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本編
12.空が代わりに泣いている
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本番には少し早いけど、今日はカフェ・アロマでのささやかなクリスマスパーティー。
参加メンバーはいつもの常連のみで、作戦にはうってつけだった。
「シュトーレンとか激甘で信じらんねぇよな」
ブツブツと文句を言いつつ皿に盛り付ける志貴に、燕司が肩先に顎を乗せて甘やかすように言う。
「志貴さん用にはアルコールたっぷり、砂糖抜きのを別に作ってあるからね」
「それってシュトーレンじゃねぇじゃん」
「それを言うなら本当は当日じゃなく、クリスマスを心待ちにして、毎日一切れずつ食べていくものなんだよ?」
「そういうまどろっこしいのって、死ぬほど嫌い」
「知ってる」
相変わらずの会話を繰り広げる二人を見ない振りで、理央は奏太とチキンを盛り付けている。
「この恐竜みたいに大きい七面鳥の周りに、さらにチキン・レッグを盛り付けろって、本当にいいの?」
「残ったら翌日、サンドイッチにでもすればいい」
「それはえんちゃんにお任せだな。俺は食べるの専門だもの」
「いっぱい食べろ」
おおらかに言われて、理央はクスクスと笑う。
親にすら言われたことのない言葉が新鮮だった。
そこに小さな竜巻が飛び込んでくる。
「見てみてー。僕の力作ぅー」
小鞠が飛び込んでくるやいなや、テーブルに小さなものをバラバラバラッとぶちまけた。
「うわ、何っ!?」
理央が吃驚して身を折り、その小さなものを拾い上げた。
「わぁ、可愛い。天使に猫に雪だるまに……サンタ?」
「そう。マジパンで作ってるんだよ。可愛いでしょう?」
「うん、すっごく可愛い」
きゃあきゃあと二人で騒いでいる様子の方がずっと可愛い、と奏太とアダルトチームは思った。そしてタイミングよく洸が大きなケーキの箱を手に現れた。
「昔っからお願いしてる近所のケーキ屋さんで特注したんだ。これならきっと志貴さんも食べられるよ」
「おい、本当だろうな。俺だけケーキが喰えないとか悲しいからね? 泣くからね?」
「泣いてる君も可愛いよ」
「こう死ね」
志貴が笑顔のままさらりと酷い言葉を言ったが、燕司は反応せずに温めていたパイの様子を見に行った。
その姿を志貴と奏太と理央は目の端に納めたが、当の本人である洸はまるで気にしない。ごく自然にケーキを涼しい場所へと置きに行った。
「やっぱり、こんなの――」
口をへの字に曲げた理央に、奏太はそっと志貴を指し示した。
見てみれば、彼も苦々しげな表情を浮かべている。いつも飄々とした態度を崩さない彼にしては、珍しく本心が漏れている。
「信じて、後は祈るしかない」
奏太の言葉に、志貴は胸を押さえながらこくりと頷いた。
宴もたけなわになり、理央がすっくと立ち上がった。背の高い青年だけに、真っ直ぐ立つと目立って、皆の注目が集まる。
「あの、廉さんからご依頼を戴きまして、勝手になんだとは思ったんですけど――」
「志貴さんへプレゼントだそうです」
理央の言葉を引き取って奏太が説明した。そして二人で三十センチくらいの箱を志貴の目の前に恭しく置いた。
「どうぞ」
「お、なになにー?」
志貴は最初はちょっと吃驚して言葉を失くしたものの、直ぐにいつもの調子で子供のようにウキウキと箱を開いた。
中の人形が現れた途端、志貴が零れそうに目を見開いた。
吸い寄せられてしまって自分の意思ではどうしても離す事が出来ない。そんな魅入られたかのような瞳から、ぽろぽろと涙が零れた。
「し、志貴さんっ!?」
驚く皆の前で、志貴は幾つもの涙を零した。
「れん……」
志貴は、滅多に口にしない恋人の名前をぽつりと零した。
指先が震え、人形の頬へそっと頬を重ねる。
そのまま、声にならない嗚咽が、静かに漏れた。
その様子を見て燕司が自分の胸を苦しそうにぎゅっと握り締めた。
洸は燕司の様子を窺うようにじっと見ている。
志貴は涙を流しながらも微笑んで、泣き笑いのクシャクシャな表情を曝した。
そしてそんな姿に耐えられなくなった燕司が、店を飛び出して行った。その後を素早く洸が追う。
「これで……良かったのかな?」
燕司の辛そうな様子に胸を痛めながら、理央は奏太を振り仰いだ。
自分ならばきっと立ち直れない。
間違っていたのかと迷う理央に、奏太は力強く頷き、揺るぎない口調で言う。
「自分を信じられないなら、自分の作った人形の力を信じろ。あれにはそれだけの力がある」
そう言って志貴が抱きしめる廉の人形に目をやった。理央も釣られてそちらを見て、一つ頷いた。
理央は今回、自分が志貴を想う気持ちではなく、志貴が廉を想う気持ちを人形に映した。
それはきっと、見る人の心に届く。
そう思える出来だった。
理央は満足気に廉の人形を眺め、それからふと、隣で微笑む奏太を見上げる。
彼はいつも自分のことを考えてくれて優しい。でもそれだけが彼の全てなの? ううん、そんな筈はないよね。
じゃあ、どうしたら本当の姿が見えてくる?
