流星の棲み家で

桜井凪

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三話②

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 瑞稀みずきの登場で、スタジオ全体が一気に華やぐ。
 いよいよ撮影が始まる、という緊張感とともに場のエネルギーが一気に高まる。
 忙しなく動き回るアシスタント。ライティングの説明や、メイクの最終チェックをするスタッフ。
 俺も、よろめいて壁に手をついている場合ではない。一つ深呼吸をして、糸井さんの撮った写真がリアルタイムで映し出されるモニターの前に移動する。
 カラーコンタクトの撮影なので、スタジオ内の色味は最小限に抑えられている。何よりも撮りたいのは瑞稀の目の色。カラーコンタクトの色味によって彼がさまざまに見せる表情だ。
 
 「始めまーす」と言う糸井さんの声によって、ざわついていたスタジオ内がしんとなる。

 「少し横向いて。そう、いいね」スタジオの中には糸井さんの声とシャッターを切る音、そしてストロボのバチっという破裂音だけ。
 糸井さんの指示に的確に答えながら、独特の雰囲気を出す瑞稀に見惚れていない奴なんていなかった。

 「本物やべぇな」

 少し離れたところにいた間宮が近づいてきて、俺の耳元で言う。
 やべぇ、なんてものじゃなかった。眼差し一つで空気を変えている。
 今までもプロのモデルの現場には何度も立ち会っているが、瑞稀のそれは危うささえ感じさせるほどの色気を醸し出していた。
 間宮の言葉に、小さく頷いていると視線を感じる。ふと見ると瑞稀と目が合った。
 瑞稀の目は今、シルバーのカラーコンタクトに彩られてまるで人外のようにも見える。決して出会ってはいけない、出会ったら死を覚悟しなくてはならないような獰猛さと冷静な知恵を持った野獣の目にも見えた。

 「ほんと、やべぇな」俺の声はほとんど息だった。上手に声も出せないほど、その目に魅入られていた。


 ブルー、グリーン、ライトブラウン、そしてシルバー。全部で4色のカラーコンタクトの撮影は無事に終了した。
 色味に合わせて、撮影時のスタイリングや背景を変える案も出たけれど、ここはせっかく瑞稀を起用したのだから、瑞稀のモデル力を信じることにして、すべて同じ条件下で撮影をすることにした。
 提案したのは俺だ。そういう経緯もあって、撮影が無事に終了したことに対する安堵も大きかった。
 常にモニターでチェックしていた限りでは、俺の提案は成功だったと言えるだろう。
 ただ、目の色が変わっただけなのに。色が変わるごとに違う表情を見せた瑞稀は本物のプロだった。

 「お疲れ様でしたー」というアシスタントの声が聞こえて、瑞稀がスタジオを退散しようとしていることにやっと気がついた。
やべぇ、俺挨拶してねぇ。
 会釈を返しながらスタジオを出る瑞稀の後を追いかけるが、いかんせんコンパスの長さが違う。どんどん遠ざかっていく瑞稀の背中を追いかけるも、あと一歩というところでメイクルームに消えてしまった。
 少し、息を落ち着けてからノックしよう。と考え、何度か深呼吸を繰り返す。
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