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3巻~友との繋がり~ 1章

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「ぶはっ、大丈夫か?ひひっ」

「…………」

 地面に倒れ伏すノエルを笑いつつも、森の奥から近づいてくる何かを警戒する。
 感じる威圧から察するに、今日一番の大物だ。

「ボルルルル……」

 木々の暗がりから現れたそれは、大きな手で死肉を掴み、バリバリと噛み千切り咀嚼する。

 四mに届きそうな体躯は筋肉で覆われ、何より特徴的なのが、顔の半分を占める程の単眼だ。

 一つ目の巨人は東条の持っている巨肉を瞳に映し、三日月型に牙を覗かせた。


「キュクロプスってとこか。すげー迫力だな」

 肉を肩に担ぎ、ベヒモスを除いた過去一の威容と向き合う。

 東条は、あの象とノエルを理解という枠組みから外している。
 そうして作られたランキングの中で、目の前の化物はパッと見の魔力量、肉体能力共に間違いなくトップに君臨するだろう。

 因みに現在の東条の位置は、ライノスより上、ヒポポタより下と言ったところだ。

 人間の中では、潜った修羅場の数が違いすぎるせいでずば抜けているだけであり、強者の中では特段高いというわけではない。

 何度も言うように、強くなればなるほど魔力量は増大するが、一概にそれが全てとは言い切れないのだ。
 技量や、それこそcellによって、いくらでも戦況は変わる。

 彼がキュクロプスを分析している隣で、ノエルがゆらりと立ち上がった。

「……まさは手出さなくていい。持ってて」

「んぁ?生きてたんか」

 先のお返しと冗談を言うが、ノエルは何も言わず、カメラを投げ渡し歩いていく。

(……あちゃ~、怒ってらっしゃる)

 確かにあんなことをされれば切れるのも当然だ。
 東条は邪魔にならないよう、出来るだけ二人から離れ始めた。

「一応気ぃつけろよ。強ぇぞ」

「ん」

「冷めねぇ内に終わらし」

「ん」

「ボルァア!!」

 肉が去って行くのを見たキュクロプスは、全身のバネを使い突進。前方に立つ小さな邪魔を無視して地を蹴った。

 瞬間、

「ルっ!?――ッ」

 足元から連続で生える土棘を、巨体からは想像のつかない驚異的な身体能力で躱し、自分を追って迫ってくる分を殴り壊す。

「……ルオォ」

 睨む先には、一人の少女。邪魔と判断した少女が、此方を見ている。


「ノエルを見ろ」


 縦に割れた紫眼が、瞬きもせずにキュクロプスを射抜く。

「ノエルは怒っている」

 風に髪を靡かせ、空気が揺れる程の殺気を滾らせて、

「ノエルとまさは、邪魔されるのが嫌いなんだ」

「ボルッ!!」

 少女を邪魔者ではなく敵と判断したキュクロプスは、土の盾を作り出し突貫。生成される棘を薙ぎ払い、瞬きで肉薄し振りかぶる。

「ゴッ!?グっ――」

 と同時に、岩石でできた巨大な拳に殴り飛ばされた。
 途轍もない衝撃に脳が揺れるが、辛うじて空中で体勢を直し、地面を削り向き直る。

 見れば少女の両脇には、先程までは無かった巨腕が生えている。あれをどうにかしなくては、近づくこともままならない。

 口から垂れる血を拭いたキュクロプスは、地面に手をつき、

「ボルル……ッ」

 うねる特大の土柱を十本、ノエルへ向けて放った。

 高く打ちあがった十の柱は、空を覆い隠し、たった一人の少女を圧殺せしめんと降り注ぐ。天を地が犯すその光景に、


「……はぁ」


 ノエルは一つ、苛立たしさを孕んだ溜息を零した。

「……ボ、ボルァ?」

 キュクロプスは眼前の光景に疑問を抱く。……土柱が伸びるのを止め、空中で止まっている。

 バシバシと地面を叩いて魔力を送り込むが、うんともすんとも言わない。

「ボルッ、ボルァッ!!」

 必殺の一撃の不発に、玉の汗が浮かぶ。

 そこに、

「どいつもこいつも。ノエルの前で、大地に命令するな」

 弾かれる様に顔を上げれば、自分が放ったはずの土柱が全て、進路を変え此方に降って来ていた。

「――ッボ、グルァ!!」

 数段威力を増した魔法は、爆撃の如く降り注ぎ、地面を陥没させ尚も止まらない。
 コンクリを抉り、森を破壊し、一体の巨人を執拗に追いかける。

 後には、濛々とした砂煙が辺りを包んだ。



「グ、ボルァ……」

 砂煙が晴れて現れたのは、四肢を棘の生えた蔓で貫かれたキュクロプスであった。

 土柱を躱し、受けきったは良かったものの、隙をつかれ腱を貫かれてしまっていた。

「三分くらいか」

「ボルァアッ」

 興奮が収まり人間の瞳に戻ったノエルが、動けない単眼を興味なさげに見る。


「……『ロゼ』」


「――ッボっグボッ、ボァ!!っギャベっぁびゃ――

 途端、蔓がうねり、キュクロプスの身体を縫う様に進み始める。その悍ましい恐怖と激痛に叫び声を上げるが、最後には蔓が収縮し、バキベキと巨体を捻り潰した。

 彼女が背を向ける頃には、天辺に、血の様に赤い薔薇が咲いていた。
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