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本編

屋上で明かされるのは 1

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「んー、いい場所だな!風が気持ちいいぜー」
「そう、だな……」

屋上についてなお、満足そうな彼に未だ腕を掴まれたまま、俺はぐったりとしたまま辺りを見回す。
宣言通り、俺は横道に無理やり屋上へ連れてこられたワケだ。本来なら、ここは生徒立ち入り禁止のはずだが、理事長が身内にいるせいか、こういう場所にも彼は堂々と立ち入るのだ。最も、俺も無理やりとはいえ着いてきてしまったのだから、同罪なのかもしれない。
ふと、横道の手には俺の腕以外何も握られていないこと、そして道中、彼の教室についぞ立ち寄らなかったことを思い出す。

「…そう言えば、昼飯はいいのか?食べに来たんだろ、ここに」
「ん?あー……やっぱいい、かな。さっき食べたばっかだし」
「は?」

意味のわからない返答に呆気にとられてる俺をよそに、ようやく腕を離してくれる。と言っても、急に腕を離されたため、バランスが崩れ、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。そんな俺の様子など気にも止めてないようで、ただ気持ち悪いくらいの口元をつり上げ、ニコニコと俺を見つめてきた。……気持ち悪い。
思わずごくり、と唾を飲みこんで。
情けないとこをこれ以上晒したくなくて、何とか立ち上がった。


「……俺とお昼を食べたかったから、無理やりここまで連れてきたんだと思ったけど。違うの?」
「んー、昼前にさー?こっそり持ってき得なかったいたお菓子、食べたちゃたんだ!授業かったるかったし。だから今、思ったよりお腹空かないのかも」

……突っ込むべきだろうか?この言い方だと、授業中に堂々と食べたんじゃないかと邪推してしまうのだが。もしくは授業をサボったとか……まさか、ね。

「……だとしても、他の友達と食べなくてよかったの?」
「ーー別にいーよー、あんな奴ら。前までは俺と遊んでくれたのに、最近付き合い悪くなってきたし。酷いよなー、ホントにさ?」

一瞬だけ、口元から笑みが消えて。けれどまたつり上がる様子に、俺の緊張がとけることはなかった。

「ま、そんなことはどうでもよくて。実を言うと俺、ナオトと話せれば、理由なんてなんでもよかったんだ。昼休みだから昼飯に誘った。ただ、それだけ」
「……そう」

用事があったのは、本当のようだ。とはいえ、全く心当たりがない。最後に彼と話したのもそれなりに時間が経ってるし……なんだろうか?
元々分厚い眼鏡のせいで表情を読み取れないのもあるだろう。それを差し引いても、彼の行動の意味を図りかねた。
戸惑っているうちに、いきなり横道が「そうそう、ここで本題ね!」と大袈裟なくらい胸を張って、自分を褒めて!と言わんばかりに自慢しだした。

「俺ね!こう見えて、観察眼は、結構鋭い方なんだぜ!知ってた?ナオト」
「……そう、なんだ……?」

突然の言葉に、俺は唖然とする。
いや、だって。
……絶対嘘だろ。それ。

というか、いきなり何を言い出すんだろうか?彼は。
困惑しながらも、適当に相槌を打つ。
発言の意図が、よくわからなかったからだ。

「だからさー、人の機微とか感情とか?そういうのには敏い方なんだぜ!すごいだろー?」
「……へー。それは、すごいね……?」

とりあえず、悦に入ってるようなので、適当に感心してみせる。
とはいえ、今までの行動から考えても、まるでそうは思えないんだけど。……というか、本当にわかってるとしたらこんな無理やり俺を誘うことは無いったはずだ。全都合の悪い言葉も全スルーだったし。

そんな自称・機微がわかる男は、だけどなー、と俺をマジマジと見ながら続ける。

「そんな俺をもってしてもさ?ナオトって、結構わかり辛いんだよなー、感情読み取るの」
「……ふーん?そう、なんだ?」

これは褒められてる、のか?困惑している俺に、横道はこれは誇っていいところだぞ!と何故か強く太鼓判を無理やり押し付けてきた。

「だって、ナオト、基本的には誰に対しても平等だし」
「?別に俺だけじゃないだろ、そんなの」

確か、前の生徒会会計はそんなタイプだったと聞いたことがある。去年同じクラスにいた可愛い系の男子が、「会計様に話しかけたら笑いかけて貰っちゃった!」と言って、キャッキャッ喜んでいたのを聞いたことがある。今では、残念なことに目の前の彼に首ったけだとか。……今はもう交流がない、のかもだけど。

「いやいや、あれは演技だし。アイツの家って、結構ゲンシュク?な家柄で、『人には優しくする!』が家訓だったらしくてさー。だから、興味ない生徒と話さなくちゃいけないから、それがスゲー苦痛だったんだって!」
「……ホントに?」
「ホントだって!本人もそう言ってたし?それに、俺と会ったときのアイツの笑顔スゲー引きつってたからな、間違いない!!」

それはお前のその姿がよっぽど酷かったからじゃないか?とツッこみたかったが。

「ちなみに、他の奴らと喋ってる時も嫌そうだったぞ、初対面の俺相手ほどじゃねーけどな!」

そこまで言われると、ホントかもしれない、と思ってしまった。確かにこの清潔感がないわ、人の話を聞かないといういいところが全くわからない横道に惚れていた、というのがなぁ……。

それにしても。

要は裏がある人間のことなら何でもわかってしまう、ということだろうか?
そもそも、人と話すたび、常に腹の中で一物置きながら平然と話すとか、大変そうだよな。というか、面倒くさそう。普通に生活してる分に、そうやって演技しなきゃいけないとか。お金持ちって、大変なんだな。
そう考えると、他人の裏がわかってしまうと言い張る横道も、俺が知らないだけで、意外と苦労してるのだろうか?噂だと、理事長の甥っ子なのだとか。俺が考えもしないところで、彼も案外苦労してることがあるのだろうか?
……いやいや。彼がそう思い込んでるだけって可能性もあるし。適当なこと言ってるだけってこともあり得るだろう。

「ーーでも俺、ナオトの隠してた秘密、1個だけは知ってるんだ!」
「はぁ……」

どうせ、他愛もないことに違いない。別に、知られて困るようなことはないし……いや。
厳密にはないこともない。のだが、そのことを彼が知っているわけがない。
だって、それは1週間前まで、誰にも話したことなんかないんだから……。




「ナオトは、アキのこと好きなんだよな、恋愛的な的な意味で!!」

「………あき?」

誰だ、それ?
そう思いつつも。
何故か急に、心臓が嫌な音を立てて加速していく。
困惑を隠せない俺に対して、「隠さなくてもいいんだぞっ」と、いじけたような表情で続ける。

「アキったらアキだよ!ほら、保健棟の愛想ないけど、よく見るとカッケー先生!いつもナオトが放課後にわざわざ言って、邪魔しに行く先生だよ!」

邪魔はしていない、と、言おうとして。
その言葉に、”アキ”と言う名前の知り合いに、今更思い当たってーー顔から血の気が引くような気がした。

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