先生、いきなり人の後ろから壁ドンするのはどうかと思います!【番外編連載中】

あか

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本編

全てが終わって

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「ーーよし。大分、顔色もよくなったな」

数日後。学校業務での診察を終えた先生が、大人しく病室のベッドで安静にしてる俺を診察し、開口一番にそう言う。

「俺ならもう大丈夫ですよ。心配し過ぎですって」
「ばーか。お前一人にしておくと、完治しないうちに無理して、勝手に行き倒れそうだからな」

そう言って呆れたようにため息をつく先生に対して、俺は、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

あの後、先生の言葉で限界がきた俺は、子供みたいに泣き喚きながら。そのまま、気を失うように寝てしまったらしい。
もう日が高くなった病室の中で起きた俺は、もうしばらく入院するように先生直々に指示されてしまった。

『あと二、三日は安静にして、ちゃんと栄養とれ。授業については、先生方に連絡をとっておくから』

そう言って、そのまま職員室まで行ってしまった先生の後ろ姿にきゅんとしたのは。間違いなく、俺がまだ弱っているからだと思う。いつもなら、そうなっても隠し通せるほどの理性を働かせることができるから。

色々あったのに、俺の面倒を最後まで、看てくれるとか…優しさの大安売りだな。
なんて、思いつつも。嬉しさを抑えることができなくて、胸がぽかぽか温かくなって。
先生が部屋を出ていってからしばらく、こっそり泣いてしまったのは内緒だ。

それから、昨日は他の人への面会も許されるくらい回復していて。1番に会いにきてくれたのは、あの日教室で最後まで心配してくれた北島と西宮だった。

話を聞けば、北島が俺たちの後を追いかけて、先生を連れてきた西宮に場所を教えていたらしい。

『連絡するためにちょっと目を離したすきに月島がアイツにぶん殴られてて…悪い、すぐ飛び出せなくて』

落ち込んだ様子でそう謝る彼に、俺は静かに首を振る。それに、あの様子だと下手に割り込んでしまえば彼が巻き込まれてしまいそうなほどだったのだ。むしろ正解だ。

『…やっぱり、上城先生には尚ちゃんがいないとダメなんだよ』

クスクス笑いながら、先生を呼びに行った時のことを西宮が教えてくれる。

『あの人の机、薬とか印刷物で今にも崩れ落ちそうになってるし、なんか、いつも以上にイライラしてて、やさぐれてるし。あれじゃあ、保健室に行く生徒がもっと激減しちゃうだろうね』

それぐらい、あの人にとって尚ちゃんは特別なんじゃないかな。
そう言いながら、西宮は俺の手をそっと握りしめる。

『僕ね、尚ちゃんなら先生のこと任せられるって思ってる。だから、いいんだよ』

あの人のことを好きだった僕が言うんだから、自信持ってよね。

なんて、優しい笑顔で言われて。
俺はまた、涙をボロボロと流してしまった。
嗚咽はなんとか出さずに済んだけれど、みっともなくて思わず顔を俯かせれば。

尚ちゃんって案外泣き虫なんだね、と西宮に笑われながらも手をそっと握ってくれて。
所在なさげにしていた北島には、不器用ながらも頭をそっと撫でられたのだった。


ーーまあ、散々泣いて勇気を出して先生が好きなことを告白したところ、2人声を揃えて「知ってる」と言われた時は更に恥ずかしくなったのだけれど。他の人には隠せてたと思い込んでた分、更に聞けばクラスの人間には大体バレてるだろうと言われた時は布団の中に引きこもろうかと思った。割と本気で。

『最初は敬愛的なものだろうなー、って思ってたけどさ。先生があえてそばに置いて何も言わないわけだし』
『けどここ1週間の間、あの先公のとこに行かないでショック受けてるっぽいお前見てさー。もしかしなくともガチだったのかなと』
『あと、食事出来なくなるあたりで、みんな察しつくよね』

