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2巻 1章~国と魔獣~

5話

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 §


 皇居東方。

 昨夜の内に東京駅を通過したα隊・第一班の十人。

 皇居避難民をこの地獄から救い出す糸口となり得る彼等は今、人形町付近で派手な銃声を轟かせていた。

「六時の方向、獣型接近!数は五」

「九時、昆虫型!多数!」

 絶え間なく襲い来るモンスターを撃ち殺しながら、合流地点へとひた走る。

 複数の手榴弾が爆音を上げ、奴らの甲殻が粉々に弾け飛んだ。

「隊長、弾数が持ちません」

「あと少しだ。弾が無いなら殴り殺せ」

「っ了解」

 大通りに出た彼等は、乗り捨てられた車の上を駆けながら小型爆弾を投げ捨てていく。

 最後の一人が飛び降り、木の後ろに隠れた瞬間――

「起爆!」

 一斉に起爆装置のボタンを押す。
 人間を追いかけ、一本道に雪崩れ込むモンスターの足元。



 ――滅殺の光が瞬いた。



 空気が膨張し、音が消える。

 車に引火し、連鎖大爆発を引き起こした赤色の死は、人敵の悉くを滅ぼし黒煙を靡かせた。


「今だ、走れ!」

 地を蹴り、土を飛ばす。


 隅田川を目に映した辺りで、再び四方八方から音に釣られモンスターが集まって来た。

「グルァッ!」

「――ッ」

「バギャ!?」

 横から飛び掛かってくる獣を銃身で殴り飛ばし、ナイフで切り裂き、走る、走る、走る――。


 前方で集団の間に、全力で飛び込んだ。


 地に転がる彼等の後方で連続した銃声が鳴り響く。

「お疲れ様です」

 荒い息を吐く十人に、そっとタオルと水が差し出された。



 場所は隅田川を横断する、清洲橋が上。

 α隊・第一班の目的は、進路上のモンスターの確認、加えて彼等との合流であった。

 彼等はのモンスターを、に行かせないための部隊。
 そこから分かるのは、あちら側には戦力を裂く余裕があるということ。


 隊長は一度後ろを向き、自分達が通ってきた場所を見る。

 コンクリート群から歪に生える、魔の緑化地帯。


 ――対して対岸の街は、茜色の空の下、何も変わらない穏やかな時間が流れている。

 橋一つ隔てただけ。


 されど両者は、空間も、時間も、恐怖も、安寧も、何もかもが隔絶してしまっていた。
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