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皇太子サイド
あの日
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目の前にルヴィが倒れている。震える手で抱き起こすと、ルヴィの血がじんわりと俺の手を濡らす。
いったい、何が…?何が起きている…?
修道院に向かわせているはずが、突然ルヴィの魔力が途中の道で動かなくなった。休憩を取るようになど命じていない。
俺はイヤな予感がして、ルヴィの元へ飛んだ。…ルヴィが、目の前で突き飛ばされた。
「ルヴィ!!」
予想だにしないことを目にして、俺は体が動かなかった。続けて、ドサッという音が耳に届く。
慌てて崖下に飛んだ。ルヴィが…俺のルヴィが!
あと少しで、ようやく手に入るはずだった俺のルヴィが!!
「ルヴィ!!しっかり…しっかりしろ、死ぬな!」
体が震えるのを止めることができない。ダメだ、こんなこと、ダメだ。ルヴィが死んだら…俺は、俺はどうしたらいいんだ?
ルヴィがうっすらと目を開く。ずっと、ずっと見てきたキレイな緑の瞳。でも、光がない。
「…で、ん…」
「喋るな!いま、どうにか…カイルを、カイルを呼んでくれ!クソ…っ!血が…!」
こんなとき、俺の魔法は何にも役に立たない。やっぱり、俺は役立たずでしかないのか?
ルヴィを、自分が愛する女を、助けることができないなんて…!
「…さわ、ら、」
「ルヴィ?」
何かを呟くルヴィの声を必死に聞き取ろうとする。
「さ、わらな、いで」
明らかな拒絶の言葉に、当然だと思いながらも心が抉られる。
「ルヴィ、喋るな、ごめん、すまなかった!俺の…」
俺の、勝手な計画のために、たくさん、たくさん傷つけた。でも、ルヴィが欲しくて欲しくて…これから、今までの償いをして、許してもらえなくても、ずっと離さないで側にいるつもりだったのに。まだ、なんにも償いをしていないのに!
「…い、」
「ルヴィ!」
ルヴィの瞳から涙が溢れる。同時に、強い光が宿ったと思うと、ルヴィがふわっと微笑んだ。俺が叔母上と、初めてルヴィを見たときの、あの屈託のない笑顔。
「…ルヴィ?」
「いき、たかっ、…」
ルヴィの口から零れる微かな吐息を最後に、ルヴィの目が閉じられた。彼女の中の暖かい、キレイな緑色の魔力が少しずつ消えていく。
「逝くな!ルヴィ!俺を、俺を…置いて逝くな!」
俺の言葉を嘲笑うかのように、ルヴィの魔力が消失した。
「兄上!」
「…カイル」
「いったい、何があったのですか。義姉上は、いったい、」
カイルは俺が抱くルヴィを見て「…魔力が感知できない」と顔を歪めた。そして上を見上げる。
「…コリンズ公爵令嬢」
カイルは、俺の肩を掴んで「だから言ったでしょう!?」と叫んだ。
「彼女に、はっきり言うべきだと!コリンズ公爵令嬢は、兄上ではなく、私の婚約者だと!」
「…すまない」
「兄上、とにかく、このままにはできません。一度…兄上!?」
俺はルヴィを抱いたまま、カーディナル魔法国へ飛んだ。
カーディナル魔法国の、辺境に近い森の中に俺は叔母上の許しを得て家を建てた。詳しくは話さなかったが、将来、伴侶とともにここに住む、カーディナルの人間になりたいと伝えるととても喜んでくれた。
俺が何でもできるし、ルヴィにも少しずつ覚えてもらうつもりでいたから、使用人を置かなくてもいい大きさの家にした。侯爵令嬢として暮らしたルヴィには小さすぎるかもしれないが、たくさん部屋があっても使う予定がなかったから…俺が仕事で家を空ける以外は常に側にいるつもりだったから、これでいいと思った。
カイルに感知されると困るので、俺は全体をドームで覆った。しばらくは阻害してくれるはずだ。
俺は、寝室として準備した部屋に入り、魔法で水泡を出してその中にルヴィを入れた。冷たいのは可哀想だから温度を調整する。
水の中のルヴィの体や服から、血や汚れが取り去られていく。キレイになると、穏やかにただ眠っているようにしか見えない。
「…」
ルヴィを水泡から出し、あたたかくした風魔法で乾かす。そのまま横抱きにしてルヴィをベッドに寝かせた。
俺もルヴィの隣に横になり、ルヴィの手を取る。暖かい湯と風でキレイにしたのに、彼女の手は冷たかった。初めて繋ぐ、あれだけ思い焦がれたルヴィの肌。その冷たさは、ルヴィの俺に対する拒絶を表しているのか。
とめどなく涙が零れる。
ひとしきり泣いた俺は、ゆっくり起き上がるとルヴィの唇にキスをした。最初で最後のキス。また涙が零れてくる。
俺は叔母上に手紙を書き、転送した。
「叔母上、お手を煩わせることお許しください」
もう一度、ルヴィの元に戻る。彼女を汚すわけにはいかないので、俺はベッドには上がらず傍らの床に座った。
自分の剣を抜き、首にあて一気に引く。
痛みはない。ただ、ゆっくりと意識が遠のいていく。
ルヴィのところに行きたい。ルヴィがいるならどこでもいい。ルヴィ。ルヴィ。ルヴィ。
いったい、何が…?何が起きている…?
