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第三章
ケイトリン・サムソン(エカテリーナ視点)
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相変わらず、すごい腕だ。
目の前でニコニコする女性を改めて見る。私が魔術団に押し掛けたあの時に比べれば、当然のことながら歳を重ねているが…それでも、実年齢よりは遥かに若く見える。怖くて年齢についての話題は触れることはできないが…。
「あら、目が覚めたようね」
リッツの襟を掴んでズルズルと引きずってくる。「痛い!痛いです、団長…ゴホッ、苦しい!団長、限界です許してください!」と叫ぶリッツを無視して自分の夫の隣に突き飛ばすと、同じく氷の刃で床に縫い付ける。
「ひぃ!」
顔色が、青を通り越して蒼白になりガタガタ震えるリッツの脇にしゃがみこむと、「ほんとに久しぶりねぇ、リッツ。何年ぶりかしら?」とニコニコしながら問いかける。
「はいっ!このような格好でお答えすることをお許しくださいっ!団長が魔術団を去られてからなので、3年になりますっ!」
「そうねぇ、3年ぶりねぇ」
と言った彼女は、一転して『消尽の魔女』と恐れられた顔に変わる。
「…たった3年で、おまえのその魔力はどうした?」
「はいっ!申し訳、」
「おまえは、カーディナル魔法国の宮廷魔術団団長ではないのか?私が知らないうちに、誰かに変わったのか?」
「変わっておりません!」
「じゃあただ単に、おまえが怠け者だったというだけだな」
「…っ、そ、」
「返事は?」
「はいっ!その通りでありますっ!」
「怠け者はいらない。おまえもそこのクズとともに消えるさだめだな」
3年ぶりに会ったのに短い邂逅だったな、と嗤うその顔は、まさしく魔女だった。
「…ケイトリン、すまない」
「陛下。陛下が謝ることではありません。謝らねばならないのはむしろ私のほうです」
そう言うと、スッと片膝をついて頭を下げる。
「私の目が腐っていたせいで、人選を間違えたようで…別な人間を育ててから辞めるべきでした」
彼女はそう言うが、リッツ以上の腕を持つ人間は今の魔術団にはいない。…彼女が魔術団を去るのと同時に、辞めてしまったからだ。
「…私の、求心力がないせいなんだ」
そう言う私の顔を見上げるその瞳は…怒りで爛々と光っていた。
「陛下。人間は歳をとります。いつまでも、誰かひとりを旗印にしていては、国は滅びます。
いなければ育てればいい。私と同じだけの技量を、ひとりに求めずたくさん育てればいいのです。団長と名前がつくのはひとりでも、それと同じだけの技量を持つ人間がいていいではありませんか。
技量が同じで、団長になりたいのがたくさんいるなら、その座をかけて戦えばいいのです。こいつが」
リッツを冷たい目で見下ろして吐き出す。
「こいつが、陛下を守るという意味を履き違えているせいです」
リッツは、真っ赤な顔になり…涙をこぼした。
「団長…申し訳ありません、俺が、」
「と、言う訳で」
今までの威圧感をキレイさっぱり消し去ると同時に、リッツを縫い付けていた氷も消し去った。
「立ちなさい」
「…はいっ!」
リッツは素早く起き上がるとビシッと直立不動の体勢になった。
「…陛下にお許しをいただけるなら。もう一度、宮廷魔術団に私を置いていただけませんか」
「え?」
「もう一度、鍛え直します、こいつらを。私が責任を持って」
「…しかし、ご息女が今回帰ってきたのは貴女に育児を手伝ってもらうためだったのだろう?
魔術団に来てしまっては、」
「大丈夫です。私とともに、こちらに…王都に移らせます。
辺境にはこのクズを戻します。使用人たちには迷惑をかけますが、私もたまには戻りますので」
自分の夫をクズ呼ばわりするようになるのは、どのような理由があるのか怖くて聞けないので…そこは流すことにする。
「ケイトリン、感謝する」
「いいえ、陛下。そもそも、陛下は背負いすぎです。申し上げてもご理解いただけないようでしたが…」
ハァ、とため息をつくと、リッツを見て「だからこんな勘違い野郎が出来上がってしまうんです。これだけは、陛下の罪ですよ」と言った。
「陛下を小さいときから見てきましたし、心に期するものがあることもわかっております。
しかしもう、昔に囚われた甘ったれた感傷は棄てませんか。
いろいろなしがらみを捨て去るときです」
彼女の真剣な目に射ぬかれて、何も言うことができなかった。
ニコリ、と笑うとケイトリンは、「私が戻ってきてもよろしいですか?」と言った。
「もちろんだ。…よろしく頼む」
私が手を差し出すと、ケイトリンもギュッと握り返してくれた。
その時。ケイトリンの手が強張る。共に感知したであろう魔力、これは、誰だ…?
