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本編
伝えたいこと、伝えるべきこと 1
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「……ぅ、ん……?」
目を開けると、白い天井が目に入ってくる。
懐かしい夢をら見た気がする。どんな夢を見たのか、忘れてしまったけど。
(……そういえば、俺。何で、ここにいるんだろう)
確か、さっきまで屋上にいたはず。
昼休みでもないのに、横道に無理やり屋上に連れていかれて、それで……。
(……ダメだ。考えるの、しんどい……)
頭が朦朧としはじめた、その時。
横でカーテンが開けられる音と共に、病室にかけられた声は、聞き覚えのありすぎるものだった。
「ーー目、覚めたようだな」
「せん、せい……」
少し草臥れた様子の、少し老けた様子のその人は。
ーー俺の好きな、先生で。
俺のことを、現在形で嫌っているはずの、人だった。
「……なん、で……」
「っ、バッカ動くな!傷もまだ治りきってないんだぞ!?」
無意識に起き上がろうとした俺を押さえつけ、固まって動けなくなった俺を確認してから、ベッド脇にある椅子に反動をつけて音を鳴らして座り込んだ。それから、気まずそうに顔をしかめて。
「……声、大きく出して悪かった」
「……いえ」
「気分、どうだ?」
「……あまり」
「頭、痛いか?」
「……すこし」
「吐き気とか、ないか?」
「……たぶん」
「そうか」
とりあえずこれを飲めと、吸い飲みを差し出してくる。本当に怪我人みたいだ、と軽口を叩きたかったが、流石に口に出すほどの気力はなく。大人しく、少しだけ飲む。
「……もう少し、点滴が必要か」
俺の様子を見て、無理にそれ以上は飲ませようとはせず。そっと口から吸い飲みを離され、先生がその場を離れていくのを大人しく見送ろうとした、のだけれど。
「ーー月島?」
「………ぇ、と」
失敗した。
無意識に、先生の白衣の腕の裾を掴み、引き止めてしまったようだ。弱ってるせいで、思わず握りしめったらしい先生の裾から、そっと指を離した。
「……平気、です」
「そうか」
そっけなく俺の言葉に返したわりには、先生はそのまますとん、と椅子に座り直し。外に出ていた俺の腕を布団の中へ入れ直してじっとこちらを見つめてから、腕を優しく摩ってくれた。
「……安心しろ。お前が寝るまでここにいてやる」
「……」
お人好し。
つい、そう文句を言ってやりたかった。
わかってるんだよ。
この人が、仕事とはいえ、優しくしてくれるかは。許されたのだと、勘違いしてしまいそうになる。
おこがましいにも程があるけど。
どうしても、顔がにやけてしまう。
病み上がりの今ぐらい、それは許してほしい、なんて。
誰に、言い訳してるんだか。
先生が撫でてくれる温もりにホッとしたのか。意識がまた、うつらうつらと微睡んでくる。
これが夢なら、まだ見続けていたいのに。けれど、身体はまだ、休養を欲していたらしく。
そのまま、意識を手放すしかなかったーー。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
次に起きたのは、辺りが明るくなってきてからのことだった。体感でかなり寝ていた自覚はあるが、どれほど眠っていたのか。
片腕が外に出されているので気になって見つめてみると、点滴が刺さっていた。多分、うまく水を飲めなかった俺に配慮してくれたのだろう。
先生の優しさに心が温まっていると、誰かが部屋に入ってくる音が聞こえる。その足音は、よく聞き慣れたものだった。
「今度は、マトモに目を覚ましたか。顔色も、最初よりはマシそうだな」
予想通り、カーテンから現れたのは先生だった。
それを見て、何とか上体だけでもと、無理やり起こす。
「……お陰様で。お気遣い、ありがとうございます」
「まだ寝たままでもいいぞ。さっき起きた時、うまく動けなかっただろう」
「平気です。俺、ホントは丈夫なんですよ?」
そう言いながら、頭に手をやる。多分ここで治療したときに巻き直したのだろう包帯は、いつも俺が取り扱っているものだった。
「……手当て、有難うございました。さすがに校内中を血だらけにするのは、申し訳なさ過ぎるので」
「ま、仕事だしな。当然のことをしただけだ」
ベッドのそばの椅子に座りながらそう言ってから1度、言葉を切って。
「ーー3日」
「え?」
「お前が、あそこで倒れてから。昨日の深夜まで寝込んだ日数だ」
そんなに経っていたのかと内心驚いている間に、先生がぽつりぽつりと、あの時のことを話しだす。
「……お前のクラスメイトに呼ばれて、屋上に慌てて駆けつけてみれば。あの宇宙人はワケわからないことを喚くし、お前は頭から血を流すわ身体も傷だらけで倒れてるわで、そのままピクリともしねーし。……そんななか、冷静に対処できた俺に感謝しろ」
「……お手数おかけして、すみませんでした」
「全くだ。肝が冷えた」
「そうですか」
確かに、呼ばれて言った先で知り合いがそんな怪我をしたら、誰だって驚くだろうな。
「……そういえば、彼は?」
「宇宙人のことなら、しばらく謹慎処分だと。お前の容体と違って、怪我1つしてない上に加害者だ。退学になってもおかしくはなかったが、どうなるんだか」
「……そうですか」
「まさか心配してるワケじゃ、ないよな?」
「………」
その問いには俺は静かに首を横に振った。
もう2度と、話しかけてこないで欲しい。
それから、先生にも、近づいて欲しくない。万が一にも、先生が彼のことを気にかけているという事実を受け入れたくなかったから。
先生の反応を見るに、それは杞憂に過ぎないようだけれど。
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