9 / 29
本編
屋上で明かされるのは 2
しおりを挟む「あき、って、まさか…上城、先生?」
当たってほしくない。そう思いながら、震える声で、聞いてみる。
「あー、それそれ!俺、友達のことは全員下の名前で呼ぶ派だから、忘れてたけど」
ケラケラと、無邪気に笑う転校生がうすら寒く感じて。背筋に氷水を流しこまれたような、錯覚に陥ったのだった。
…というか、何で、知ってるんだ?
不意に落とされた爆弾に、俺は頭が真っ白になる。
そう。俺は、上城暁先生のことが、好きだ。
つい一週間程前、先生に「最悪だ」と、粉々に砕かれてしまったのだけど。
今もまだ好きな気持ちはどうしても変えられなくて。
どうしようもない、一方通行でしかないこの想いは。
心配してくれる大事な友人にすら、誰にも教えたことはない。
誰にもバレないよう、ひた隠しにしてきたから。
それなのに。なぜ、目の前にいるこの、少年は――。
「言っただろ?俺、人間観察が得意なんだぜ!だから、あの先生とナオトが一緒にいるところ見続けて、ようやく気付けてさ!!
ーーだから、教えてあげたんだ。
ナオト、アキのこと恋愛的な意味で好きなんだよ!って」
ーー最後に付け足された、その言葉に。
俺は全身からも血の気が引いた音が、確かにした。
『ーー大体、俺が先生のこと、そう意味で好きとか……そんな根拠、あるんですか?』
『……俺には、ないな』
ーーあの日。突然、しつこく俺の恋心を聞き出してきたあの日の先生の言動のなかで。唯一感じた妙な違和感の理由に、やっと思い当たった。
(そういう、ことか)
得意げに胸を張って、誇らしげに語る横道。固まったまま次の言葉が出せないでいれば、先に少年が言葉を続けていく。
「最初はさー、単純に仕事を手伝ってるだけだと思ってたんだよね?俺のオジサンの秘書さんみたいに。けどさー、なーんか違和感あってさ。
で、それでよくよく見たらさ、ナオト、アキにはすげー視線送ってたじゃん?よくよく観察してみないと、全然わからなかったけどさ!」
胸を張る横道をよそに、俺の心臓はさっきからバクバクと音を立て、熱が上がっていき。反比例するように、頭の中は氷水にぶちまけられた気分に、寒くなっていった。
何で、よりによって、空気を読まない上にトラブルしか引き起こさない彼に。
先生への俺の気持ちに、気付かれてしまったんだ…?
「あ、でも他の奴らはわかんないと思うぜ?態度は別に、他の奴らと変わらないし、俺だって、気付くのに一か月はかかったからさ!!」
相変わらずケラケラと笑いながら、彼は楽しそうに俺を見ながら話す。何が、そんなに面白いのだろうか…?
「……なん、で」
「ん?」
「なんで勝手に、俺の気持ち、喋ったの……?そもそも、それが君の勘違いだとは、思わなかったのか?」
「ないない!俺、人が隠そうとしてることに関しては外れた試しないからな!!」
「……わかって、たんだ?俺が隠したがっていた、こと」
無知故に暴露することと、確信を持って故意に発言すること。どちらの方がよりタチが悪いかなんて。今の俺には、一択しかありえなかった。
「だったら、尚更。何で勝手に……」
「ん?だってお前のその秘密。
アキをぎゃふん!とさせるために、使えそうだったからだよ!」
「……は?」
横道の発言が理解出来なさすぎて、呆気にとられる。そのせいで彼の言葉がするすると耳へと入っては抜けていく。というか、理解ができない。
「だってさ。アキってばさ?せっかく俺が仲良くしようとしても、『ウザい近寄るな目障りだ!』ってしか言わないで、俺のこといつも邪険にするんだぞ?酷くないか!?」
「……」
「同性のくせに、アキは男嫌いというか、ケッペキショー?が過ぎるんだよ!いいじゃん別に、廊下でやっと会えたから抱きついただけで「いきなり触んな!」って怒鳴ってくるし。学校ですれ違ったついでにわざわざ話しかけてあげたのに、今はほかの奴と大事な話してるからって、輪に混ぜてくれないし。挙げ句、保健室には金輪際近付くなって言われるし!!」
「…………」
「この俺が自分から構うなんて、早々ないことなんだぜ!?なのにホンっっト!!失礼だよな、アキの奴!?」
「……そう、だね。とても、失礼だね」
そうだろそうだろ?と相槌を打つ俺に気をよくしたのか、気分良さそうに何度も頷く。
……勿論、俺が言った失礼だというのは。先生のことな訳が、ない。
目の前でしたり顔でご満悦そうな笑みを浮かべた、目の前にいるこの少年のことだ。
ーー先生は、元々激しいスキンシップとかが苦手な人だ。理由はわからないが、他の先生から聞いたところによると、昔、何か色々あったらしい。現に保健室での仕事の時も、治療以外では生徒にあまり触れようとしないだ。…あの時は俺に最後通告を突きつけるつもりだったせいか、変に距離が近かったけれど。
そんな先生が話しかける相手と言えば、俺以外だと他の先生方か、以前保健棟に来てた生徒にその後の様子についてのことを聞くアフターケアなお仕事に限られるのだ。そんな先生にとって、横道は個人的にも仕事的にも、関わりたくない人種トップを争っていたのだろう。
そんな、多分間違えていないであろう俺の推察や皮肉に気付かないまま。彼は無邪気な子供のように笑い、残酷な言葉をその唇からこぼれ落とす。
「だからさー、俺、考えたわけ!
ーーそんな男嫌いの先生が、実はそれなりに気に入ってて、大丈夫だって信じてる同性の相手、しかも生徒から!恋心を向けられてるって知ったら、どんな反応をするのかなー、って!!」
そう。彼は無邪気に笑う。
そして、その純粋さが。
時に人を傷つけることを、彼は本能的に知っているのかもしれない。
「そしたらさ?ここ一週間のアキってば、俺の話をちゃんと聞いてくれるようになったんだ!周りで色々お喋りしても、全然気にならなくなったみたいだし?まあ、あとは引っ付いてもすぐに剥がさないとか、部屋に入れてくれればもう言うことないんだけど……。ま、とにかく!ナオトのおかげでこの一週間、俺にとってイイこと尽くしだった、ってことだよ!」
俺のことなんて、お構いなしに。聞きたくもないことを、ペラペラと報告してくる。
その言葉に、忘れかけていた痛みがズキリと胸に突き刺さってきた。
「だからありがとう、ナオト!お前がアキに嫌われてくれたお陰で、アキが俺のこと、邪険にしなくなったからさ!!」
そう言って、彼は。
不清潔なのに、口元に綺麗な弧を描いて。
俺にとどめを、刺した。
0
あなたにおすすめの小説
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
不定期更新
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる