22 / 29
番外編ー本編開始前
4
しおりを挟む「……上城?」
ーーところを、咄嗟にソイツの腕を乱暴に引っ掴み、無理矢理こちらに引き寄せる。
月島は先程までの笑みを消して、大きく目を見開いて、固まったままになっていた。
それはそうだろう。今日会ったばかりの、教師とはいえ他人にいきなり無言で引っ掴まれれば、そういう反応にもなるわな。
その時、俺はほとんど、直感で。
こいつを、今逃がしては行けない。
何故か、そう思った。
「どうかしたか、上城」
「……伊原、今日一日コイツ借りるぞ」
「え?」
「最近、机の上が片付かなくてな。ちょうどいいし、コイツに手伝わせる」
「お前、その悪い癖は相変わらずかよ」
「うっせ。……おい、クソガキ。テメェもいいよな?」
「は、ぇ……え?」
突然の行動に唖然としてから、ガキは様子を伺うように伊原を見る。そんな少年の様子に、伊原は苦笑する。どうやら、俺の意図は汲んでくれたようだ。
「大丈夫だ。コイツ態度はデカいけど、悪い奴じゃないから。…それじゃ、上城。昼休みにまた様子見に行くからな」
「いらねーよ、うっぜ」
「お前のためじゃねーよ自意識過剰が。…じゃ、月島。また後でな~」
そう言って、伊原は保健室から出ていったのだ。
残ったのは、この部屋の主である俺と、先程から固まったままの、クソガキだけ。
「おい」
「あ…すみません」
腕を離してからも呆ける少年に声をかけてやると、はっと我に返って、俺の机の方を見る。
そこには、書類とか、ファイルとかでグシャグシャになっている残念なことになっていた。
「……えっと。机の整理って、あそこですか」
「あー…気にすんな。いつもの通りだ」
「え?でも、俺今からあそこを…」
「気にするな。今のは嘘」
「う……え?」
保険医とはいえ、教師としては問題すぎる発言に理解が追い付かないのだろう。ガキが唖然としたままなのをいいことに、俺はヤツの首根っこを引っ掴み、近くのベッドに無造作に押し込める。
「は、ちょっ……!?いきなり、何をっ」
さすがに、説明もなしにやり過ぎたか。まあ、反省する気はないが。
「別に机なんぞ汚いままでも充分だし。むしろ勝手に片付けられる方が困るんだよ、俺は」
「はい!?じゃ、何で…」
「気持ち悪いんだよ、お前の笑顔」
「え……」
俺の言葉に固まる月島。そんなガキに、俺は大袈裟にため息をついてみせる。
「教室に戻ったところで、お前また溜めこむだろ。で、1人で堂々巡りして、ドツボにはまりそうだったからな。……また誰かに迷惑かける前に、ここで少し休んどけ」
まあ、誰かも何も、主に俺に迷惑かけないでほしいだけだが。
内心でそんなことを思いながら、カーテンを引いて仕事に戻ろうとする。
が。
「……なんで」
「あ?」
心もとなさそうに出すか細い声に、カーテンを引きかけた手を止める。
「俺、そんなに変な顔、してました?」
「いや。むしろ完璧な笑顔だったぞ」
「……それなら、どうして……」
その指摘に考えこむ。正直、何も考えてなかったと言った方が正しいからだ。
だから、よくよく考えて――気になった要因を、やっと思い当たる。
「完璧すぎるんだよ、その顔。お前くらいのガキが、浮かべる表情にしては」
「……ぇ」
俺の答えに、ヤツはまた固まってしまっていた。そりゃそうだろう、今のはただのこじつけみたいなもので、自分でも気づいていなかったはずだから。だから、適当な理由をつけて言ってみる。
「お前、伊原が来るまで散々泣いてオロオロしてたくせに、一瞬で優等生みたいな笑顔作りやがったからな。……あー、実際、優等生なんだっけ?」
「……」
茶化してみるも、沈黙が帰ってくるだけだった。
俺としては適当に言ったつもりでも、コイツにとっては、思い当たる節でもあるのだろう。
まあ、どうでもいいんだが。
「とりあえずここでメソメソしててもいいから、きちんと吹っ切れとけ。
そんで、もう二度とここに来るんじゃねーぞ」
そう言って、カーテンを引いて、自分の机に戻った。
そのまま、十分くらいは、経っただろうか。
カーテンの向こう側から、抑えきれなかったろだろう、小さな震えた泣き声と、鼻をすする音がする。
それを俺は、聞こえない振りをして。
残っていた雑務を、淡々と片付けたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
不定期更新
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる