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3章 合流
36話
しおりを挟む「……途轍もないな」
近づいてくる葵獅が、彼の特訓の成果に舌を巻く。
「あと三十秒が限界ってとこかな。上手くできて良かったですよ」
「動体視力には自信があるんだが……、体感、時速六十前後か?よく身体がついていくな」
「それなんですけど、この魔法使うと、判断、伝達、ブレーキ、身体の機能全てが速さに対応できるようになるんすよ。肉体強化ってより、身体強化の方が合ってますね」
そう、これこそがこの魔法の真価である。
筋力向上に留まらず、五感の強化、果てには細胞の活性化や、神経系統にまで、魔力に見合った影響を及ぼす。
モンスターと戦う上で、必須とも言っていい魔法。
「葵獅さんちょっと俺のこと全力で殴ってみて下さい」
「……大丈夫なんだろうな?」
「えぇ」
両手を広げる東条に狙いを定める。
「ふんッ」
「ぶグっ」
顔面にクリーンヒットした拳はそのまま彼を押し飛ばした。
「いや、顔面て。躊躇なさすぎでしょ」
東条は倒れた先でむくりと起き上がる。
「む、すまん。……凄いな、防護性もあるのか。固い粘土を殴った様だ」
「俺の魔力が葵獅さんの魔力を上回った証拠ですよ。
普段なら今のところ差は筋力で埋められると思いますけど、ここまで開くと傷すら負わせられなくなるんです。
自身の魔力量は、そのまま物理的な鎧と思ってもらって間違いないです」
彼は、これが自衛隊が手こずっていた銃の効かないモンスターの秘密だと考えていた。
要するに、魔力に対抗できるのは魔力しかないのだ。
「紗命の言っていた通り、勉強になることが多いな」
「そうっすか?照れますね」
「……不躾ではあるが、その技、教えてはくれないか?」
「勿論ですよ。てかその為についてきたんじゃないんですか?」
「ハハハっ、そうだな。断られたら見て盗もうと思ってたが、これは無理だ。是非ご教授願う」
頭を下げる葵獅には、格闘家らしい潔さが見て取れる。
「交換と言っちゃなんですけど、俺にも格闘術教えてくれませんかね?ずっと頼もうと思ってたんです」
「勿論だ。ならば今日からは互いに師だ、敬語はいらないぞ?」
「……慣れねーけど、了解」
獰猛に口角を上げる二人。
「おっしゃ。気張ってこうぜ」
「おう」
心の底に戦闘慾を持つ者同士、彼等は互いに通ずるものを感じ合った。
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