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⑫告白−2(R−15)
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(蓮治の馬鹿はどうものんびりして抜けているところがあるから、使用人を先に逃がしてうっかり逃げ遅れるかもしれない。そんで火に囲まれて二進も三進も行かなくなって、さてどうしようかなんて暢気に考え出しても不思議はねぇ。心配性の癖に、てめぇが俺に心配かけてどうするんだっての)
蓮治の馬鹿、無事でいろ、さっさと逃げてろよ、と心の中で必死に願いながら通りを駆け抜け、しかし途中で逃げてくる人波に飲まれてどうにも進めなくなった。
『友達がいるんだ、通してくれ!』
そう叫ぶ信乃を押し退け、殴り付け、人々は止めた。
『馬鹿を言うな、死ぬつもりか!』
『邪魔だ退け退け!』
『一緒に死にてぇのか!』
口々に怒鳴られてうるせぇと怒鳴り返した。
『俺は助けに行くんだ、死にに行くんじゃねえ!』
けれど小柄な信乃は圧倒的な人の数に揉みくちゃにされて、脚を挫いて行き着く事が出来なかった。
悔しさと己の無力に対する憤りと心配と腹立ちと、色んな感情に蒼白な顔付きで日々を悶々と過ごす信乃の前に蓮治は常と変らぬ様子でふらりと現れた。
『店がすっかり焼けてしまったよ』
参った、と穏やかに話す蓮治の顔を信乃は物も言わずに殴り付けた。
『無事なら無事とさっさと報せろ! 俺がどれだけ心配したと――』
『……ごめん』
蓮治は信乃が火の中に飛び込もうとした事も知らずに、ただ心配を掛けてしまった事を謝った。
信乃も結局は行けなかった自分を恥じて一言も話さなかったので、今もその事を蓮治は知らず仕舞いでいる。
「火事の時は地下に造った蔵に土を掛け、その後で位牌だけを掴んで逃げたんだがこれはずっと帯に挟んでいたからね。その点、君に最初に作って貰った硯箱は燃えてしまって残念だったよ」
「もっと大事なものも、高価なものもあったろうが」
「いやそうでもないさ。後から惜しかったと思ったのはそれだけだもの」
「はっ、これだからお坊ちゃんは」
火事の後でも再建出来るほどの財力があるから、と吐き捨てつつ信乃は胸の中がくすぐったかった。
もっと上手な作品は幾らだってその後に作ったが、最初に売ったものを惜しんで貰えるのは嬉しかった。
才能があるだなんて褒め言葉よりもずっとずっと嬉しかった。
「お前のは棗の後でな」
信乃はそんな言い方で蓮治にも作ってやる約束をした。
ところで何しにやってきたんだ、と邪魔そうに言われて蓮治は弁当を差し出した。
「昼間は誰も手が空かなかったから、わたしが届けに来たんだよ」
「だから小僧にでも届けさせろっての」
「うちではわたしが一番の暇人でね」
「……どうしようもねぇな」
そんな筈は無いと知っていながら信乃は嘆息を吐いた。
(やはりこの男の心配性は度を越している)
ああ、鬱陶しい、と立ち上がろうとして足が滑った。蓮治の膝をぐいと足裏で押してしまった。
「……っ!」
途端に信乃はある感触を思い出して顔を赤く染めた。
「信乃?」
「何でも、ない」
信乃は顔を隠すように立ち上がって水を取りに行った。
(布地越しの火傷しそうな熱さを思い出しちまった。あの、濡れた感触が忘れられない)
腕を拘束され、無理矢理に前を扱かれた。
足を掴まれて、慶太郎のブツを擦り付けられた。
(それからあいつは口で俺の陰茎の先端に舌を――)
「信乃? 具合でも悪いのか?」
心配する蓮治の前で信乃は背中を向けたまま首を振った。