俺は彼の本当の姿が知りたい。その為に、俺に出来ること――そんなの決まってる。俺は人形作家だ。作ることでしか語れない。
理央は奏太の為だけの、特別な人形を作ることにした。
静かに決意した理央の横から、ハートがふわふわと飛んでくる。
「理央さんってば、神様だったんだね」
黙って見ていた小鞠がぽつりと呟き、理央は過分な称賛に恐縮して俯いた。
その顔が真っ赤に染まっているのを見て、小鞠の心がドキリと跳ねる。
わぁ、なんて可愛い人だろう。年上だけど、僕よりもずっと背の高い人だけれど、でもとってもとっても可愛い。
まさか小鞠のハートを射止めたとは夢にも思わない理央だった。
***
外はまるで燕司の代わりに泣いているように、霙混じりの雪が降り出していた。
壊れたトタン屋根の影に蹲り、燕司は膝に顔を伏せて震えていた。
その姿はまるで、帰る場所を見失った野良猫のようだった。
キュッ、と雪が鳴る。
ふいにその足音が近づいて、燕司の前に誰かが立つ。
顔を上げた燕司の視界に、憎いはずの男の姿が滲んだ。
「――洸」
「見つけた」
雪の中、二人の時間が、静かに動き始める。
参加メンバーはいつもの常連のみで、作戦にはうってつけだった。
「シュトーレンとか激甘で信じらんねぇよな」
ブツブツと文句を言いつつ皿に盛り付ける志貴に、燕司が肩先に顎を乗せて甘やかすように言う。
「志貴さん用にはアルコールたっぷり、砂糖抜きのを別に作ってあるからね」
「それってシュトーレンじゃねぇじゃん」
「それを言うなら本当は当日じゃなく、クリスマスを心待ちにして、毎日一切れずつ食べていくものなんだよ?」
「そういうまどろっこしいのって、死ぬほど嫌い」
「知ってる」
相変わらずの会話を繰り広げる二人を見ない振りで、理央は奏太とチキンを盛り付けている。
「この恐竜みたいに大きい七面鳥の周りに、さらにチキン・レッグを盛り付けろって、本当にいいの?」
「残ったら翌日、サンドイッチにでもすればいい」
「それはえんちゃんにお任せだな。俺は食べるの専門だもの」
「いっぱい食べろ」
おおらかに言われて、理央はクスクスと笑う。
親にすら言われたことのない言葉が新鮮だった。
そこに小さな竜巻が飛び込んでくる。
「見てみてー。僕の力作ぅー」
小鞠が飛び込んでくるやいなや、テーブルに小さなものをバラバラバラッとぶちまけた。
「うわ、何っ!?」
理央が吃驚して身を折り、その小さなものを拾い上げた。
「わぁ、可愛い。天使に猫に雪だるまに……サンタ?」
「そう。マジパンで作ってるんだよ。可愛いでしょう?」
「うん、すっごく可愛い」
きゃあきゃあと二人で騒いでいる様子の方がずっと可愛い、と奏太とアダルトチームは思った。そしてタイミングよく洸が大きなケーキの箱を手に現れた。
「昔っからお願いしてる近所のケーキ屋さんで特注したんだ。これならきっと志貴さんも食べられるよ」
「おい、本当だろうな。俺だけケーキが喰えないとか悲しいからね? 泣くからね?」
「泣いてる君も可愛いよ」
「こう死ね」
志貴が笑顔のままさらりと酷い言葉を言ったが、燕司は反応せずに温めていたパイの様子を見に行った。
その姿を志貴と奏太と理央は目の端に納めたが、当の本人である洸はまるで気にしない。ごく自然にケーキを涼しい場所へと置きに行った。
「やっぱり、こんなの――」
口をへの字に曲げた理央に、奏太はそっと志貴を指し示した。
見てみれば、彼も苦々しげな表情を浮かべている。いつも飄々とした態度を崩さない彼にしては、珍しく本心が漏れている。
「信じて、後は祈るしかない」
