先生、いきなり人の後ろから壁ドンするのはどうかと思います!【番外編連載中】

あか

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本編

伝えたいこと、伝えるべきこと 4

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「まあ、冗談はさておき」

抱きしめていた腕の力はこめたまま、子供をあやすように俺の背中をぽん、ぽんと優しく叩く。
…絶対本気だろ、今の発言。じゃなきゃ、こんな風に子供扱いしたりしないだろうし。

「ーー最近、お前が来ないから。俺の机、グシャグシャなままなんだわ」
「…?」

唐突な話の切り替わりに思わず眉をひそめて先生の顔を覗き込もうとする。
けれど、そんな俺に気付いたのか、自分の顔を見せないようにさらに腕の力を込められた。

「薬、昔は適当な場所に置いてたから、すぐ見つからなくても焦らなかったけど。お前が来てからは整理するようになったから、ここ数日、見つからない時はちょっと焦った」
「……」
「あと、俺が随分前にフッた生徒がやって来て、お前のこと、本気で心配していた。『月島くんがこのまま倒れてしまったら、先生のこと失恋した時以上に逆恨みしますからね!?』とも、言われちまった」
「………」

どうして、俺に都合のいいことばかり、言ってくれるのだろうか。
というより、なぜこの人は。

「俺が帰ってくる」のを前提に、会話してくれているのだろうか。

「あと、お前がいねーと。単純に、つまんねぇんだ」

お前が、必要なんだ。
迎えに来るのが遅くなって、悪かった。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、そのまま言葉を続けられた。

「……るな、って」
「ん?」
「……先生が、言ったんじゃないですか。もう来るな、って。そんなの、勝手すぎる……っ!」

だから、もう先生に会っちゃいけないと思っていた。
嫌われてしまった俺は、先生と顔を合わせちゃいけないんだと。


「………あ?

言ったか?そんなこと」

ーーー思って、いたのだが。



当の先生が、呆気にとられた声を出す。と同時に、腕の力も緩んだため、思いっきり胸を押して距離を取り先生の顔を覗き込めば。
声と同様、驚いたように目を見開かせていた。

「……言いました、よね?それに、俺といるの嫌であの後、出て行ったんですよね?」
「……言ってねーよ。出てったのだって、そんな理由なワケないだろ」

その言葉に唖然としていると、大体、と丸くなっていた目がすわり、肩を強く掴まれ視線を無理やり合わせられる。

「大体、お前は一応、俺の助手ってことになっているんだ。まだ受験生でもないのに、勝手に辞めさせるとか、んな無責任なことしねーし、させる訳ねーだろ」
「……けど!あの日先生は、『帰れ』、って。だから、もう会いに行けないって、思って……あ、れ?」

なんだ?同じような意味で言われたと思ったけれど。
何か、引っかかるような。

「あー……それなら言った覚えあるな。なら、ちゃんともう一度、聞かせてやる」

違和感を感じる俺に、先生はまっすぐ目を合わせ、口を開く。




「俺は、『今日はもういい』、『寮に帰れ』、としか言ってねぇぞ。もう2度と来るなとか、そんな馬鹿なこと。一言一句、言った覚えはない」

「………あ」


『だから、今日はもう、いい。もう、寮に帰れ』

確かに。俺はそう言われた。でも、だからと言って、明日は来ても構わないとか、そんな風に思えるほど心臓に毛は生えてないわけで。


(だとしても……えっと?)


思考力が停止して、そのまま固まっていると、何かが頭の上に乗る。
目の前の先生が片手を上げて、多分俺に向かって押し付けるような、優しく叩くような動きをしていて。
頭の上の正体が先生の掌だと分かっても、やはりうまく頭が働かなかった。

「……で?他に、何か聞きたいことはないのか?」

思わぬ事実に何も考えられなくなっていると、先生がそう促す。そう言われても、急には思いつかない。
けれど、気付いたら。

「……俺、先生が好きなんです」

考えるより先に、声が出た。

「ーーそうか」
「……気持ち、悪くないんですか?」
「あー」

俺の再告白を無表情で受け取る先生に恐る恐る聞けば、途端に歯切れ悪く、困ったように何度も目を彷徨わせ。
それから、バツが悪そうに、俺に向き直る。

「……よくわからん」
「はい?」

正直と言えば、あまりにも正直すぎる返事に、俺が戸惑う。基本白黒はっきりさせる人が曖昧な答えを出すことはそうない。

「いつもなら、告白されるな、って思った時点で鳥肌が立つんだが、それもなかったし。むしろ俺から聞き出すとかしねぇし」
「……でも。最悪だ、って」

あの時。確かに先生は、そう言っていた。
俺に向けて言っていたと、思っていたのだけれど。


「最悪だったよ。あの宇宙人から聞いたことをネタにして、ちょっと揶揄ってやろうと馬鹿な思いつきをした結果、お前を追い詰めて。……俺こそ、教師失格だっての。自分にされたら嫌なはずだったのに、お前なら大丈夫だろって。年下のガキに、無意識に甘えちまってたようだ」

「……」

先生の言葉を信じるなら。最悪だって言ったのは、俺にじゃなくて、自分自身に対してで。それはそれで、別に先生は悪くなかったんじゃ、と言いたいけれど上手く言葉にできなくて。
ーーそもそも、あの時。先生はどんな表情で、あんなことを言っていたのだろうか……?

「大体、嫌だったらお前を出て行かせるし。出て行ったのは俺の勝手だし…つか、俺の部屋なのに、なんで俺が出て行ったのかとか、後で気付いたというか……」

歯切れ悪く、もごもごと言い訳をする先生。
と言うか、どうしよう。ちょっと、頭の中の整理が追い付かない。けれど。




とりあえず、わかったことが1つ。

俺は先生に。
嫌われずにすんでいた、ようだ。




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