その背中のなだらかな線が、俯いた項を滑る髪が、後ろから眺める蓮治の目に妙に艶めかしく映った。
(暫く人肌に触れていないからこんな気持ちになるんだ)
ついつい彦十朗を避けていた事を蓮治は悔やんだ。
やはり外で発散させてからでないと、彼に近寄るのは危険なようだ。
「信乃、悪いが用事を思い出した。一人でもちゃんと食事を摂るんだよ」
「子ども扱いするな」
振り返らないまま素っ気なく答えた信乃を気にせずに、蓮治はそそくさと帰って行った。
信乃は一人になるとズルズルとその場に座り込んだ。
(師匠を超えられるまで、あの事は考えない。一旦、忘れようって決めたじゃねぇか)
なのに信乃は事ある毎に思い出しては身体を熱くした。
だってあんな風に誰かに求められたのは初めてだったのだ。
自分の身体なんかを欲に塗れた目で見つめて、形を変えるのに興奮して、あまつさえ美味しそうに啜ったのだ。
(俺なんかの、身体を……)
信乃はギュッと目を閉じてそろそろと着物の合わせに手を伸ばした。
裾を割り、下帯を緩めて褌の脇から指を入れた。
既に勃ち上がりかけたそれは先端を疼かせている。
(ここに、細筆がズルズルと入っていった)
信乃は自らの爪先をぐりぐりと小さな穴に食い込ませてみた。痛みと同時に強烈な刺激を感じ、クッと唇を噛む。
ぷっくりと盛り上がってきた水滴を塗り込めるように指先をクチクチと動かし、暫く小さな穴を弄っていたがやがて耐えられなくなり布を解いて大きく擦り始めた。
(気持ちいい。けれどあの内側から灼かれるような熱さが無くてちょっとだけ物足りない)
「くっ、ぁ……」
低く微かな声を漏らしながらも、信乃は物足りなさに身悶えして爪先で床を蹴り眉間に皺を刻んだ。
(違う。これじゃなくて)
慶太郎の手の動きや口の中を思い出しながらその感触を追った。そして欲を吐き出して、信乃は乱れた着物のまま寝転がって手足を床に投げ出した。
(畜生、それどころじゃないってのに……)
いい歳をして情欲に憑り付かれるとはなんという体たらくだ、と己に嫌気が差す。
「恨むぜ、慶太郎」
信乃は忌々しげに呟いて、脳裏に浮かぶその面影を消そうと両目を腕で覆って目を閉じた。
蓮治の馬鹿、無事でいろ、さっさと逃げてろよ、と心の中で必死に願いながら通りを駆け抜け、しかし途中で逃げてくる人波に飲まれてどうにも進めなくなった。
『友達がいるんだ、通してくれ!』
そう叫ぶ信乃を押し退け、殴り付け、人々は止めた。
『馬鹿を言うな、死ぬつもりか!』
『邪魔だ退け退け!』
『一緒に死にてぇのか!』
口々に怒鳴られてうるせぇと怒鳴り返した。
『俺は助けに行くんだ、死にに行くんじゃねえ!』
けれど小柄な信乃は圧倒的な人の数に揉みくちゃにされて、脚を挫いて行き着く事が出来なかった。
悔しさと己の無力に対する憤りと心配と腹立ちと、色んな感情に蒼白な顔付きで日々を悶々と過ごす信乃の前に蓮治は常と変らぬ様子でふらりと現れた。
『店がすっかり焼けてしまったよ』
参った、と穏やかに話す蓮治の顔を信乃は物も言わずに殴り付けた。
『無事なら無事とさっさと報せろ! 俺がどれだけ心配したと――』
『……ごめん』
蓮治は信乃が火の中に飛び込もうとした事も知らずに、ただ心配を掛けてしまった事を謝った。
信乃も結局は行けなかった自分を恥じて一言も話さなかったので、今もその事を蓮治は知らず仕舞いでいる。
「火事の時は地下に造った蔵に土を掛け、その後で位牌だけを掴んで逃げたんだがこれはずっと帯に挟んでいたからね。その点、君に最初に作って貰った硯箱は燃えてしまって残念だったよ」
「もっと大事なものも、高価なものもあったろうが」
