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Side レオポルト(本編)

最終話 見つからない願い事と幸せの証明

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 事後、どうやら気を失ってしまったらしい俺が目を覚ましたのは、驚くことに翌日の夕方近くのことだった。

 心配してくれたのか、目覚めた時に妖精の緑ちゃんが俺の顔の前にいて、優しく頭を撫でてくれたけど、周囲にカイルの姿は見当たらなかった。当然、ロルフの気配もない。

 ぐったりしてベッドから動けない俺のため、部屋にきて世話を焼いてくれた侍女に尋ねてみると、カイルたちは早朝からどこかへ出かけたとのことだった。

 どこに行ったんだろう。カイルがいないと寂しくてたまらない。

 ションボリしながら待っていると、夜になって帰ってきたカイルから、俺は驚くべき話を聞かされることになった。

 どうやら俺、昨夜のセックスで理性や意識がぶっ飛んだ後、前世の記憶持ちであることやこの世界について書かれた本のこと、それを読んで知りえたこの先の未来についてなどを、すべて包み隠さずカイルに話してしまったらしい。俺がここしばらく元気がなかった理由についても、全部ぜーんぶ話したそうだ。

 そして、それを聞いたカイルは、今日一日で魔法大国ヴァルトーシュの王都を、ロルフと二人で完全制圧してきたと言う。

 驚きのあまり声も出ない俺に、あの国の問題が解決すれば俺たちが離れなきゃならない理由もなくなるんだよな、なんてことを、にっこり笑顔でカイルは言った。

「ロルフは聖獣だからな。人間が作った国一つ滅ぼすことなんて、赤子の手を捻るより簡単なことらしい。しかも、今回は王都を守る兵を殲滅するまでもなく、王城で王と王太子を捕らえれば事足りたから、本当に簡単だった」

 平民には手を出していないけれど、軍と近衛騎士たちにはボロ雑巾みたいになってもらったとかなんとか。

 ひ、ひえー。
 ヴァルトーシュの方々、ご愁傷様です!

 そういったヴァルトーシュでの出来事を、俺は真っ裸でカイルの膝の上に向かい合うように座らされ、尻穴奥の俺の結腸にカイルのエラの張った亀頭を何度もじゅぼじゅぼ出し入れされながら、気が狂いそうなほどの快感に絶叫しつつ、ボロボロ涙を流し、何度も吐精と空イキを繰り返しながら、痺れるような愉悦の渦の中で聞かされたのだった。

 最高に気持ち良かったけれど、昨日の今日で流石に力尽きた。

「それで? この先レオはどうしたいんだ?」

 散々愛し合った後のピロートークでいきなりそう問われ、なんのことだと俺が首を傾げると、カイルが詳しく説明してくれた。

「ヴァルトーシュの国王と王太子は殺しておいたから、あの国の民は取り合えずは圧政から解放された。レオが前世で読んだ予言の書によると、俺が次の王位につくんだよな? ただ、未来が変えられるってことも、既にこの世で証明されているだろう? レオは意地悪じゃないし、精霊王の加護も持ってる。俺にだってロルフがいるし、ヴァルトーシュの国王は今日死んだ。ってことは、未来は変えられるってことだ。俺たちの好きなように未来は作っていけるんだよ」
「う、うん? なんかよく分からないけど、そうなるのかな??」
「そう、だから聞いたんだ。レオはどうしたい? 俺にヴァルトーシュの王になってもらいたいか? その場合、レオにも付いてきてもらうことになるぞ。俺が王なら、レオには王妃の地位についてもらう」
「おっ、おおお、王妃ぃ?! 僕が??!! な、なんで?!」

 俺の驚きに対し、キョトンとした顔をカイルがする。

「当たり前だろう。ずっと一緒にいてくれるって言ったよな、八才の時に」
「そ、それはそうだけど」
「あの時に決めたんだ。絶対にレオを俺のお嫁さんにするって」
「そ、そうなの?!」
「だから精霊王にも願ったんだし。まあ、あの時はレオに止められたけど」
「う……あれ、本気だったんだ……」
「絶対にレオを他のヤツには渡さない。奪おうとするヤツがいたら……フフフフ」

 なんか怖い笑顔。カ、カイル?

