情熱のカフェ・アロマ~甘くほろ苦い恋とコーヒーの群像劇~

海野ことり

文字の大きさ
23 / 42
本編

CoffeeBreak6.万里

しおりを挟む
 クリスマスパーティーを開いた夜、廉から電話が掛かってきた。

「廉! お前、よく電話を掛けられたな。あと、理央からお前の人形を貰った。それがすっごく本物みたいで、いや本物より格好良くて――」
「あー、ちょっと落ち着きなさいよ。こっちは皆寝てるんだからさ」
「あ……ごめん」
 志貴は慌てて声を顰めた。きっと廉は相当な無理をして電話を掛けてきてくれてるのだろう。もしかしたら皆には隠れてこっそりと掛けているのかもしれない。見付かったら切られてしまうのかもしれない。
 それは困る。久し振りの廉の声を少しでも聴いていたい。
「それで本物より格好良いって、どういう事かな? ん?」
 わざと怒った声を出しながら、楽しそうに笑う声が漏れてしまう。そんな廉の声に胸を甘ったるく疼かせながら志貴は答える。

「廉がね、俺を想ってる時の顔だったんだ」
「……それは、恥ずかしいな」
 優秀過ぎる、と戸惑う廉に、今度は志貴がクスクスと笑う。
「絶対に知ってる筈はないんだけど、でもそうなんだよ。お前が心の中で『愛してる・愛してる』って囁きながら俺の名前を呼ぶのが聴こえるようで、少し泣けた」
「志貴……」
 僅かな時間、雄弁な沈黙が落ちる。そして――

「ん? もしかして、君の泣き顔を他の奴らに見られたのかい?」
「え? あー、どうかな」
 嫉妬深い恋人の心情を慮って志貴ははぐらかしにかかる。
「俺の、泣き顔……」
 独占欲丸出しの、それはそれは嫌そうな声で呻いた廉に志貴は嘆息を返した。
「あのさ、お前を思って流した涙だぜ? 寧ろ嫌なもん見せちまったなって――」
 言いながら、走り去った燕司を思い出した。
 燕司に想われている事は知っていた。けれど自分には廉以外ありえない。
 どれだけ彼の不在が淋しくても、他の人が代わりになると考えた事は一度も無い。

「嫌な訳ないだろう。君の泣き顔は世界一色っぽくて可愛い」
「お前馬鹿だろう……」
 いや知ってたけどよ。
 うんざりしてたら低く囁かれた。
「想像しただけで、滾る程に君の泣き顔は可愛い」
「……れん」
 無駄にイイ声で囁きやがって。もっと泣かせて欲しいなんて思っちまうだろ。
 でもまあ、ここはノッておくか。

「どうやって、泣かせてくれる?」
「そうだな、まだ硬い後ろを押し開こうか? それとも君には与えないで、ずっと奉仕して貰おうか」
「口で?」
「口とその柔らかい手のひらで」
 チュッ、と受話器からリップ音が聞こえてきて心臓が跳ねた。
 わざわざ自分の掌にでも口付けたらしい。エロい奴め。
「キス……欲しいな」
「どこに?」
「俺も手のひらと、指を舐められて、手首を濡らされて……ん、我慢出来ない」
 そう言うと志貴は自分の手をボトムの中に忍ばせた。
「…………志貴?」
「だって、お前の舌の感触を思い出しちまったら、我慢出来ねえもん。どこもかしこも舐められたい……」
 志貴は「ほぅっ」と色付いた吐息を漏らした。
 そんなものを電話越しに聴かされた廉は堪らない。
「俺だって君の全身を舐って味わいたい!お尻を高く掲げて強請る君の格好も拝みたいし」
「してやろっか」
「え?」
「全部脱いで、尻を上げて、お前に向かって広げようか?」
「……くそ、今度覚えてろよ」
「覚えてるうちに帰って来いよ」
 軽く返された言葉に廉はゴメンと謝りかけ、謝ったら怒られるのが分かっているので言葉を飲み込んだ。代わりにわざと下品な言葉を投げかける。
「帰ったら抜かずの三連発だ。泣いて嫌がるまでするからな」
「俺が本気で嫌がった事、あるか?」
「…………ない」
 ああ本当に敵わないなぁ、と廉は負けた気分で項垂れる。
「なあ、それより名前を呼んで?」
「え?」
「ほら、早く。指……さっきから入ってるんだけど」
「…………志貴、本当にそれ反則。頭がおかしくなりそうだ」
 抱きたくて、今直ぐに君の中に入りたくて、と泣き言を漏らした男に志貴は熱い吐息を返す。
「んっ……指、ナカで開いて…………擦ると、気持ちー……んだ。イケ、そう」
「くそっ! 志貴志貴志貴っ! お前に逢いたい」
「れん……すき」
 囁いて、志貴は小さく息詰まる声を聴かせてイッた。途端にガチャンと通話が切れて、志貴はくつくつと一人笑った。
 これで次に逢った時が楽しみだ、とほくそ笑む。そしてふと顔を上げ、ローキャビネットの上に載せて置いた人形に目を止める
『愛してる』『志貴、愛してる』
 廉が自分を呼ぶ声が確かに聴こえる。
「理央のやつ、天才だったんだなぁ……」
 一部にマニアックなファンの付いている有名な人形作家だという事は知っていた。
 けれど自分は人形に興味が無かったし、理央はまるで大作家先生らしいところがない控え目な子だったからすっかり忘れていた。
「奏太も大変だなぁ」
 まるきり他人事の口調で呟いて、飽かずに人形をじっと見詰める。
「でもさぁ、俺の手元にこれがあったら淋しくないだろうなんて、ちょっと浅はかってものだぜ。こんなの見てたら、益々切ないっての」
『愛してる』
 そのリフレインが愛しくて悲しい。
 身代わりしかいない事が、悲しくて切ない。
「いつかあいつらにも分かる日が来るかな」
 志貴はこつりと人形を指で突き、そしてベッドに引っ繰り返った。
「どうせなら、廉自身の形でも貰った方が嬉しかったね」
 嘯いて、先ほどまで弄っていたところに指を這わせた。
「お前が帰ってくるまで、準備して待ってるから」
 だから早く俺を埋めて。
 空白を、お前自身で埋めてくれ。
 志貴は物思いを振り払い、一人では広過ぎるベッドに爪先を滑らせた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...