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第一章 復讐とカリギュラの恋
(35)厄災を嗤う
しおりを挟むルネはすごすごと退室して、飛びかからなかった自分を褒め称えながらダンスホールに戻った。
食堂ホールの様子は一辺していた。夕食のテーブルが片されている。
隣のホールに移動したらしく、話し声がした。覗いてみると、幾席かの長椅子やソファーに寛いでみなが歓談している。
ヴェトワネットの姿はない。ヴェトワネットは娼婦と二人で自室に戻ったと言う。ルネはどのような顔をして良いのかわからずに後退りして部屋に急いだ。
ヴェトワネット、でかした
俺様がボリオに失敗していた間に
お前は獲物を捉えたか
*****
その頃、ヘシャス・ジャンヌは綺麗にお化粧を済ませた。
長い髪は床に垂れるほどだが、きらきらと灯火に輝く。ほんの少しを編み上げて頭頂を飾り、純白のドレスに身を包み、亡き母セネラの遺品の真珠で額と耳を飾った。
それだけがヘシャス・ジャンヌに残ったセネラの遺品で、たくさんあった宝飾品の殆どが副葬品という名目でメナリーに奪われ、大金に替わるようなものは信頼できるマロリーの手を通して必要のために消えた。
リトワールが衣装と宝飾品を揃えるために潤沢な金庫から資金を出すことを提案した時、ヘシャス・ジャンヌはそれを丁寧な断りを入れた。
夜風に乗って途切れ途切れにバイオリンが聞こえ、その楽曲が夜想曲となってヘシャス・ジャンヌの心に人恋しい思いを忍ばせる。
*****
ルネのベッドの柱に、娼婦は手首を繋がれて猿ぐつわを噛まされていた。
後ろ姿を見て直ぐに一番若い派手な娼婦だとわかった。首の上に天蓋のカーテンが垂れて顔は見えない。
ルネは下半身の疼きを治めるべく娼婦のスカートを捲り、針金の入ったペチコートを脱がせて直ぐに事に及んだ。相手は既に濡れていてこの状況ならルネの獲物には違いない。
よくやった、ヴェトワネット……
しかし流石は娼婦
顔の見えない相手に
強姦されると言うのに抵抗はなしか
立ったまま腰を動かしていたら、後ろからいきなり硬いものがルネの尻を割って素早く入った。
ドカンと突撃されたような衝撃と身体が裂けるような激しい痛み、口からモノが出そうなえづく感覚と痛みで動くに動けない。手早く両腕を柱に縛られてしまった。
ルネは直ぐに喘いだ。初めての感覚だった。勃起したものも膨らみきって爆発しそうになり、ルネは何度も射精を繰り返し、猿ぐつわの女のうなじ辺りに吐瀉した。
それでも、ルネが気を失うまで内臓に届くかと思われる衝撃はルネの腰を攻め続け、ルネは吐瀉物の臭いでまた吐いた。
足の力が抜けてずるずると床に座り込むルネの体重で、猿ぐつわの女も共に崩れ落ち、手をベッドの柱に括られた格好で斜めに座る。ルネは土下座するように意識を失った。
最後まで射精することなく硬いままルネから抜けたモノは、男性の一物を象った油を塗った革の装具だった。裸の若い娼婦が腰から装具を外す。
「お見事。一滴の血も流さずに獲物を二匹、同時に捉えるとは」
拍手をしてボランズ伯爵が現れた。
「お恥ずかしいみぎりでございます」
裸のまま綺麗なカーテシーを見せた。
「目の毒だが」
「ふふ、我慢して頂かなければ。私、血浴びをするようなこんな穢れた女の衣装などに腕を通せませんわ」
猿ぐつわの女の顔が天蓋のカーテンから覗いている。ルネと同じく気を失っているヴェトワネットだった。
バスルームには若い女の死体が吊り下げられていた。頸動脈から滴った血でバスタブが赤黒く、錆びた鉄の臭いが充満している。
「残念だが、これ以上の証拠はない。あの死人は、内偵の為に送り込んだ私の密偵だ。まさかこうなるとは……予想だにしなかった。ひたすら悼む。しかし、我々にはまだ仕事がある。援軍を寄越すから、お前は早く着替えを」
「はい、大将軍閣下、仰せの通りに」
*****
一階のホールでは、ジグヴァンゼラを囲んで政治の話に花が咲いていた。ジグヴァンゼラの遠い親戚に当たるアントローサ公爵の宮廷内の仕事ぶりや繋がりも、ジグヴァンゼラには刺激的な情報となった。
*****
人がいなくなると、装具を蹴り飛ばしてルネは立ち上がった。腰が抜けそうな疲れを感じるが、痛みはとっくに消えている。
ルネはヴェトワネットの疲れた顔を見た。娼婦の衣装を着て縛られていたのが妻だと知って、ルネは妻の身体を蹴るように身を捩り、口を使って手の縄をほどく。
衣服を手早く直してベランダとドアを開け、部屋の隅に隠れた。吐瀉物にまみれたヴェトワネットは見捨てられた。
どうしてやろうか……
まず、俺様を縛って
好きなようにした奴が誰かを
確認することだ
そして殺す
ルネは目を吊り上げて笑う。異常感覚は粉の効果か、激痛は止んでお尻の穴がくすぐったい。
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