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本編
伝えたいこと、伝えるべきこと 2
しおりを挟む「……月島」
「なんですか、先生」
「……悪かった、な」
「ぇ?」
ぽつり、と先生の口から出た唐突な謝罪に、俺は戸惑い、顔を上げて先生の様子を見れば。
少し、俯いていて。バツが悪そうに視線は俺から逸らされたままだった。
「……怪我は勿論、あの大馬鹿野郎のせいだが。その前から食欲不振で様子がおかしかったと、聞いた」
「え……」
誰から、と聞こうとしたけど、すぐに頭の中で2人の顔が思い浮かんだ。……クラスの人から聞いてあの場に来たと言ったから、多分合っているだろう。
俺は違う、とも、違わない、とも言えないまま。俺も、先生から目を逸らした。
「……食べてましたよ。クラスの人と、お昼は食べてました」
「お前が食べようとしないから、無理矢理食わせてたって聞いた」
「………」
もし、俺が、西宮や北島と同じ立場だったら。間違いなくありのままを伝えておくだろう。それでも、思わずため息をついてしまいたくなったのは、許して欲しいところだ。
「それ以外の飯時に誘おうとすると、お前は返事もせず、部屋から出て来なかった、と。……間違いはないか?」
「……ない、です」
先生からの詰問に、身を縮こまるしかなかった。自己管理不足と言えば、その通りだったから。
「先生方からも、授業も出席はしてるがぼんやりしてるし、体育のときも動きが鈍かったと、報告を受けてる。……目の下の隈も、確かに酷いもんだ」
「………」
「……そこまでお前を思いつめさせてしまったのは。俺のせい、だよな?」
先生の瞳の奥がゆらりと、不安そうに揺れた気がしたのは、俺の気のせいだろうか。
だとしても、普段から暴虐無尽な態度しかとらないこの人が、ここまで申し訳なさそうにすることなんて……雪でも降るだろうか。まだ、そんな季節でもないけど。
俺なんかにそんな態度をとるくらいなら、普段からも他の人に対しても、ちゃんと殊勝にしてればいいのに。
「……俺の自己管理が甘かった。それだけ、ですよ」
らしくもなく、気遣わしげに見てくるものだから。その視線に耐えられなくて、避けるように目を伏せた。
……というか、そもそも。
(なんで、こんなにも優しく接してくれてるんだろう…?)
先生には俺の気持ち、バレてしまったわけで。
同じ男から向けられるこの気持ちが、すごくすごく、嫌なはずなのに。
俺とはもう、顔すら合わせたくないはずなのに。
こうして、寝込んでしまってる俺を、気遣ってくれる。
ーーいや、俺が弱ってるからこそ、教師として優しくせざるを得ないのかもしれない。
だとしたら。
「……そう。俺が勝手に、先生のこと、好きになっただけ。だから、先生は、悪くない」
俺はちゃんと、ケリをつけないといけない。
自分のためにも。
……先生のためにも。
「……は?急に何をーー」
「ただ、その好きが……自分で思ってたより、ダメになってしまうくらい、好きになってて……それだけ、なんです」
「……月島?」
もう、いいんだ。
治ったらもう二度と、先生には、関わらないから。
だから。
「……すみません。気持ち悪いですよね、俺。……でも。それくらい、好きで好きで……どうしようも、ないんです」
ちゃんと、言うんだ。
今度こそ、自分の意思で。
アイツとは、関係ない。
今、この時に。
「……気付いたら、つい、先生の姿、探すようになってしまって。この5年間、ずっと傍で見てきたから。先生が嫌がることも、安心してくれる距離も、分かってた、つもりです」
目の奥が、熱い。だけど、もう。
初めて会った時のように、先生の前で泣くのは、だめだ。
あの時と違って、そんなの。
先生に甘えていたいだけの、ただの卑怯者になってしまうから。
シーツを強く掴み、零れそうになる雫を必死にこらえていく。
「……自分でも、なんで好きになっちゃったんだろうな、って。思うこともあるし。でも……やっぱり、好きなんですよね」
泣くな、泣くな。
迷惑、いっぱいかけてしまったんだ。
だから、これ以上は。
「……ごめんなさい。好きになって、ごめんなさい。でも、もう、大丈夫ですから。治療、ありがとうございました。だから、もう……」
もう、無理しなくていいですよって。
そう、言おうとしたのに。
「……ホント。馬鹿だよ、お前は」
そう、先生が掠れた声で、絞り出したように、言った後。
温かくて、大きなナニかが、俺の身体を包み込んできた。
その持ち主が誰のものか、一瞬理解出来なくて。
その先の言葉を思わず飲み込んでしまった。
「先……生?」
しばらく呆けてた俺がやっとの思いで呼びかければ、なんだ、と先生がそっけなく聞き返しながら、優しく背中をぽんぽん、とあやすように叩かれる。
どうやら夢でないらしい。
「なん、で……」
この人の行動の意味がわからず、俺は戸惑う。
けれど、そんな俺の様子を気にも止めず、先生は別に、とだけ言って。そのまま宥めるように背中を撫でられていく。
「俺が甘やかしたいと思ったから、甘やかしているだけだ。そんなに、変か?」
「……意味がわからない、です……」
わからない。
だって、先生は俺のこと、嫌いになったんじゃないのか…?
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