2人から生温かい笑顔でそんなことを言われた俺は怪我とは関係ない胸のあたりがキリキリ痛んだ。自覚してなかっただけで、ハタから見れば全然大丈夫じゃなかったようだ。

ーーまあ、それはさておき。

人というのは、不思議なもので。不安だった胸のつかえがとれただけで、安心して睡眠をとれるようになるものだと、この数日でよく理解できた。
差し当たっては、ストレスから解放されたことにより睡眠が多く取れるようになり、体のだるさが改善されたのが身をもって分かる。今日はまだ固形物が胃に受け付けないため点滴を打って貰っているが、明日には多分食べれるようになるだろうと、先生は淡々と教えてくれた。人間、食べれるようになればあとは回復するだけだ。

俺の調子が悪くなったのは、先生と今までのようにはもう話せなくなる、という精神的な不安が一番の原因だったから。順調に回復する俺に安心する先生を見て、内心居心地が悪かったりする。勿論、それを教えるつもりは無い。……とっくの昔に、見抜かれてはいそうだけど。
念のために、と言いながら新しい点滴の用意をする先生は、いつもと変わらないように見えた。
そのことが嬉しくて、思わず顔を緩めれば、用意が終わった先生に目ざとく見つかってしまった。

「今度はナニでヘラヘラしてるんだ?お前は」
「……いえ。こうしてまた、先生と話すことができるのが、嬉しくて」

そう言う俺の答えに戸惑ったのか、先生が一度ぱちりと瞬きをする。

「俺、自分の気持ちを話して。先生と話せなくなるのが、すごく怖かったんです。……そばにいた分、先生に言い寄る人を容赦なく追い返していたの、見てきましたから」

目を伏せて、目の前の掛布団を、ぎゅうと握りしめた。

「先生に対する恋心を自覚してから、ずっと怖かったんです。
いつか俺も、あんな風に先生に素っ気なくされて、嫌われるんじゃないか、って」

だけど、先生は。多分、俺が好きでいることを認めてくれたん、だと思う。
そうじゃなければ、ここまで、世話して貰えなかっただろうから。

「だから今、俺って。すごく幸せ者だなぁ、と思って」


俺のこと眼中にないとはいえ、あの夜俺のことを心配して貰えて、キスまでして貰えて。
先生のことを好きになったにしては身に余るほどの果報者だ。



「・・・・・・・・・」
「……えっと。先生?」

何故か、当の先生は仏頂面、というか、呆れたような目で俺を見つめてきたのだけれど。
こんな反応をする先生は初めて見た気がする。


「……いや。お前が単純過ぎて、他人事ながら心配になるな、と思って」
「へ?」
「お前、俺のことが好きなくせに。気持ちを返して貰いたいとか、そーゆーの言わないんだなと」
「でも、先生はそういう意味で俺のこと、好きなわけじゃないですよね?」
「………」

今思えば。あのキスは俺を素直に感情を吐き出させるためにとった強行手段のようなものだろうし。もちろん俺としては嬉しくて今でも顔を真っ赤になりそうな程嬉しいものだったけれど。
本来、一生徒なんて興味ない先生にとっては黒歴史だろうなぁ……なんて、しみじみしていると。またも先生からジト目で睨まれ、更に小さくため息までつかれてしまった。

なんだろう、この反応は?


「どうかしましたか?何か、様子変ですけど」
「いーや。ま、思春期の男子にしてはなんとまー、不健全なことだと思っただけだ」
「でも、不純同性交友は嫌いでしょ?先生は」
「後先考えない馬鹿が嫌いなだけだ」

俺の疑問に答えてるんだからよく分からないまま、先生はまた自分の席へと戻って仕事を始める。相変わらず何が置かれてるか分からない資料の山に、元気になったら絶対あそこから綺麗にしようと心に決めながら、先生の後ろ姿をぼんやり眺める。

(――なんだか、まだ夢を見てるみたいだ)

数日前落ち込んでたのが、遠い昔のことのようだ。
そう思いながら、資料を読み込む先生の後ろ姿を眺める。
それだけのありふれた日常の風景すら、今の俺にとってはかけがいのない幸せに思えて。
俺はまた、顔を緩んでしまっていることを自覚してしまった。



「ーー先生」

「あ?どうかしたか、月島」

呼びかければ、当然のようにこちらを振り返り返ってくる答え。
その些細なやり取りが、今の俺にとっては何よりの、幸せ。

「――好きです。大好きです、先生」

貴方に、想いを伝えられる。
ただそれだけのことで、俺の心は充たされていくのだ――。





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