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第二章 カリギュラ暗殺
(69)怒り
しおりを挟む疾風迅雷の如くに野を駆けて名馬はジグヴァンゼラを夏の別荘へと運ぶ。もう、森の入り口だ。速度を落として馬車を覗くと、御者が眠り込んでいた。
馬は何を思ったのか、足音を潜めるように別荘へと向かう。夏の別荘へは一度も来たことのない馬だったが、迷うことなく真っ直ぐに別荘の真ん前まで来た。
懐かしい夏の別荘。ジグヴァンゼラの脳裏にリトワールの笑顔が浮かぶ。澄まし屋のフランス人だったが、綺麗な顔を綻ばせてヘンゼルを育てた。
ヘンゼルが幼い頃は毎年
この別荘を使ったものだ
リトワール
戸口は開いていた。風を入れるためなのだろうと疑いもせず、ジグヴァンゼラは石段を登る。
普段なら石段を登るどころか、馬の走りに心臓がついていけなかったに違いない。
ルネの粉薬の効き目が続いていることにジグヴァンゼラは驚きながら、ルネの悪魔のような力に合点がいった。
開いたままの戸口から中に入る。しんと静まり返って、ひんやりとした空気が動く。影になった窓から森を抜けた風が入ってきた。
一階に広いホールとリビング、台所、食堂があり、執事の部屋がある。小さなヘンゼルと森を散策しながら木登りをしたり釣りをしたり、リビングでおやつを楽しんだ懐かしい日々が蘇る。
三階が使用人の部屋で、二階はジグヴァンゼラとリトワールの寝室があり、ヘンゼルの部屋と遊び部屋、書斎、バルコニーがあった。
ジグヴァンゼラは二階に登った。リトワールと過ごした部屋に向かう。
部屋は三階まで一部が吹き抜けで、部屋の中に階段があり、三階に上がれる。
寝室の真上が古着などが収まった大きなウオークインクローゼットになっているのだ。ヘンゼルは隠れんぼも好きだったから、わざと迷路のようにステンドグラスのパーティションや小箪笥を配置してある。
ジグヴァンゼラは開け放たれたドアを睨んだ。
そこか……リトワール
そこで何を……
敷き詰めた絨毯は古びているが、まだジグヴァンゼラの足音を吸収する。忍び足のつもりはなかったが、ジグヴァンゼラがかっての寝室に入っても人の動く気配はなかった。
鋭い眼光が、ベッドの上で寝ている二人を捉えた。迷わず進んでシーツを剥ぎ取る。一糸纏わぬ二人の若々しく眩しい姿に怒りが燃え上がった。
手にした馬の鞭でダレンを打つ。返してアントワーヌを打った。鞭は長くはないがやはり痛む。二人は二度打たれる前に目を覚まして抗おうとしたが、ジグヴァンゼラの鞭は素早く二人を打ち据えた。皮膚が赤らみ、悲鳴が上がり何度も鞭打たれた皮膚は裂けて血が滲む。
ジグヴァンゼラは有らん限りの力を込めて二人を打ち据えた。
「ジ、ジギー」
「何がジギーだっ。お前はリトワールではない」
アントワーヌの顔に鞭が当たった。
「ひいいっ」
ジグヴァンゼラは怒りを抑えられない。
殺してやろう
お前たちは私に泥を塗った
生かしてはおけない
殺してやろう
アントワーヌの顔はもはやリトワールには見えない。殺して捨てることも容易に思えた。
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