先生、いきなり人の後ろから壁ドンするのはどうかと思います!【番外編連載中】

あか

文字の大きさ
19 / 29
番外編ー本編開始前

はじまり

しおりを挟む
はじまり 


そいつに出会ったのは、季節が夏に差し掛かかったばかりの頃だった。

その日はまだ日差しが傾いている午前中だったので、生徒が保険棟に来ない間に雑務を片付けようと、適当に書類を整理している時だった。

 

どこからかともなく、すすり泣きが聞こえてくる。この時間は、まだ生徒は眠くなる授業を受けている最中だと言うのに。

 


「……ぅ、う……っ」

「……ん?」

 

最初は気のせいだろう、と自分で納得して、まだ終わってない仕事を片付けようとした。

しかし、それから十分くらい過ぎても、まだか細い泣き声が漏れてくる。何とか気にしない振りをし続けたのだが、だんだん薄気味悪く思えてきた。
しかも、その声は遠ざかる気配がしない。

一度気になれば、原因を突き止めるまで放置するわけにはいかない。そう考えて進んでいなくなった仕事の手を止め、立ち上がる。それから、さっきから聞こえてくる声の方に近付いてみた。どうやら、音源はすぐ近くにある窓の外のようだ。

勢いよく窓を開けて遠くを見やってみる。が、どんなに眺めても、姿はどこにも見当たらない。
それでも気になるので、ふと、視線を下に降ろしてみる。

と。

「……っ、う……」

そこには、小さく背中を丸めたガキが、膝を抱えてメソメソしてた。
ブレザーの色を見るに、おそらく中等部の生徒だろう。しかも、見慣れない姿を見るに、今年の春入学したばかりだと推測できる。

(……あー、もしやホームシック、という奴か?)

この学校は中高一貫校ではあるが、学園自体、となると異なる。
 学園全体は、とある金持ちが経営してるせいか、富裕層限定の幼等部に初等部、果ては一般人も通える大学まで、グループとして存在しているのである。
 勿論、この三つの学校に関しては寮制度は設けていない。

幼等部や初等部、大学は都内にある。前者2つは、まだ生徒には保護者が必要な年齢であるから、という点に尽きる。
なので、中等部に入って初めて、親元から離れた共同生活を行う生徒が多い。そのため、4月から5月の間は、ナイーブになった生徒たちのケアで忙しいのは恒例行事である。

だが、今はもう期末も近い夏の時期だ。そろそろ寮生活にも慣れ、親しい友人の一人や二人はいてもいいはずなのだが…。

(コミュ症、というやつか?……よくもまあ、この時期まで一人で耐えたもんだよなぁ)

勿論、イジメとか、友達と喧嘩して一人になりたかったというのもあるかもしれない。
どちらにしろ、自分の仕事部屋のすぐ近くで泣かれるのは、なしである。……ほんの少しの良心が、このまま放っておいたら、変な輩に絡まれて大事が起こるかもしれないと、心の片隅で思ったくらいだ。


「なーにやってんだ、新入生。ここは俺の縄張りだ、勝手に入ってくんな」

窓の下の固まりに向かってそう言ってやると、面白いほど大きく体をビクつかせた。それから、俺の方を恐る恐る振り向く。

真っ赤に目を腫らせたままこちらを見上げるそいつは、思ったより顔が整っていた。どちらかと言うと、可愛い系だろうか?まあ、まだ中坊のガキんちょだしな。成長したら、また印象も違ってくるに違いない。

そしてそいつは、俺の予想通り、彼の身に付けているネクタイは今年の1年の色であった。

「ったく、いつまでメソメソしてるんだ。……悩み相談ぐらいなら無料で聞いてやるからこっち来い。ウザッてぇ」

ため息の一つや二つを我慢して、出来るだけ優しく声をかけてやると、何故かまたみるみるうちにその目に涙を溜められて。こっちが止める間もなく、いきなりわんわん泣き始めた。

(……意味わからん)

正直、関わらなきゃよかったと。
 物凄く、後悔し始めていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL 不定期更新

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

処理中です...