の料理人さんたちや侍女さんたちは黙々とメモを取ったり料理を運んでいる。
イーサンさんはそんな僕たちを見て笑みを浮かべ、まるで見守ってくれている様で心強い。
「次はピザと言う料理です。まずはソーヤソースを使用した炙り焼きチキンのピザ。そして先程のパスタにもありました、モッツァレラチーズを使用したマルゲリータです。本来は丸い生地のまま八等分程に切り込みを入れてお客様にお出ししているのですが、他の料理もあるので今回は一切れずつお出ししていきます」
「この匂いは堪らないわ……!」
「早く食べましょう……!」
リディアさんとルイス殿下は、とろけたチーズの香ばしい匂いにうっとりとした表情を浮かべている。それを見てライアンくんもにこにこと嬉しそう。
「これは以前、バージル陛下たちにも召し上がって頂いたのですが、特にフレッドさんが気に入ってくれてたんですよ!」
「……あ! そうです! フレッドが美味しいと驚いて、耳と尻尾を出してしまったんです……!」
「あら、そうだったの?」
「ホォ~、珍しい事もあるものだな」
ライアンくんの言葉に、レイチェル妃殿下たちの視線が一斉に後ろに控えているフレッドさんの元へと注がれる。
若干プルプルしている様な気もするけど、後で怒られそうだから今は目を合わせない様にしよう……。
「ん~……! このおソース、本当に何にでも合うのね……」
「このモッツァレラも、食材はほとんど同じなのに先程のパスタとはまた違った美味しさですね」
「フレッドが驚くのも分かる気がするな!」
「確かに」
リディアさんとレイチェル妃殿下はどうやって食べるのかと困惑していたけど、バージル陛下とライアンくんの食べ方を真似て、少し照れながらも楽しそう。手掴みはパン以外ではあまりしないらしい。
バージル陛下とレオナルド殿下は、やはりここでも物足りなさそうだ。
「さて、続いての料理なのですが……。こちらは肉と、今回孤児院への支援物資にも取り入れてもらった米という穀物がメインとなります」
テーブルの上にずらりと並べられたのは、鶏の唐揚げとお好みで選んでもらえる数種類の漬けダレソース。
カビーアさんから購入したスパイスを使った骨付きフライドチキンに、とろっとろになるまで煮込んだ豚の角煮。
これを見たバージル陛下とレオナルド殿下はゴクリと喉を鳴らしている。
そしてトマトソースをかけたふわふわ卵のオムライスに、ケルプとボニートの出汁で作った親子丼。ガッツリ目のカツ丼に、トロトロ熱々の餡かけレタス炒飯。
お腹にも優しいお粥に、具材を変えられる卵雑炊だ。
そしてそんなラインナップの中に、ひっそりと一緒に置かれている二つの料理。それを見たバージル陛下とライアンくんがくふふと笑いを堪えているのが見えた。
「リディアさんとレイチェル妃殿下が楽しみにされているデザートはもう少し後になる予定ですので、無理せずにお召し上がりください」
「孤児院への物資なら確認しないといけないわね?」
「そうですね。子供たちが安心して食べれるものでないと」
そう言ってリディアさんとレイチェル妃殿下は小皿に盛り付けた米料理に手を付ける。お二人ともふわふわのオムライスにソワソワしている。
「私はこのフライドチキンというのが気になるな」
「兄上もですか? 私も先程から気になって……」
レオナルド殿下とルイス殿下は、二人仲良く二種類のフライドチキンを手に取った。スパイスの香りにお腹を刺激された様だ。
「あとコレは?」
「私も気になっていたの。これもお肉なのかしら?」
ルイス殿下とレイチェル妃殿下は、例の小皿を眺めている。
「そちらも大変美味しいと評判なんです! でも今まで一人だけしか正解した事はないんですよ!」
「まぁ! 面白そうね!」
「一人だけ? 私も当てたいな……!」
そう! 今まで当てた事があるのはダニエルくんだけ!
後は皆、惜しいところまではいったんだけどね?
「もうバージル陛下とライアンくんは知っていますもんね」
「はい! とても美味しいんですよ!」
「正解を知った時は驚いたな~!」
それを聞いて、バージル陛下とライアンくん以外はやる気に火が点いた様だ。正解させると意気込んでいる。後ろに控えていた料理長のトゥバルトさんたちはハラハラとしていたけど。
皆一斉に頬張ると、これは何だろうと首を傾げたり、目を瞑ってじっくりと味わっている。
「ふふ、皆様、答えは出そうですか?」
真剣に答えを当てようと考えている姿に、僕たちと変わらないなと自然と笑みが零れてしまう。ライアンくんも楽しそうでそれも嬉しい要因だ。
「ん~、鶏肉……? 魔物か……?」
「お味もとっても美味しいけれど……。今まで口にした事はないかしら……」
「食感も初めて……、な気がします……」
なかなか答えが出ない様で、う~んと首を傾げながら一口、二口とどんどん手を伸ばしている。この様子なら味には問題ない様だ。
後ろではコレを作ったブルーノさんが先程からソワソワと落ち着かない。ナタリーさんに腕を抓られているのが目に入ってしまった……。
「ふふ。皆様、降参ですか?」
「う~……! いや、私の答えはコカトリス……!」
「コカトリス……? ならば私は……、グリフォンで……!」
「兄上たち? どれも高ランクの魔物ではないですか……! そんなに頻繁には手に入りませんよ?」
「それもそうだな……」
「私としたことが……。うっかりしていました……」
う~んとお二人が頭を悩ませたところでついに降参。
「では、正解を発表したいと思います! ……答えは……!」
「「答えは……?」」
「……鶏の内臓ですっ!!」
「「ハァ!?」」
思わず出たと慌てて口を押さえるルイス殿下に、ポカンと口を開けたまま放心状態のレオナルド殿下。
そして、そんなお二人の姿を見ていたバージル陛下はと言うと、
「ハハハ! 二人にも分からない物があったんだな! 父は安心したぞ!」
そう満足そうに笑い、レイチェル妃殿下に声が大きいと叱られていた。
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