「叔母上!!」
目の前でニコニコする女性を改めて見る。私が魔術団に押し掛けたあの時に比べれば、当然のことながら歳を重ねているが…それでも、実年齢よりは遥かに若く見える。怖くて年齢についての話題は触れることはできないが…。
「あら、目が覚めたようね」
リッツの襟を掴んでズルズルと引きずってくる。「痛い!痛いです、団長…ゴホッ、苦しい!団長、限界です許してください!」と叫ぶリッツを無視して自分の夫の隣に突き飛ばすと、同じく氷の刃で床に縫い付ける。
「ひぃ!」
顔色が、青を通り越して蒼白になりガタガタ震えるリッツの脇にしゃがみこむと、「ほんとに久しぶりねぇ、リッツ。何年ぶりかしら?」とニコニコしながら問いかける。
「はいっ!このような格好でお答えすることをお許しくださいっ!団長が魔術団を去られてからなので、3年になりますっ!」
「そうねぇ、3年ぶりねぇ」
と言った彼女は、一転して『消尽の魔女』と恐れられた顔に変わる。
「…たった3年で、おまえのその魔力はどうした?」
「はいっ!申し訳、」
「おまえは、カーディナル魔法国の宮廷魔術団団長ではないのか?私が知らないうちに、誰かに変わったのか?」
「変わっておりません!」
「じゃあただ単に、おまえが怠け者だったというだけだな」
「…っ、そ、」
「返事は?」
「はいっ!その通りでありますっ!」
「怠け者はいらない。おまえもそこのクズとともに消えるさだめだな」
3年ぶりに会ったのに短い邂逅だったな、と嗤うその顔は、まさしく魔女だった。
「…ケイトリン、すまない」
「陛下。陛下が謝ることではありません。謝らねばならないのはむしろ私のほうです」
そう言うと、スッと片膝をついて頭を下げる。
「私の目が腐っていたせいで、人選を間違えたようで…別な人間を育ててから辞めるべきでした」
彼女はそう言うが、リッツ以上の腕を持つ人間は今の魔術団にはいない。…彼女が魔術団を去るのと同時に、辞めてしまったからだ。
「…私の、求心力がないせいなんだ」
そう言う私の顔を見上げるその瞳は…怒りで爛々と光っていた。
「陛下。人間は歳をとります。いつまでも、誰かひとりを旗印にしていては、国は滅びます。
いなければ育てればいい。私と同じだけの技量を、ひとりに求めずたくさん育てればいいのです。団長と名前がつくのはひとりでも、それと同じだけの技量を持つ人間がいていいではありませんか。
技量が同じで、団長になりたいのがたくさんいるなら、その座をかけて戦えばいいのです。こいつが」
リッツを冷たい目で見下ろして吐き出す。
「こいつが、陛下を守るという意味を履き違えているせいです」
リッツは、真っ赤な顔になり…涙をこぼした。
「団長…申し訳ありません、俺が、」
「と、言う訳で」
今までの威圧感をキレイさっぱり消し去ると同時に、リッツを縫い付けていた氷も消し去った。
「立ちなさい」
「…はいっ!」
リッツは素早く起き上がるとビシッと直立不動の体勢になった。
「…陛下にお許しをいただけるなら。もう一度、宮廷魔術団に私を置いていただけませんか」
「え?」
「もう一度、鍛え直します、こいつらを。私が責任を持って」
「…しかし、ご息女が今回帰ってきたのは貴女に育児を手伝ってもらうためだったのだろう?
魔術団に来てしまっては、」
「大丈夫です。私とともに、こちらに…王都に移らせます。
辺境にはこのクズを戻します。使用人たちには迷惑をかけますが、私もたまには戻りますので」
自分の夫をクズ呼ばわりするようになるのは、どのような理由があるのか怖くて聞けないので…そこは流すことにする。
「ケイトリン、感謝する」
「いいえ、陛下。そもそも、陛下は背負いすぎです。申し上げてもご理解いただけないようでしたが…」
ハァ、とため息をつくと、リッツを見て「だからこんな勘違い野郎が出来上がってしまうんです。これだけは、陛下の罪ですよ」と言った。
「陛下を小さいときから見てきましたし、心に期するものがあることもわかっております。
しかしもう、昔に囚われた甘ったれた感傷は棄てませんか。
いろいろなしがらみを捨て去るときです」
彼女の真剣な目に射ぬかれて、何も言うことができなかった。
ニコリ、と笑うとケイトリンは、「私が戻ってきてもよろしいですか?」と言った。
「もちろんだ。…よろしく頼む」
私が手を差し出すと、ケイトリンもギュッと握り返してくれた。
その時。ケイトリンの手が強張る。共に感知したであろう魔力、これは、誰だ…?
「叔母上!!」
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