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三話③
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五回目くらいの深呼吸。
息を吐き出そうとした時に、メイクルームの内側からコンコンコンっとノックの音が聞こえ、すぐにガチャリとドアが開いた。
息を吐ききれないまま、驚きで思わず息を吸い込んでしまったので、喉がヒュッと音を立てて俺はそのまま咽せた。
少し申し訳なさそうな顔をして、まだ咽せている俺を見下ろしているのは瑞稀本人だった。
「ごめん…。いつ入ってきてくれるのか待ってたんだけど、ね?」
「い、いえ…」
むしろ気づいていたんですね?と思いながら涙目のまま見上げると、やはり美しすぎる顔がそこにあった。
俺だって178cmはあるので、背の低い方じゃない。それでも頭ひとつ分、目線の高い位置にある瑞稀の目は今はもうナチュラルな色になっている。撮影が終わり、すぐにカラコンは外したのだろう。以前にドライアイが酷くてコンタクトはあまり着けないと話していたことを思い出す。
もしかすると今は、透明なコンタクトも着けていないのかもしれない。その証拠に、俺の顔を見つめる瞳に少しだけ圧がかかり、心なしか距離が近い。
「良かったら、入ってください」
その言葉は救いだった。見つめられて、頬が熱くなっている。
コンタクトが入っていないならきっと気づかれてはいないだろうけど、気づかれていないと良いなと思いながら、招かれるがままに楽屋に入った。
「あの、今日はお疲れさまでした。良い作品が作れると思います。ありがとうございました」
入り口付近に立ちながら、瑞稀の背中に向かって頭を下げた。
「いえいえ。素敵なお仕事をいただけて、こちらこそありがとうございました」
瑞稀が振り向いたのを感じて頭を上げた。瞬間、視線がぶつかって俺は言葉が出なくなった。
「えーと。坂崎くん?大丈夫?」
「いえ…っ、あの…」
先ほどとは比べ物にならないくらいの、頬の熱さだ。耳まで熱い。こんな顔を見られるのが恥ずかしくて、思わず両腕で顔を隠す。
「気づいてなかったんだね」
苦笑いの口調が頭上から降ってきて、やんわりと腕をどけられる。
「じゃあ、久しぶり。って言った方が良いのかな」
へにゃりと笑って姿勢を崩し、猫背になったら俺と目線が同じになる。
そこには眼鏡をかけた、あの頃の吉名先輩がいた。
息を吐き出そうとした時に、メイクルームの内側からコンコンコンっとノックの音が聞こえ、すぐにガチャリとドアが開いた。
息を吐ききれないまま、驚きで思わず息を吸い込んでしまったので、喉がヒュッと音を立てて俺はそのまま咽せた。
少し申し訳なさそうな顔をして、まだ咽せている俺を見下ろしているのは瑞稀本人だった。
「ごめん…。いつ入ってきてくれるのか待ってたんだけど、ね?」
「い、いえ…」
むしろ気づいていたんですね?と思いながら涙目のまま見上げると、やはり美しすぎる顔がそこにあった。
俺だって178cmはあるので、背の低い方じゃない。それでも頭ひとつ分、目線の高い位置にある瑞稀の目は今はもうナチュラルな色になっている。撮影が終わり、すぐにカラコンは外したのだろう。以前にドライアイが酷くてコンタクトはあまり着けないと話していたことを思い出す。
もしかすると今は、透明なコンタクトも着けていないのかもしれない。その証拠に、俺の顔を見つめる瞳に少しだけ圧がかかり、心なしか距離が近い。
「良かったら、入ってください」
その言葉は救いだった。見つめられて、頬が熱くなっている。
コンタクトが入っていないならきっと気づかれてはいないだろうけど、気づかれていないと良いなと思いながら、招かれるがままに楽屋に入った。
「あの、今日はお疲れさまでした。良い作品が作れると思います。ありがとうございました」
入り口付近に立ちながら、瑞稀の背中に向かって頭を下げた。
「いえいえ。素敵なお仕事をいただけて、こちらこそありがとうございました」
瑞稀が振り向いたのを感じて頭を上げた。瞬間、視線がぶつかって俺は言葉が出なくなった。
「えーと。坂崎くん?大丈夫?」
「いえ…っ、あの…」
先ほどとは比べ物にならないくらいの、頬の熱さだ。耳まで熱い。こんな顔を見られるのが恥ずかしくて、思わず両腕で顔を隠す。
「気づいてなかったんだね」
苦笑いの口調が頭上から降ってきて、やんわりと腕をどけられる。
「じゃあ、久しぶり。って言った方が良いのかな」
へにゃりと笑って姿勢を崩し、猫背になったら俺と目線が同じになる。
そこには眼鏡をかけた、あの頃の吉名先輩がいた。
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