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第二章 カリギュラ暗殺
(70)半狂乱
しおりを挟むジグヴァンゼラはベッドで息も絶え絶えになって泣き濡れながら何かを唱えている二人を怒りの目で見下ろして、それから衣服を脱いだ。
ジグヴァンゼラはダレンに挿入した。悲鳴が起こったが、それはダレンの口からだけではなかった。
「ジギー、止めて。止めて……」
そのアントワーヌを片手でひっくり返してダレンの身体を被せる。
「さあ、ダレン。お前の望むようにこいつに入れろ。入れて見せろ」
「止めて、ジギー……ううう……」
か弱く泣くアントワーヌの声がジグヴァンゼラの耳に心地好い。思えば子供の頃に、このような目に遭ったのではなかったか。そんな一瞬の影が過る。
悪魔の所業は
あの白い粉薬か
ルネめ
「だ、旦那様……」
ダレンは勃起したものをアントワーヌの尻に突っ込むと、ジグヴァンゼラの動きのままにアントワーヌの胴に絡んで泣きながら果てた。ダレンは痛みの他にも痺れるような思いに満たされた。
私は旦那様と
こうなりたかったんだ
ああ、旦那様
憎むことなんてできない
アントワーヌ様との関係は
決して私からではないのです
アントワーヌ様の魅力に
抗えなかった
それは、私の罪ですが
私もアントワーヌ様も
処罰を受けて当然です
初めての快感が二度三度とダレンの身体をうねらせた。打ち寄せる波のように果てなく続く白い粉の攻めに、ダレンの若い身体は反応し続ける。鞭の痛みと快感で息もできないのに、足の先から頭の芯まで痺れ「旦那様、ああ、旦那様……」と喘ぐ。
「豚どもめ。お前らは殺してやろう。ゆっくり、たっぷり懲らしめてから、殺してやる」
ダレンの目から喜びの涙が流れた。
「ああ、旦那様……私は悪い執事です。懲らしめてください。あ……あ……旦那様の、お望みの通りに……」
アントワーヌは自分を抱くダレンが喜びに打ち震えているのがわかった。
ダレンは、ジグヴァンゼラの動きに快感を覚えて突っ張るように果ててもまたすぐにアントワーヌの尻の中で勃起する。それを何度となく繰り返す。
アントワーヌは朦朧として絶え絶えの記憶の中で「豚どもめ」というジグヴァンゼラの蔑む声を聞いた。
ジグヴァンゼラの記憶が蘇る。ルネを心底憎み、憎悪を掻き立てて暮らした日々。
今、ルネの罪深さを踏襲している自分に驚きつつも 、黒々と燃える何者かに煽られて止めることができない。
まるでルネではないか
あの粉薬で私も汚れた
あれは悪魔の粉だ
ルネのやつ
微かに去来する思いに消される怒りではない。エネルギーが燃え尽きるまで、ジグヴァンゼラは果てることを知らずに夜を迎えた。
北国の夜は早い。一度、まだ日が沈む前に御者が恐る恐る戸口に立って「アントワーヌ様、如何なされましたか」と、声を掛けた。
「私は領主ジグヴァンゼラ・ザカリーだ。お前は帰って明日の朝に来るがよい」と大きな声で答える。
御者は、馬小屋で見慣れた美しい馬が繋がれもせずに庭で草を食んでいることを訝ったが、ジグヴァンゼラの声で納得して大人しく帰った。
「もう、お前たちを助ける者はいない」
ジグヴァンゼラはしかし悲しくなった。悲しくてやりきれない思いが怒りと混じりあってふつふつと沸騰する。
リトワールの現影が消えて薄汚れた真実が目の前にある。
私は何を見ていたのか
白く汚れて初めて見えたもの
暗い暗黒の淵に囚われて足掻くにも、目の前の裏切り者たちを殺すにも、闇雲に行うことはまるでルネの精神に憑依されたかのようだ。
ダレンが「旦那様、愛しています。ああ、旦那様……」と嗚咽混じりに言う。
「嘘をつけ。お前は私の顔に泥を塗った恥だ」
「ああ……私は、ダレンは間違いを犯しました。こんなことは初めてです……もっと鞭打ってください。私は悪い執事です。もっと……」
「豚どもめ」
マゾヒズムの快感にうち震えるダレンとは真逆に、アントワーヌは泣き叫んだ声が枯れて、醜く腫れた顔に憎悪を表し、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやると呟いていた。
あんなに大好きだったジギー
ずっとお側にいさせてほしいと
そう心から思ったていたのに……
どうしてこんなに酷いことを
醜いことを
私たちを豚だと言った
豚だと……
アントワーヌは疲れはてて意識は途切れ途切れにしかし大きなものを失った強烈な落胆と孤独と痛み。何度も果てるダレンへの嫌悪感。自分を虫けらのように扱うジグヴァンゼラへの憎悪。気を失っては目覚め「魔王」と呟いてまた気を失う。アントワーヌには地獄の一夜だった。
部屋に差し込む月明かり。歪んだ影が床から姿を現し、ふわりと浮かぶ。
魔王……カリギュラ
ルネの復活だ
ジギー
私もお前を愛しているよ
ルネの象をとった悪霊は、天井の隅からジグヴァンゼラの狂った姿を眺めた。
ふふふ……
アントワーヌはお前を殺す
私を崇めろ、ジギー
そうすれば助けてやろう
お前は面白い
悪魔に進んで心を売る奴
その愚かさには飽き足りない
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