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本編
もう、戻れない 3
しおりを挟む「……ト、…オト。……聞いてるのかよ、ナオト!!」
そんな感傷を抱えたまま、微睡んでいたところに。突然、キンキンと高く響いて煩い声が、耳元から俺の名前を叫んできた。
「おい、そんな近くでがなり立てんなよ!」
「そうだよ!ただでさえ尚ちゃん、今すっっ……ごい、具合悪いんだから!ちょっとは遠慮してくれる!?」
その近くで、俺から話そうとするクラスメイトの声も聞こえる。
「いーだろ別に、授業に出てるってことは、大したことないんだろ?あと俺がコイツに用事あるんだから、大丈夫だって!!」
「……今すぐ辞書引いて、『大丈夫』の意味を調べてくれ。というか、調べろ」
「尚ちゃんは具合悪くても、頑張って授業に出てきてるだけなんだってば!」
……正直、とても鬱陶しい。けれど、無下にするのも、人としてどうかと思うし。何より、別に風邪をひいたわけでもない俺を庇ってくれる2人にたいして、申し訳なかった。
「……いいよ、2人とも。俺に何の用なの?横道くん」
本音を言えば、誰かと話すのすら億劫になってるせいか、常の自分にしては、不機嫌そうな声を出してしまったと思う。けれど、彼にとってはそれは問題なかったらしく。
返事をした俺に、多分嬉しそうに、口元をあげて笑いかけてきた。……分厚いレンズのせいで、表情はよく見えないけれど。
ーー横道智安(よこみち ともやす)。
それが、半年ほど前に転校してきた、ある意味学年でも有名な彼の名前だ。特徴としてはわかりやすく、もじゃもじゃ頭に瓶底眼鏡をかけている、見た目はオタクっぽい同級生である。一方的に気安く声をかけられているが、別にクラスメイトというわけではない。彼にとって、“友達”でいるのは、クラスとか学年は関係ないらしい。
お世辞にも清潔とは言い難い容姿の彼だが、何故かイケメンに気に入られやすく、前年度の生徒会メンバーの大半を落とした、と聞いたことがある。そのせいで、前年度の生徒会の仕事が回り切れていないという緊急事態に陥ったとか……。とはいえ、今年度に入って生徒会メンバーが総入れ替えしてからは、落ち着いたらしい。生徒会と縁があるらしいクラスメイト達から又聞きした話だから、詳しくは知らないけれど。
そんな、色んな意味で台風の目的な存在の彼と、先生の側で助手をしているだけの、一般生徒てある俺が接点を持ったのは、数ヶ月前、とある制裁現場に遭遇したのがきっかけだ。
と言っても、制裁しようとした生徒たちを、被害者であったはずの横道が喧嘩の心得があったせいで見事に返り討ちにしてしまった後だった。なので俺が手当をしたのは、その返り討ちにあった生徒たちに対してだった。
だが、何をどうしてかそこで気に入られてしまったらしく。暇さえあれば、彼は俺に声をかけてくるようになったのだ。
……ここ1ヶ月は、話しかけられることがなくなっていたから俺、に興味を持たなくなったのだと、内心安堵していたのだが。
「最近、お前の元気がないって聞いてさ。だから気分転換に、一緒に飯食おうぜ!」
なるほど?俺の様子がわかっているのなら、そのまま放っておいてほしかったんだけど……今の俺には、そう反論する気力すらなかった。
「気持ちは有難く受け取るよ。ただ、食欲がホントになくて……お喋りしても、全然楽しくないと思うよ?」
机の上にある食べかけの焼きそばパンを横目で見ながら遠回しに断る。本当に元気だったとしても、出来れば避けたいことなんだけど。
「何だ、いい年して好き嫌いかよ?そんなん言うと背が伸びないって、うちのじーちゃんが言ってたぜ?だからちゃんと食べなきゃ駄目だろ、うん!」
「……」
単なる好き嫌いでクラスメイトからの善意で貰ったパン食べれないわけあるか、と内心イラっとする。具合が悪いせいか、いつもより沸点低くなってる自覚は、ある。
大体、さっきから無駄に大きい声で耳元に喋りかけてくるせいで、聞きたくもない声が頭に響いて仕方ないのだ。こんな状態では、本当に体調が悪くなってしまいそうだ。
「…ごめんね、直球で言わせてもらうよ。君も知ってる通り元気がないから、俺じゃなくて他の人を誘ってくれないかな?それこそ……」
それこそ、噂で落としたという、元生徒会のメンバーがいるだろうに。そう、口にしようとすると、急に口を塞いできた。……それこそ、ぶたれたと勘違いする程、勢いよく。
「……っ、!?」
「つれないこと言うなって、全く!ほら、早く行くぞ!」
顔へのダメージをまともに食らったまま、更に勢いよく、腕を掴んできた。見た目に反して骨が折れそうなほど強く掴まれた手を引き剥がす余力もなく、無理やり席を立たされる。小さい体の割には馬鹿力がすごく、声を上げそうになるのを何とか押し殺した。
「……っ、はぁ!?ちょっと、その手を離せってば!」
「いい加減にしろ、横道!月島もちゃんと断ってるだろ」
「えー、いいじゃん別にー。それに俺、前からナオトと一緒にお昼食べたかったんだよなー!」
「……」
流石に腹に据えかねたのか。横道の暴挙に呆気に取られていた北島と西宮だったが、無理やり連れていかれそうになる俺を見て、険しい声で急いで引き止めてくれる。が、当の本人は能天気に馴れ馴れしく俺の名前を呼び捨てながら言葉を返し、まともに取り合おうとはしない。
ちらりと教室の時計を見れば、予鈴が鳴るまでは、もうしばらく時間がかかりそうだった。
「ーーわかった、付き合う。でも、食欲ないのは本当だから、食べるなら1人で食べてね」
「は?」
「ちょっと尚ちゃん、正気⁉︎」
むしろ狂気に陥りたいくらいだ。
でも、これ以上はクラスのみんなに迷惑をかける。庇ってくれようとしてる2人に対しても、少し遠目で様子見してる他の人たちについても、だ。
「よっしゃ!さすがナオト、話がわかるな!なーなー、どこで食べるー?俺としては屋上とかがいいと思うんだよねー……」
横道としては、俺から承諾を受けたことがよほど嬉しかったのだろう。意気揚々と、俺が机にぶつかるのも気にせず、力ずくでこちらの腕を引っ張りながら教室の外へと向かう。
彼の力は、思ったよりも馬鹿強く。結果、なす術もなくずるずると引きずられていく羽目になったのだった。
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