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第二章 カリギュラ暗殺
(82)カリギュラ殺し
しおりを挟む古靴が壊れて、途中からは裸足になった
なるべく草の上を歩き
足の裏に細かな切り傷ができて
皮が剥がれても
お館を目指して歩いた
魔王カリギュラと呼ばれる
ご領主様に会いたかった
希望があったから
足の痛みも身体の痛みも
あの金貸しは悪どい奴で
家族はみな殺された
何も知らない子供だったのに
奴隷のように働かされて
大人と同じように玩具にされて
激しく鞭打たれ虐待された
毎日、毎日……死ぬかと思った
生きているのが不思議
だからカリギュラにお願いしたら
殺してもらえると思った
あいつを殺してもらえると……
ああ……
素敵なジギーは何処に行ったの
変わってしまった
本物のカリギュラに変わってしまった
この痛み、罪悪感と恐れの行き場のない痛み
ジギー、愛しいジギー
初めてお会いした時の感動は
虹の国の夢のようで
それからの日々も夢のよう
なのに、ああ……私は慢心してしまった
ジギーを裏切って
馬上でのことが許せないと思うのも
慢心を粉々に打ち壊されたから
だからジギーを殺してしまいたい
殺されても仕方のないのは私の方
私には殺せない
もう一度、もう一度チャンスがほしい
ジギーの心を取り戻すチャンスが
「無駄だ。お前はリトワールの身代わりに過ぎない。知っているだろう。リトワールはいつもジグヴァンゼラを気遣い、母親が子供を慈しむように愛情を傾け、決して裏切ったりしない。若い頃から互いの傷を舐めあって癒しあって、愛し合って暮らした永遠に美しい不動の存在を、お前などに壊されたくないはずだ。魔王カリギュラなら」
「あ、あなたは……何故、私の心を読めるのですか……」
「私はジギーの親戚なのだよ、アントワーヌ。権力が欲しければ与えよう。ジギーを殺すのだ。ジギーは死んでリトワールの元に行くのだから、お前に復讐することはない。恐れるな」
「死んでリトワールの元に行く……」
「それがジギーの望みだ」
「何故、あなたは私に頼むのですか。ご自分でなさらないのですか」
「アントワーヌ。私は嫌われている親戚だ。ジギーに近づくのさえ難しい。お前なら、容易なことだろう」
「あなたは、ジギーの代わりにこの領地が欲しいのですか」
「そんなことはない。ジギーには……」
悪霊の手がアントワーヌに差し伸べられた。その手が輝いて見える。アントワーヌは、差し伸べられた手を掴もうとして、疲弊した身体を懸命に動かす。悪霊の身体が輝き始めた。白く美しい羽が見える。
「あ……あなたは……」
金髪のルネの顔が優しいリトワールの顔に変貌した。
「さあ、アントワーヌ。あなたを救ってあげましょう。私が力を貸します」
「あなたは……」
「私はリトワール。あなたが愛したご領主様の執事だった者です」
「て、天使……天使なの……」
「あなたも、いつかは懐かしいお父様とお母様に会えるのです。私は早くジギーを抱き締めたい」
悪霊は天使に姿を変えてアントワーヌを誑かしにかかった。
悪霊の手がアントワーヌの手に重なる。アントワーヌの身体が軽くなって、エネルギーに満たされてゆく。
「ジギー、ごめんなさい。これしかないの。待っててジギー……あんなに会いたがっていたリトワールと、幸せにしてあげ……」
後に少年は「無償の愛を与える保護者が欲しかった」と言う。その殺人事件は、このように行われた。
先ず、領主ジグヴァンゼラの就寝中に、怪異な力に導かれて寝室を訪ねた少年は、領主の持ち物である剣を用いて心臓をひと突きにした。
その時、振り上げた剣が輝き、怪異な力によって少年の腕力を越える悪意が作用した。振り下ろされた剣を止めることはできなかった。
少年は、剣が振り下ろされる瞬間「止めて、殺さないで」と叫んだと言うが、抗うことのできない力に圧された。剣は剣自身の意志で深々と沈み込んだという。
少年は気を失い、目覚めて尋問を受けて三日に、涙を流し震えて死んだ。心臓マヒだと云うことだった。彼は五日の間、食物はおろか一口の水も摂らなかった。
館に長く勤める悪霊祓いのサレが、この領地に伝わる「討伐祭り」に関わる悪霊の影響だと、申し述べたことを記録しておく。
サレは命に代えても悪霊を退治すると誓ってくれた。
さて、私は弔いを終えたが、宮廷貴族として何かと忙しく、何ヵ月もこの地に留まることはできぬ。
愛する息子ヴェルナールよ。
我々は領主ジグヴァンゼラ・ザカリー伯爵の直系ではないが、領地と爵位の相続権を持っている。
お前が新しい領主となって、お祖父様の領地と爵位を継ぐのだ。
私の敬愛する義父、領主ジグヴァンゼラも、十四才で領主となられた。今のお前と同じ年だ。立派な領主だった。
お前も精進して、くれぐれも悪霊の存在を忘れずに立派な領主を目指すのだ。謀られることなく悪霊の企みを見抜き、正しき道を突き進め。
父は心からお前の成功を神に願う。
ヘンゼル・ザカリー公爵より
淡い光が流れた。
ジグヴァンゼラについては
確かに人道を踏み越えた点は見逃せない
だが憐れむべき点も幾つかある
ただ、彼は既に死んだ
死人の全ての罪に関しては
天の父が問うことになる
それはアントワーヌも同様であり
全ての人間も等しく問われる
「これで終わったと思うのか。ふわはははは。ジグヴァンゼラが死んだからとて終わりはしない。この領地の民全てに、悪霊と謂われる私を神として崇めさせてやるまでは、終わりはしない。サレなど恐れるに足りない。あいつも人間だ。神の名前を忘れることもあろう。恐れるに足りぬわ。わはははは」
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