修道院に向かわせているはずが、突然ルヴィの魔力が途中の道で動かなくなった。休憩を取るようになど命じていない。
俺はイヤな予感がして、ルヴィの元へ飛んだ。…ルヴィが、目の前で突き飛ばされた。
「ルヴィ!!」
予想だにしないことを目にして、俺は体が動かなかった。続けて、ドサッという音が耳に届く。
慌てて崖下に飛んだ。ルヴィが…俺のルヴィが!
あと少しで、ようやく手に入るはずだった俺のルヴィが!!
「ルヴィ!!しっかり…しっかりしろ、死ぬな!」
体が震えるのを止めることができない。ダメだ、こんなこと、ダメだ。ルヴィが死んだら…俺は、俺はどうしたらいいんだ?
ルヴィがうっすらと目を開く。ずっと、ずっと見てきたキレイな緑の瞳。でも、光がない。
「…で、ん…」
「喋るな!いま、どうにか…カイルを、カイルを呼んでくれ!クソ…っ!血が…!」
こんなとき、俺の魔法は何にも役に立たない。やっぱり、俺は役立たずでしかないのか?
ルヴィを、自分が愛する女を、助けることができないなんて…!
「…さわ、ら、」
「ルヴィ?」
何かを呟くルヴィの声を必死に聞き取ろうとする。
「さ、わらな、いで」
明らかな拒絶の言葉に、当然だと思いながらも心が抉られる。
「ルヴィ、喋るな、ごめん、すまなかった!俺の…」
俺の、勝手な計画のために、たくさん、たくさん傷つけた。でも、ルヴィが欲しくて欲しくて…これから、今までの償いをして、許してもらえなくても、ずっと離さないで側にいるつもりだったのに。まだ、なんにも償いをしていないのに!
「…い、」
「ルヴィ!」
ルヴィの瞳から涙が溢れる。同時に、強い光が宿ったと思うと、ルヴィがふわっと微笑んだ。俺が叔母上と、初めてルヴィを見たときの、あの屈託のない笑顔。
「…ルヴィ?」
「いき、たかっ、…」
ルヴィの口から零れる微かな吐息を最後に、ルヴィの目が閉じられた。彼女の中の暖かい、キレイな緑色の魔力が少しずつ消えていく。
「逝くな!ルヴィ!俺を、俺を…置いて逝くな!」
俺の言葉を嘲笑うかのように、ルヴィの魔力が消失した。
「兄上!」
「…カイル」
「いったい、何があったのですか。義姉上は、いったい、」
カイルは俺が抱くルヴィを見て「…魔力が感知できない」と顔を歪めた。そして上を見上げる。
「…コリンズ公爵令嬢」
カイルは、俺の肩を掴んで「だから言ったでしょう!?」と叫んだ。
「彼女に、はっきり言うべきだと!コリンズ公爵令嬢は、兄上ではなく、私の婚約者だと!」
「…すまない」
「兄上、とにかく、このままにはできません。一度…兄上!?」
俺はルヴィを抱いたまま、カーディナル魔法国へ飛んだ。
カーディナル魔法国の、辺境に近い森の中に俺は叔母上の許しを得て家を建てた。詳しくは話さなかったが、将来、伴侶とともにここに住む、カーディナルの人間になりたいと伝えるととても喜んでくれた。
俺が何でもできるし、ルヴィにも少しずつ覚えてもらうつもりでいたから、使用人を置かなくてもいい大きさの家にした。侯爵令嬢として暮らしたルヴィには小さすぎるかもしれないが、たくさん部屋があっても使う予定がなかったから…俺が仕事で家を空ける以外は常に側にいるつもりだったから、これでいいと思った。
カイルに感知されると困るので、俺は全体をドームで覆った。しばらくは阻害してくれるはずだ。
俺は、寝室として準備した部屋に入り、魔法で水泡を出してその中にルヴィを入れた。冷たいのは可哀想だから温度を調整する。
水の中のルヴィの体や服から、血や汚れが取り去られていく。キレイになると、穏やかにただ眠っているようにしか見えない。
「…」
ルヴィを水泡から出し、あたたかくした風魔法で乾かす。そのまま横抱きにしてルヴィをベッドに寝かせた。
俺もルヴィの隣に横になり、ルヴィの手を取る。暖かい湯と風でキレイにしたのに、彼女の手は冷たかった。初めて繋ぐ、あれだけ思い焦がれたルヴィの肌。その冷たさは、ルヴィの俺に対する拒絶を表しているのか。
とめどなく涙が零れる。
ひとしきり泣いた俺は、ゆっくり起き上がるとルヴィの唇にキスをした。最初で最後のキス。また涙が零れてくる。
俺は叔母上に手紙を書き、転送した。
「叔母上、お手を煩わせることお許しください」
もう一度、ルヴィの元に戻る。彼女を汚すわけにはいかないので、俺はベッドには上がらず傍らの床に座った。
自分の剣を抜き、首にあて一気に引く。
痛みはない。ただ、ゆっくりと意識が遠のいていく。
ルヴィのところに行きたい。ルヴィがいるならどこでもいい。ルヴィ。ルヴィ。ルヴィ。
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