 でも本当にいいのだろうか。
 だって、カイルはこれから学園に行き、そこで運命の伴侶である王女様に出会い、生涯忘れられない友となるヴァルトーシュの第二王子とも出会うことになる。そこに俺の入り込む余地はどこにもない――――筈なんだ。

 だからそう言うと、カイルは俺を愛おしそうに抱きしめた。

「俺は運命の伴侶にはとっくの昔に出会ってる。既にヴァルトーシュを手中に治めた今、あの国の王子と友達になる必要もない。で、どうしたい? レオが王になれと言うなら俺はなる。ならなくていいなら、ヴァルトーシュの王位は第二王子に譲り渡そうと思う。俺の親友になる筈だった男だ。そいつ、優秀なんだよな?」
「う、うん、それは間違いないよ」
「なら問題ない。それで? レオはどうしたいんだ。精霊王の加護があるから、レオがいればその土地は必ず栄える。レオはどっちを栄えさせたい? ヴァルトーシュか、それともこの侯爵家の領地か。全く別の土地に行き、一から自分たちの手で色々やってみるのもいいな。さあ、言ってみろよ。レオはどうしたいんだ?」
「ぼ、僕?」
「そうだ。レオが決めていい。レオに決めて欲しい。どうしたい? レオの望みはなんだ? 俺から離れるって選択以外なら、どんな願いでもかまわない」

 真剣な顔でそう問われ、俺は震える腕でカイルを抱きしめ返した。

「本当に僕が決めていいの? カイルの人生を僕が変えて本当にいいの?」
「いいよ。というより、俺の人生を変えていいのはレオだけだ。レオにだけ、レオになら、俺の人生を変えられてもいいんだ」

 俺の身体が男のわりに小さいから、大きなカイルの腕の中にすっぽりと納まってしまう。とても温かくて安心できて、世界中で一番好きな場所だ。

 この素敵な場所にずっといていいと、カイルが言ってくれている。そんな夢みたいなこと、本当にあっていいんだろうか? そんな幸せを、悪役の俺が手に入れて本当にいいんだろうか?

 前世ではあまり家族には恵まれなかった。お袋のことは大切に思ってたけど、結局は俺以外の一番を見つけて、その人と幸せになった。

 現世でも俺は家族愛には恵まれなかった。でもその代わり、大切に育ててくれる乳母がいたし、自分よりも大切に想えるカイルという尊敬と憧れの存在が、いつだって俺のそばにいてくれた。

 でもカイルは、いつかは俺とは別の人生を歩んでいくのだと思ってた。そうすることがカイルの幸せで、だから俺はその幸せを遠くからひっそりと祈りながら生きていこうと思っていた。

 そう、そう思っていたのに……。

 ああ、どうしよう、本当に?
 カイルが俺の……俺の家族になってくれると言ってくれている。
 ずっと一緒にいるって言ってくれている。
 こんなに幸せなことがあるだろうか。
 こんな夢みたいなことがあっていいんだろうか。

「カイル」
「ん? どうした?」

 俺の顔を覗き込むカイルの顔は、とても甘く優しい。

「僕、この領地でカイルと暮らしたい。カイルと、町の皆と一緒にこの領地をもっと豊かにして、皆が幸せに暮らせる土地にしたいよ」
「いいよ。最高だ、俺もそうしたいと思ってた」
「カイル、好きだよ。前世からずっとずっと大好きだ」
「俺もレオを愛してるよ。誰よりもなによりもレオが大切だ」

 いつの間にか泣きじゃくっていた俺に、カイルは優しいキスをたくさんしてくれた。額に、頬に、こめかみに、瞼に、鼻先に、唇に、蕩けるような甘いキスを何度も何度もしてくれたんだ。






 それから数週間後、王都の母からカイル宛てに手紙が届いた。
 想像していた通り、それは貴族の養子になる件について書かれたものだったけど、それをカイルはきっぱり断った。
 これにより、カイルが貴族子弟として王都の学園に入学するという、本来起こるべき本の展開は、完全に消えたことになる。


 ヴァルトーシュ王国については、我が国に留学中だった第二王子が帰国して、国王代理として政治手腕を揮っているらしい。近い内に即位するそうだ。

 カイルはこの第二王子や国政を司る貴族や文官に何度か会い、しっかりと釘を刺したらしい。国民を無駄に苦しめるような政治をまた行おうものなら、今度こそこの国をぶっ潰すと。

 カイルの後ろに控える聖獣ロルフの睨みが効いたのか、彼らは平伏し、必ず良い国にすると固く約束してくれたらしい。

 丸く収まったようで本当に良かった。
 なんだかんだ言ったって、あそこはカイルの父親の祖国なんだ。これから先、ヴァルトーシュ王国が国民に愛される良い国になってくれると嬉しいと思う。


