先生、いきなり人の後ろから壁ドンするのはどうかと思います!【番外編連載中】

あか

文字の大きさ
7 / 29
本編

もう、戻れない 3

しおりを挟む



「……ト、…オト。……聞いてるのかよ、ナオト!!」

そんな感傷を抱えたまま、微睡んでいたところに。突然、キンキンと高く響いて煩い声が、耳元から俺の名前を叫んできた。

「おい、そんな近くでがなり立てんなよ!」
「そうだよ!ただでさえ尚ちゃん、今すっっ……ごい、具合悪いんだから!ちょっとは遠慮してくれる!?」

その近くで、俺から話そうとするクラスメイトの声も聞こえる。

「いーだろ別に、授業に出てるってことは、大したことないんだろ?あと俺がコイツに用事あるんだから、大丈夫だって!!」
「……今すぐ辞書引いて、『大丈夫』の意味を調べてくれ。というか、調べろ」
「尚ちゃんは具合悪くても、頑張って授業に出てきてるだけなんだってば!」

……正直、とても鬱陶しい。けれど、無下にするのも、人としてどうかと思うし。何より、別に風邪をひいたわけでもない俺を庇ってくれる2人にたいして、申し訳なかった。

「……いいよ、2人とも。俺に何の用なの?横道くん」

本音を言えば、誰かと話すのすら億劫になってるせいか、常の自分にしては、不機嫌そうな声を出してしまったと思う。けれど、彼にとってはそれは問題なかったらしく。
返事をした俺に、多分嬉しそうに、口元をあげて笑いかけてきた。……分厚いレンズのせいで、表情はよく見えないけれど。


ーー横道智安(よこみち ともやす)。
それが、半年ほど前に転校してきた、ある意味学年でも有名な彼の名前だ。特徴としてはわかりやすく、もじゃもじゃ頭に瓶底眼鏡をかけている、見た目はオタクっぽい同級生である。一方的に気安く声をかけられているが、別にクラスメイトというわけではない。彼にとって、“友達”でいるのは、クラスとか学年は関係ないらしい。

お世辞にも清潔とは言い難い容姿の彼だが、何故かイケメンに気に入られやすく、前年度の生徒会メンバーの大半を落とした、と聞いたことがある。そのせいで、前年度の生徒会の仕事が回り切れていないという緊急事態に陥ったとか……。とはいえ、今年度に入って生徒会メンバーが総入れ替えしてからは、落ち着いたらしい。生徒会と縁があるらしいクラスメイト達から又聞きした話だから、詳しくは知らないけれど。

そんな、色んな意味で台風の目的な存在の彼と、先生の側で助手をしているだけの、一般生徒てある俺が接点を持ったのは、数ヶ月前、とある制裁現場に遭遇したのがきっかけだ。
と言っても、制裁しようとした生徒たちを、被害者であったはずの横道が喧嘩の心得があったせいで見事に返り討ちにしてしまった後だった。なので俺が手当をしたのは、その返り討ちにあった生徒たちに対してだった。
だが、何をどうしてかそこで気に入られてしまったらしく。暇さえあれば、彼は俺に声をかけてくるようになったのだ。

……ここ1ヶ月は、話しかけられることがなくなっていたから俺、に興味を持たなくなったのだと、内心安堵していたのだが。


「最近、お前の元気がないって聞いてさ。だから気分転換に、一緒に飯食おうぜ!」

なるほど?俺の様子がわかっているのなら、そのまま放っておいてほしかったんだけど……今の俺には、そう反論する気力すらなかった。

「気持ちは有難く受け取るよ。ただ、食欲がホントになくて……お喋りしても、全然楽しくないと思うよ?」

机の上にある食べかけの焼きそばパンを横目で見ながら遠回しに断る。本当に元気だったとしても、出来れば避けたいことなんだけど。

「何だ、いい年して好き嫌いかよ?そんなん言うと背が伸びないって、うちのじーちゃんが言ってたぜ?だからちゃんと食べなきゃ駄目だろ、うん!」
「……」

単なる好き嫌いでクラスメイトからの善意で貰ったパン食べれないわけあるか、と内心イラっとする。具合が悪いせいか、いつもより沸点低くなってる自覚は、ある。
大体、さっきから無駄に大きい声で耳元に喋りかけてくるせいで、聞きたくもない声が頭に響いて仕方ないのだ。こんな状態では、本当に体調が悪くなってしまいそうだ。

「…ごめんね、直球で言わせてもらうよ。君も知ってる通り元気がないから、俺じゃなくて他の人を誘ってくれないかな?それこそ……」
それこそ、噂で落としたという、元生徒会のメンバーがいるだろうに。そう、口にしようとすると、急に口を塞いできた。……それこそ、ぶたれたと勘違いする程、勢いよく。

「……っ、!?」
「つれないこと言うなって、全く!ほら、早く行くぞ!」

顔へのダメージをまともに食らったまま、更に勢いよく、腕を掴んできた。見た目に反して骨が折れそうなほど強く掴まれた手を引き剥がす余力もなく、無理やり席を立たされる。小さい体の割には馬鹿力がすごく、声を上げそうになるのを何とか押し殺した。

「……っ、はぁ!?ちょっと、その手を離せってば!」
「いい加減にしろ、横道!月島もちゃんと断ってるだろ」
「えー、いいじゃん別にー。それに俺、前からナオトと一緒にお昼食べたかったんだよなー!」
「……」

流石に腹に据えかねたのか。横道の暴挙に呆気に取られていた北島と西宮だったが、無理やり連れていかれそうになる俺を見て、険しい声で急いで引き止めてくれる。が、当の本人は能天気に馴れ馴れしく俺の名前を呼び捨てながら言葉を返し、まともに取り合おうとはしない。
ちらりと教室の時計を見れば、予鈴が鳴るまでは、もうしばらく時間がかかりそうだった。

「ーーわかった、付き合う。でも、食欲ないのは本当だから、食べるなら1人で食べてね」
「は?」
「ちょっと尚ちゃん、正気⁉︎」

むしろ狂気に陥りたいくらいだ。
でも、これ以上はクラスのみんなに迷惑をかける。庇ってくれようとしてる2人に対しても、少し遠目で様子見してる他の人たちについても、だ。

「よっしゃ!さすがナオト、話がわかるな!なーなー、どこで食べるー?俺としては屋上とかがいいと思うんだよねー……」

横道としては、俺から承諾を受けたことがよほど嬉しかったのだろう。意気揚々と、俺が机にぶつかるのも気にせず、力ずくでこちらの腕を引っ張りながら教室の外へと向かう。
彼の力は、思ったよりも馬鹿強く。結果、なす術もなくずるずると引きずられていく羽目になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...