奏太の言葉に、志貴は胸を押さえながらこくりと頷いた。
宴もたけなわになり、理央がすっくと立ち上がった。背の高い青年だけに、真っ直ぐ立つと目立って、皆の注目が集まる。
「あの、廉さんからご依頼を戴きまして、勝手になんだとは思ったんですけど――」
「志貴さんへプレゼントだそうです」
理央の言葉を引き取って奏太が説明した。そして二人で三十センチくらいの箱を志貴の目の前に恭しく置いた。
「どうぞ」
「お、なになにー?」
志貴は最初はちょっと吃驚して言葉を失くしたものの、直ぐにいつもの調子で子供のようにウキウキと箱を開いた。
中の人形が現れた途端、志貴が零れそうに目を見開いた。
吸い寄せられてしまって自分の意思ではどうしても離す事が出来ない。そんな魅入られたかのような瞳から、ぽろぽろと涙が零れた。
「し、志貴さんっ!?」
驚く皆の前で、志貴は幾つもの涙を零した。
「れん……」
志貴は、滅多に口にしない恋人の名前をぽつりと零した。
指先が震え、人形の頬へそっと頬を重ねる。
そのまま、声にならない嗚咽が、静かに漏れた。
その様子を見て燕司が自分の胸を苦しそうにぎゅっと握り締めた。
洸は燕司の様子を窺うようにじっと見ている。
志貴は涙を流しながらも微笑んで、泣き笑いのクシャクシャな表情を曝した。
そしてそんな姿に耐えられなくなった燕司が、店を飛び出して行った。その後を素早く洸が追う。
「これで……良かったのかな?」
燕司の辛そうな様子に胸を痛めながら、理央は奏太を振り仰いだ。
自分ならばきっと立ち直れない。
間違っていたのかと迷う理央に、奏太は力強く頷き、揺るぎない口調で言う。
「自分を信じられないなら、自分の作った人形の力を信じろ。あれにはそれだけの力がある」
そう言って志貴が抱きしめる廉の人形に目をやった。理央も釣られてそちらを見て、一つ頷いた。
理央は今回、自分が志貴を想う気持ちではなく、志貴が廉を想う気持ちを人形に映した。
それはきっと、見る人の心に届く。
そう思える出来だった。
理央は満足気に廉の人形を眺め、それからふと、隣で微笑む奏太を見上げる。
彼はいつも自分のことを考えてくれて優しい。でもそれだけが彼の全てなの? ううん、そんな筈はないよね。
じゃあ、どうしたら本当の姿が見えてくる?
俺は彼の本当の姿が知りたい。その為に、俺に出来ること――そんなの決まってる。俺は人形作家だ。作ることでしか語れない。
理央は奏太の為だけの、特別な人形を作ることにした。
静かに決意した理央の横から、ハートがふわふわと飛んでくる。
「理央さんってば、神様だったんだね」
黙って見ていた小鞠がぽつりと呟き、理央は過分な称賛に恐縮して俯いた。
その顔が真っ赤に染まっているのを見て、小鞠の心がドキリと跳ねる。
わぁ、なんて可愛い人だろう。年上だけど、僕よりもずっと背の高い人だけれど、でもとってもとっても可愛い。
まさか小鞠のハートを射止めたとは夢にも思わない理央だった。
***
外はまるで燕司の代わりに泣いているように、霙混じりの雪が降り出していた。
壊れたトタン屋根の影に蹲り、燕司は膝に顔を伏せて震えていた。
その姿はまるで、帰る場所を見失った野良猫のようだった。
キュッ、と雪が鳴る。
ふいにその足音が近づいて、燕司の前に誰かが立つ。
顔を上げた燕司の視界に、憎いはずの男の姿が滲んだ。
「――洸」
「見つけた」
雪の中、二人の時間が、静かに動き始める。
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