3 / 128
第一章 復讐とカリギュラの恋
(3)ぬかるむ感情
しおりを挟むジグヴァンゼラは冷え冷えとする森の中にいた。
(もう十四才にもなるのに……ああ、学ぶことは沢山で世界は広い。僕は辺境のさ迷える子供だ。誰にも知られることなく、永遠とも思える時間に見捨てられている。何と、僕には行くあてもない。ただ大人になって、辺鄙な北部の片隅の、領主の座を受け継ぐだけだ。両親はそれを恵まれていることだと言う。貴族は恵まれている、なお前は世間を知らないと。だって、僕が学んだのはこの国の歴史や簡単な数字、ちょっとした文学、マナーだけだ。どうして星は輝いているの、どうして風が吹くの、どうして僕たちは存在しているの。お父さんには答えられない。そればかりか、そんなことは知る必要などない愚問だと言われる。だったらいつどうやって僕は世間を知るの)
溜め息が出た。
(ああ、それが僕には不条理に思える。なにか学ぶべきことがあり、なにか成すべきことがあるように心は渇くのに語り合う友もいない。僕は独り。兄弟もいない。神が僕をこの地に置かれたのが単にザカリー領のためならば、他の誰であっても、後継者として生まれた者であれば、僕ではなく他の誰でも良かったはず。何故、僕だったの)
氷雪の溶けた泉の煌めきを見ていたせいか、時間の経つのが早い。春先の水は光る生き物のように絶えず変化して歌い、人の目を奪う。
(何故、僕なのですか。なにも学べてはいない。時間は膨大な流れを作り傍らを過ぎて行くだけ。僕は取り残された木偶人形です。田舎の隅っこに取り残され心だけがさ迷う木偶の坊)
ジグヴァンゼラは立ち上がって、ふと感じる視線に振り向いた。
古風なフロックコートのほっそりした青年が、きらめく氷の枝を伸ばした木の下に立っている。
(絵のようだ。妖精のように美しい)
ジグヴァンゼラは眼を瞠った。
青年の真ん中分けのプラチナブロンドの髪は、頬の辺りで艶々とした二段の外巻きカール。ジグヴァンゼラからは見えない後ろ部分は、縦ロールの髪を黒いリボンで結んでいる。
首回りに小さな襟を立てた白いドレスシャツは幅広レースのシャボでお洒落に胸元を飾り、フロックコートと古めかしい膝までのオードショーツは深い緑色。襟には袖口の折り返しと同じ華やかな金の刺繍、白いシルクの手袋、白いタイツの足に黒いリボンの付いた革のハーフブーツを履いていた。
(王都からきた貴族かな)
妖精と見間違うほどの造形美は、天の彫刻家の適う限り繊細な造りとしても、そう思えるほど血の気がなく、滑らかな肌合の蝋人形を思わせる。
それが全てを拒否したがっているリトワールの容貌であり、灰色がかった忘れな草色の目は、泥濘む感情を湛えながらも冷たい大理石に似ていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる