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本編
屋上で明かされるのは 2
しおりを挟む「あき、って、まさか…上城、先生?」
当たってほしくない。そう思いながら、震える声で、聞いてみる。
「あー、それそれ!俺、友達のことは全員下の名前で呼ぶ派だから、忘れてたけど」
ケラケラと、無邪気に笑う転校生がうすら寒く感じて。背筋に氷水を流しこまれたような、錯覚に陥ったのだった。
…というか、何で、知ってるんだ?
不意に落とされた爆弾に、俺は頭が真っ白になる。
そう。俺は、上城暁先生のことが、好きだ。
つい一週間程前、先生に「最悪だ」と、粉々に砕かれてしまったのだけど。
今もまだ好きな気持ちはどうしても変えられなくて。
どうしようもない、一方通行でしかないこの想いは。
心配してくれる大事な友人にすら、誰にも教えたことはない。
誰にもバレないよう、ひた隠しにしてきたから。
それなのに。なぜ、目の前にいるこの、少年は――。
「言っただろ?俺、人間観察が得意なんだぜ!だから、あの先生とナオトが一緒にいるところ見続けて、ようやく気付けてさ!!
ーーだから、教えてあげたんだ。
ナオト、アキのこと恋愛的な意味で好きなんだよ!って」
ーー最後に付け足された、その言葉に。
俺は全身からも血の気が引いた音が、確かにした。
『ーー大体、俺が先生のこと、そう意味で好きとか……そんな根拠、あるんですか?』
『……俺には、ないな』
ーーあの日。突然、しつこく俺の恋心を聞き出してきたあの日の先生の言動のなかで。唯一感じた妙な違和感の理由に、やっと思い当たった。
(そういう、ことか)
得意げに胸を張って、誇らしげに語る横道。固まったまま次の言葉が出せないでいれば、先に少年が言葉を続けていく。
「最初はさー、単純に仕事を手伝ってるだけだと思ってたんだよね?俺のオジサンの秘書さんみたいに。けどさー、なーんか違和感あってさ。
で、それでよくよく見たらさ、ナオト、アキにはすげー視線送ってたじゃん?よくよく観察してみないと、全然わからなかったけどさ!」
胸を張る横道をよそに、俺の心臓はさっきからバクバクと音を立て、熱が上がっていき。反比例するように、頭の中は氷水にぶちまけられた気分に、寒くなっていった。
何で、よりによって、空気を読まない上にトラブルしか引き起こさない彼に。
先生への俺の気持ちに、気付かれてしまったんだ…?
「あ、でも他の奴らはわかんないと思うぜ?態度は別に、他の奴らと変わらないし、俺だって、気付くのに一か月はかかったからさ!!」
相変わらずケラケラと笑いながら、彼は楽しそうに俺を見ながら話す。何が、そんなに面白いのだろうか…?
「……なん、で」
「ん?」
「なんで勝手に、俺の気持ち、喋ったの……?そもそも、それが君の勘違いだとは、思わなかったのか?」
「ないない!俺、人が隠そうとしてることに関しては外れた試しないからな!!」
「……わかって、たんだ?俺が隠したがっていた、こと」
無知故に暴露することと、確信を持って故意に発言すること。どちらの方がよりタチが悪いかなんて。今の俺には、一択しかありえなかった。
「だったら、尚更。何で勝手に……」
「ん?だってお前のその秘密。
アキをぎゃふん!とさせるために、使えそうだったからだよ!」
「……は?」
横道の発言が理解出来なさすぎて、呆気にとられる。そのせいで彼の言葉がするすると耳へと入っては抜けていく。というか、理解ができない。
「だってさ。アキってばさ?せっかく俺が仲良くしようとしても、『ウザい近寄るな目障りだ!』ってしか言わないで、俺のこといつも邪険にするんだぞ?酷くないか!?」
「……」
「同性のくせに、アキは男嫌いというか、ケッペキショー?が過ぎるんだよ!いいじゃん別に、廊下でやっと会えたから抱きついただけで「いきなり触んな!」って怒鳴ってくるし。学校ですれ違ったついでにわざわざ話しかけてあげたのに、今はほかの奴と大事な話してるからって、輪に混ぜてくれないし。挙げ句、保健室には金輪際近付くなって言われるし!!」
「…………」
「この俺が自分から構うなんて、早々ないことなんだぜ!?なのにホンっっト!!失礼だよな、アキの奴!?」
「……そう、だね。とても、失礼だね」
そうだろそうだろ?と相槌を打つ俺に気をよくしたのか、気分良さそうに何度も頷く。
……勿論、俺が言った失礼だというのは。先生のことな訳が、ない。
目の前でしたり顔でご満悦そうな笑みを浮かべた、目の前にいるこの少年のことだ。
ーー先生は、元々激しいスキンシップとかが苦手な人だ。理由はわからないが、他の先生から聞いたところによると、昔、何か色々あったらしい。現に保健室での仕事の時も、治療以外では生徒にあまり触れようとしないだ。…あの時は俺に最後通告を突きつけるつもりだったせいか、変に距離が近かったけれど。
そんな先生が話しかける相手と言えば、俺以外だと他の先生方か、以前保健棟に来てた生徒にその後の様子についてのことを聞くアフターケアなお仕事に限られるのだ。そんな先生にとって、横道は個人的にも仕事的にも、関わりたくない人種トップを争っていたのだろう。
そんな、多分間違えていないであろう俺の推察や皮肉に気付かないまま。彼は無邪気な子供のように笑い、残酷な言葉をその唇からこぼれ落とす。
「だからさー、俺、考えたわけ!
ーーそんな男嫌いの先生が、実はそれなりに気に入ってて、大丈夫だって信じてる同性の相手、しかも生徒から!恋心を向けられてるって知ったら、どんな反応をするのかなー、って!!」
そう。彼は無邪気に笑う。
そして、その純粋さが。
時に人を傷つけることを、彼は本能的に知っているのかもしれない。
「そしたらさ?ここ一週間のアキってば、俺の話をちゃんと聞いてくれるようになったんだ!周りで色々お喋りしても、全然気にならなくなったみたいだし?まあ、あとは引っ付いてもすぐに剥がさないとか、部屋に入れてくれればもう言うことないんだけど……。ま、とにかく!ナオトのおかげでこの一週間、俺にとってイイこと尽くしだった、ってことだよ!」
俺のことなんて、お構いなしに。聞きたくもないことを、ペラペラと報告してくる。
その言葉に、忘れかけていた痛みがズキリと胸に突き刺さってきた。
「だからありがとう、ナオト!お前がアキに嫌われてくれたお陰で、アキが俺のこと、邪険にしなくなったからさ!!」
そう言って、彼は。
不清潔なのに、口元に綺麗な弧を描いて。
俺にとどめを、刺した。
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