 俺が前世の記憶を持っていることについて、どう思っているのかカイルに聞いてみた。

「特になにも思わないな」
「気味が悪いとか思わない?」
「前世の記憶があろうが、そこがこことは違う別の世界だろうが、俺にとってはレオはレオだ。ただ可愛くて愛おしいだけだよ」
「そ、そう……」

 赤くなった俺の頬に、カイルは微笑みながらキスしてくれる。

「ただ、予言の書の存在には驚いたな」
「正確には予言の書ってわけじゃないんだけど……」
「うん、なんだっていいんだ。それより、その書を読んだレオが、前世の頃から俺を好きだと思ってくれてたことが、俺にはすごく嬉しいことだった」
「カイル……」
「愛してるよ、レオ」
「僕も! 僕もカイルのこと愛してる!」
「もう俺のものだ」
『おい! お前たち、いい加減にせぬか!』

 ひしっと抱きしめ合った俺たちの前で、精霊王が表情のない顔に青筋を立てていた。

『いちゃつくだけならさっさと帰れ。ここは神聖な場所ぞ!』
「す、すみません、精霊王様!」
「少しくらい待ってくれてもいいだろう、せっかくいいところだったのに……」

 色々なことが解決をみた今、俺とカイルは何年か振りに妖精の森に入り、妖精の泉まで来ていた。ずっと保留になってた精霊王への願いを叶えてもらうために。

『それで、願いは決まったのか』

 そう問われ、俺とカイルは力強く頷いた。

「僕の望みはカイルの望みが全て叶うことです」
「俺の願いはレオを俺のものにすること。それだけだ!」
『それは嫁にするという意味か? ……うん? 以前会った時にまったく同じ会話をしたような……?』
「そ、そうなんですよねー……」

 俺が申し訳なさそうに言うと、精霊王が憮然とした顔をした。

『なんだ、お前たち。何年も待たせたあげく、結局は同じ願いなのか』
「人が人生でどうしても叶えたいと思う願いなんて、結局は一つくらいしかないんだよ。俺だってそうだ。何年たっても願いは一つ。レオを俺のものに、俺だけのものにしたい。無論、嫁という意味でだ!!」

 胸を張ってそう言ったカイルの隣で、俺は嬉しいやら恥ずかしいやらで赤面してしまったけれど、でも、カイルの言うことは本当だと思う。

 俺だって、昔も今もこれからも、願い事はたった一つだけ。カイルの願いが叶うこと。それだけが俺の望みなんだ。

「カイル大好き。絶対に幸せになってね。それが僕の本当の本当の願い事なんだから」
「レオがいてくれれば、俺はいつだって幸せに決まっている」
「カイル」
「レオ」
『あー、もうよい。分かった分かった。聖獣よ、お前もよくこんな連中に付き合っていられるな。いや、我が命じたせいか。苦労をかけるな』
『…………もう慣れましたゆえ』
『慣れさせたことを申し訳なく思う』

 死んだ顔になっているロルフに向かい、精霊王が労いと謝罪の言葉をかけた。次に俺たちに視線を移す。

『しかし、先ほどの願いであれば、既にお前たちは己の力で叶えておるではないか』
「そう言われてみれば」
「そうだな。もう叶ってるな」
『他に願いはないのか』

 俺とカイルは腕を組み、うーんと首を捻って考えた。
 精霊王にする他の願い事……カイルの幸せに関することで、他になにか他人に頼まなければならないことがあっただろうか。

 お金? 
 いや、ないと困るけど、特別たくさんカイルが欲しがるとは思えない。

 権力?
 それが欲しかったなら、ヴァルトーシュの王になっていただろう。

 うーん、分からない。カイルの幸せ、カイルの幸せ……。

 俺が唸りながら考えていると、カイルが言った。

「レオ、今度は俺のことじゃなく、自分自身の願いを考えろよ」
「僕の願いはカイルの幸せだよ。他には……うーん、なにも思いつかないなぁ」
「そんなレオだから俺は好きになったんだけどな。……はぁ、もう帰ろうか。早く二人きりになりたい」
『おい、お前、ふざけるなよ』

 精霊王から怒りの黒いオーラみたいなものが立ち上り始めた。このままではまずい。そう思った俺は、必死になって考えた。自分のこと。俺の幸せ、俺の願い――――――あっ!