「いやそうでもないさ。後から惜しかったと思ったのはそれだけだもの」
「はっ、これだからお坊ちゃんは」
火事の後でも再建出来るほどの財力があるから、と吐き捨てつつ信乃は胸の中がくすぐったかった。
もっと上手な作品は幾らだってその後に作ったが、最初に売ったものを惜しんで貰えるのは嬉しかった。
才能があるだなんて褒め言葉よりもずっとずっと嬉しかった。
「お前のは棗の後でな」
信乃はそんな言い方で蓮治にも作ってやる約束をした。
ところで何しにやってきたんだ、と邪魔そうに言われて蓮治は弁当を差し出した。
「昼間は誰も手が空かなかったから、わたしが届けに来たんだよ」
「だから小僧にでも届けさせろっての」
「うちではわたしが一番の暇人でね」
「……どうしようもねぇな」
そんな筈は無いと知っていながら信乃は嘆息を吐いた。
(やはりこの男の心配性は度を越している)
ああ、鬱陶しい、と立ち上がろうとして足が滑った。蓮治の膝をぐいと足裏で押してしまった。
「……っ!」
途端に信乃はある感触を思い出して顔を赤く染めた。
「信乃?」
「何でも、ない」
信乃は顔を隠すように立ち上がって水を取りに行った。
(布地越しの火傷しそうな熱さを思い出しちまった。あの、濡れた感触が忘れられない)
腕を拘束され、無理矢理に前を扱かれた。
足を掴まれて、慶太郎のブツを擦り付けられた。
(それからあいつは口で俺の陰茎の先端に舌を――)
「信乃? 具合でも悪いのか?」
心配する蓮治の前で信乃は背中を向けたまま首を振った。
その背中のなだらかな線が、俯いた項を滑る髪が、後ろから眺める蓮治の目に妙に艶めかしく映った。
(暫く人肌に触れていないからこんな気持ちになるんだ)
ついつい彦十朗を避けていた事を蓮治は悔やんだ。
やはり外で発散させてからでないと、彼に近寄るのは危険なようだ。
「信乃、悪いが用事を思い出した。一人でもちゃんと食事を摂るんだよ」
「子ども扱いするな」
振り返らないまま素っ気なく答えた信乃を気にせずに、蓮治はそそくさと帰って行った。
信乃は一人になるとズルズルとその場に座り込んだ。
(師匠を超えられるまで、あの事は考えない。一旦、忘れようって決めたじゃねぇか)
なのに信乃は事ある毎に思い出しては身体を熱くした。
だってあんな風に誰かに求められたのは初めてだったのだ。
自分の身体なんかを欲に塗れた目で見つめて、形を変えるのに興奮して、あまつさえ美味しそうに啜ったのだ。
(俺なんかの、身体を……)
信乃はギュッと目を閉じてそろそろと着物の合わせに手を伸ばした。
裾を割り、下帯を緩めて褌の脇から指を入れた。
既に勃ち上がりかけたそれは先端を疼かせている。
(ここに、細筆がズルズルと入っていった)
信乃は自らの爪先をぐりぐりと小さな穴に食い込ませてみた。痛みと同時に強烈な刺激を感じ、クッと唇を噛む。
ぷっくりと盛り上がってきた水滴を塗り込めるように指先をクチクチと動かし、暫く小さな穴を弄っていたがやがて耐えられなくなり布を解いて大きく擦り始めた。
(気持ちいい。けれどあの内側から灼かれるような熱さが無くてちょっとだけ物足りない)
「くっ、ぁ……」
低く微かな声を漏らしながらも、信乃は物足りなさに身悶えして爪先で床を蹴り眉間に皺を刻んだ。
(違う。これじゃなくて)
慶太郎の手の動きや口の中を思い出しながらその感触を追った。そして欲を吐き出して、信乃は乱れた着物のまま寝転がって手足を床に投げ出した。
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