この恋で、夜を越えて

吉柳ひさめ

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二章

焦熱

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……喫茶店で、向かい合っていた時から、限界だった。指一本触れずに、平静さを装って。

“抱いたのに、夜のうちに帰った”

その事実が、宏雅の胸の奥に深く刺さっていた。葵には、誰か想い人がいるのかもしれない。

――俺ではない、誰か。

そう考えるたび、理性が削られていく。
もしそうなら、彼女を自由にしてやるべきだと、頭では分かっていた。

それでも。

「……確認だ」

宏雅は、低く呟く。
自分に言い聞かせるように。

彼女が、誰のものでもないのか。
それとも――もう、誰かの腕の中なのか。

答えは、言葉じゃない。
だから確かめる。

触れた瞬間、葵の体が僅かに震えた。
その反応だけで、胸の奥に溜め込んでいた感情が、一気に溢れ出す。

奪うつもりはなかった。
縛るつもりもなかった。

ただ、今は。
俺だけの女だと思いたかった。

その思いが、最後の一線を易々と越えさせる。




 *

くちゅ……と、やらしい水音があがる。
かっと顔が熱くなった。

彼の指に、全て――暴かれてしまう。



「なんだ……期待してたの?」

笑みを含んだ声で囁かれた。
胸の奥を見透かされた気がして、葵は左右に首を振る。

「ち、ちが……んっ」

否定の言葉は、最後まで形にならなかった。唇を塞がれたからだ。細められた宏雅の欲情に濡れた瞳が、ゆっくりと葵を追い詰めていく。

「本当に?」

そう言って小さく笑う。
責めるでもなく、逃がすでもない――残酷なまでに色めいた甘さで。大きな体を使って、やんわりとシートに葵を押さえつけている宏雅は、艶やかな微笑みを浮かべた。

「いけない人だね……葵は」

名を呼ばれただけで、ふるっと体の芯が震える。抗おうとした声は喉に絡まり、かすれた吐息に変わった。肌を彷徨っていた宏雅の長い指が、中に滑り込んできた。

「あっ」

「……すごいな」

感心したような声音。
確かめるように抜き差しされ、あちこちへ与えられる刺激。葵は唇を噛んで、甘い責苦に耐えた。

「……っ」

「とろけてる……」

嬉しそうに言いながら、わざと水音を立てるようにして、宏雅は葵の中をかき混ぜた。激しく羞恥心を煽られて、とうとう啼き声をあげてしまう。

「や……んっ」

宏雅は、ボタンを外したブラウスからこぼれ出た、張りつめた乳首を舌で嬲りながら、秘められた場所に埋め込んだ指を、遊ばせる。

「こんなことさせるの……俺だけ、だろう?」

吐息混じりに囁いた宏雅は、葵の胸の真ん中に唇を押し当てて、ちゅっと強く吸った。柔肌に赤い跡が残る。
手はスカートの下へと伸ばされており、濡れたそこに息づく真珠のようなものを、くりくりと親指の腹で弄んだ。きゅうっと葵の中が締まって、差し入れた彼の指を淫らに咥えこむ。

「ぁ、あ……」

もどかしげに、葵が宏雅の肩にしがみつく。彼の髪の匂い。シャツごしに伝わってくる、男の熱い熱。その先の刺激をねだるように、腰が浮いてしまう。

「言って……俺だけだ、って」

宏雅は二本に増やした指を、ゆるゆると浅く出し入れしながら、葵の火照った肌に囁きかける。涙が出るほど肌が粟立つ。

「……な、に……んんっ」

「そしたら、いかせてあげる……ほら、言って?」

角度をつけた指で、中のざらついたところを、絶妙な強さで刺激する。何度も何度も、葵の息が乱れるまで。

「ん……さか、きさん……だけっ……ぁ…」

彼の望む言葉を口にした瞬間。
激しく指が出し入れされて、びくびくと体を震わせて背を反らした葵は、あっという間に果ててしまった。
ぐったりと、シートに身を預けた葵の唇を、やや乱暴に宏雅が奪う。荒い息がおさまる暇を与えず、舌を入れて口腔内を味わうように蹂躙した。


ぼうっと官能に霞んだ葵の瞳を、愛しげに見つめた宏雅は、導くように彼女の腕を引いた。

「……おいで」

腰が砕けそうな甘い美声。熱く艶めいた眼差しを注がれる。

「そんなん、無理やて……」

彼の意図を察して、葵が弱々しく抵抗する。

「良いから」

宥めるように微笑んだ宏雅は、躊躇う葵の腰に手を添えた。

「早く乗って――俺の上に」

焦れた男の熱い声に、葵は小さく息をつく。

「……もう」

靴を脱ぎ、ロングスカートの裾を両手でつまむ。運転席との仕切りに片膝をかけると、バランスを崩しそうになって、思わず宏雅の肩に手をついた。

「あぶなっかしいな」

くすっと笑う宏雅を赤い顔で睨んだ葵は、天井に頭をぶつけそうになりながら、身体をひねって仕切りを乗り越えた。

ぽすん、と胸元に倒れこんだ葵の体を、宏雅が受け止める。向かい合わせになって見つめあうと、吐息まで奪うように、深く口づけあった。

欲望で昏く燻った瞳で、腕の中の乱れた葵の姿を目で堪能して、宏雅はうっとりしながら囁いた。


「……次、俺の番ね」
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