「精霊王様! 僕、ありました! お願い事が見つかりました!」
『おお、そうか!』

 精霊王が嬉しそうな顔をした。ちょっと機嫌が直ったかなと、俺は胸を撫でおろす。

「自分勝手なお願い事で申し訳ないんですけど、いいでしょうか?」
『よい。むしろそれでいいのだ。かまわぬから早く言うてみよ』
「はい、あの、僕の願い事は『来世でもまたカイルに出会いたい』です」

 隣でカイルの顔が悦びに輝いた。対して精霊王は怪訝な顔をする。

『会えるだけでよいのか? もっとこう……なんだ、自分を好きになってもらいたいとか、また結ばれたいとか』
「それはいいんです。カイルの気持ちを僕が決めるわけにはいかないので。また好きになってもらえるよう自分で努力します。そのためにも、まずは出会わないと」

 と、そこまで言ったところで、俺はあることに気付き、焦ってカイルの方に振り向いた。

「あ、もしかしてカイルに迷惑なら、このお願いはやめるよ。勝手にこんなことお願いしようとしちゃってごめんなさい」
「レオ……レオポルト、心から愛してる。迷惑だなんて思うはずがない。大丈夫だ、絶対に俺もまたレオを好きになるから」
「嬉しい、ありがとう、カイル。来世でも好きになってもらえるよう、絶対にがんばるからね」

 見つめ合う俺とカイルを呆れたように見ながら、精霊王が大きなため息をついた。

『もうよい。さっさと帰れ。願いはおまえたちが死ぬ直前まで待ってやる。願いが来世のことならば、なにも急ぐ必要もなかろう。願いたいと望むことも、この先変わるやもしれぬしな。ともかく、いつでも好きな時に、次はしっかりと願いの内容を決めてから我を呼び出すように。分かったな』
「はいっ、ありがとうございます。もしも僕になにかあって、二度と精霊王様に会いに来れなかった場合、僕の願い事は『来世でのカイルとの再会』ってことにしてもらっていいですか?」
『うむ、問題あるまい』
「良かった。カイルは? 今お願いしたいことはない?」
「俺が今一番願うことは、早く館に戻ってレオと二人きりに――――」
『とっとと帰れ!!』
「冗談だ。俺も一応頼んでおく。俺の願いは『来世、レオと同じ年に生まれたい』だ。レオと同じで、今後二度とあなたに会いに来れなかった場合、この願いで頼みたい」

 精霊王は穏やかな表情で俺たちを見つめた後、優しく微笑んだ。

『心得た。美しき魂を持つ愛すべきお前たちが、今世において素晴らしい人生を送れるよう祈っている』




 結局この時、俺たちは精霊王に願い事の最終決定を言い渡すことができなかった。

 けれど、あれからどれだけ考えても、俺には来世のこと以外、叶えてもらいたいことが見つからない。なぜなら俺は、今もう既に最高に幸せなのだから。

 カイルが一緒にいてくれて、好きだといってくれる。俺も好きだと伝えられる。これ以上の幸せがあるとは思えない。

 見上げると、横を歩いていたカイルが、すぐに俺の視線に気付いてくれた。そして、愛おしい者を見る優しい笑顔を向けてくれる。


 ああ、好きだ。カイルのことが大好きだと心から思う。

 カイルがいて、笑顔を見せてくれさえすれば、俺は世界一の幸せ者に、いつだってどこにいたってなれるんだ。


 だから。
 うん、そうだ、だからきっと。
 他の願い事は見つからない。

 精霊王は死ぬまで待ってくれると言ってくれたけれど。

 きっともうない。
 新しい願い事は見つからない。


 だから俺は思うんだ。
 精霊王に再会して別の願いを伝える日は、きっともう来ないだろうと。

 このまま穏やかに時は流れ、別の願い事は見つかることなく、俺は幸せなままに最期の時を迎えるだろう。
 そして約束は果たされ、精霊王は来世で俺とカイルを再会させてくれるに違いない。


 それは、俺が死ぬ瞬間まで幸せに生きたことの、なによりの証明になる筈だ。
 満ち足りた人生を送ったという、最高の証となるだろう。



 願い事が見つからないことが、俺が最高に幸せに生きたことの証明になるんだ。







 前世のお袋、俺、早死にしてしまって本当に悪かった。
 だけど、どうか安心して欲しい。

 生まれ変わった先で、俺は最高に幸せになったよ。

 本当に本当に、泣きたくなるくらいに幸せなんだ。
 俺がこんなに幸せになれるなんて、夢にも思ってなかったよ。



 産んでくれてありがとう、お袋。
 俺、生まれてきて本当に良かった!






end







◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇
次からカイル視点の話になります。
カイル視点の話では、カイルがかなり変態してますww
そんなカイルが嫌だと思う方は、ここでストップしておくことをおすすめします。

死ネタもあります。ご注意下さい。

本編、読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m
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