聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第三章 純愛と天使と悪霊

(117)女王の鉈

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  ジルベールエリキュアは自分のものもアナンダのものも互いの身体中に塗り広げる。何度も射精してヌルヌルに滑る身体を抱き合って、エリキュアはアナンダにも自分と同じように混合した混じったザーメンを舐めることを求めた。

「もっと酷いお方だと聞いておりましたのに、あ……ああ……」

  鉄格子という地下の居酒屋にたむろする屈強な男たちの間で、ジルベールエリキュアは直ぐに目についた。

  明らかに金の掛かった衣装と育ちの良さそうな雰囲気。特別に顔の周りに何段にも巻いた金髪とその下に流すアイロンをかけた真っ直ぐな金髪。
アナンダは町で買った赤いロングスカーフをターバンにしてシャツの前をはだけて縛り、エリキュアに妖艶に微笑んだのだった。

「酷いって」

「ああ……う、噂では、こ、恋人はみな死んでしまうと」

  エリキュアの腰の動きがピタリと止まる。

「わ、私は殺してはいないよ、アナ。可愛がっただけだ。何故、そんなことを言って私を責めるのだ」

  ジルベールエリキュアはアナンダの身体を舐め始めた。胸からわきへとエリキュアの舌が進む。

「ああん、エリキュア様、ふふ……くすぐったあい」

  この男、噛むのではなくて舐めるのか……

「可愛い、アナ……このターバンを使って少し縛っても良いかい。もっと萌えたいんだよ。私は縛るのが好きなんだ」

「エリキュア様……ああ……お好きなように……私を可愛いがって、イカせて……」

「アナ……」

  見つめるエリキュアの目に暗い悦びを見て取ったアナンダは、自分の中に通じるものを感じた。

  頭に巻いていた赤いスカーフで腕を封じられて悶えるアナンダに、エリキュアは口づけした。それから唇は首へと下りて爪で身体中を引っ掻く。

「ああっ……エ、エリキュア様……」

  アナンダの肌に滲んだ血を舐めながらほどけたカールの髪が下りて、アナンダの一物を口に含む。

「エリキュア様……ああ、感じる。エ、エリキュア様は、縛られないのですか、エ、エリー」

「エリーだと……エリーと呼んてくれるのか」

  エリキュアはアナンダの身体を愛しそうに撫で回した。ヌルヌルと滑るものとうっすらと血が入り雑じった匂いが、エリキュアの脳を浸蝕する。

「私を縛る者などおらぬ」

「わ、私ならできます、うう……エリー、あなたに最高の……」

  エリキュアは「まことか」と眼をあげた。

「ええ、最高の快感をエリー、あなたにも」

  言いながらアナンダは後ろ手に縛られた両腕の間にお尻を通し、両足を通してヌルヌルと滑るモノで力を抜いた手首もすっかりスカーフを抜けた。

「お、お……お前は軽業師か、素晴らしい」

  アナンダは妖艶に笑ってジルベールエリキュアの身体にスカーフを回す。

「愛しております、エリー……ああ、あなたのこの目……この唇……とても好き」

何故、ザカリー領の領主を狙ったのですか
でなければもっと長生きできたのに……

  アナンダは口づけしながら素早くエリキュアを縛り上げた。陶芸をやっていた頃に年上の恋人と夜な夜な愛し合って身に付けた技と可虐性だ。乳首を指先で弄り、カリッと音を立てて噛る。

「うああっ、うう……アナ、アナ……ああ……痛い、痛いよ。こ、こんな感覚……ひだ、久しぶりだよ」

  乳首の端から血が滲む。エリキュアの目から涙が流れる。アナンダはジルベールエリキュアな肌を叩き始めた。

「あうっ、お母様、お許しください。ううっ、エリーが悪うございました。お母様……ああっ」

  無数の打撲痕と歯形のついたジルベールエリキュアの死体は、赤いスカーフで逆蛯反りに首と片足首を縛られ、涙を流して白目を剥き、ベトベトに射精された尻を丸出しにして発見されることになる。

「こりゃあ余程の変態を相手にしたな」

  王宮では立太子宣明の義の前祝いとばかりに御披露目のパーティーが開かれた。謁見の広間で決心を聞いて喜んだ女王が、急遽用意させておいたのだ。

  会議室からそのままパーティーの広間へ移動して、華やかな宮廷貴族たちが交わり、ダンスと立食が賑やかに始まっていた。

  そこに、不穏な物音を立ててザカリー領の騎兵が数人の近衛兵と共にやって来た。

「女王陛下に取り急ぎのお知らせがあり参上致しました」

  広間の奥へ進む。貴族たちの中央に通路ができた。ザカリー領の黒騎兵が王座の前で膝を折る。共に来た一人の男が呆然と佇み、慌てて膝を付く。

「不躾ながら非礼を詫びる時間はごさいませぬ。この者はヴェルナール・ザカリー公爵を狙った刺客です」

  女王の傍らの侍従長が答えた。

「カルマンザーレ卿なら既に使用人までも捕らえてある。ジルベールエリキュア・カルマンザーレも指名手配中なれば、王都から逃れ出ることはできぬ」

  男が叫んだ。

「女王陛下。私は陛下の第一王子様より遣わされました。ヴェルナール様を殺せと、命令されましたっ」

「何と……」

「息子の復讐をするのだと仰せであられました。第一王子様のご子息の事故死は謀られたことだと」

  広間の全てが驚愕と恐れに満たされた。

「何と云うことを……あれはカルマンザーレの仕業だったと判明したのに……」

  女王は王座で崩れ落ちるように涙した。

  第一王子は先妃の忘れ形見で、ヘシャス・ジャンヌはオリバルート・ヨハネセンに嫁いでからというもの、第一王子を自分の息子のように愛した。

幼い頃から可愛いがって育てた優しい子だ
自分の子と何ら変わることはない
あの優しい子がヘンゼルの息子を……
私の孫を狙うとは……
カルマンザーレめ
生かしてはおかぬ
カルマンザーレだけではない
関わった者たちの命はない
新たな国王ヘンゼルと
新たな王国の為に
悪を根こそぎ倒す

「第一王子も王宮殿におろう。真偽をただすために幽閉せよ。誰であれ王太子に背く者は一族郎党共に捕らえよ。王国に正義を敷く。新国王と国民の繁栄はそこから始まる。正義と繁栄の為の統一じゃ」

  女王のなたが涙と共に振り下ろされようとしている。

  広間の人々は女王の「正義と繁栄の為の統一」という言葉に電流に触れたように感電した。

その感電は国内の隅々にまで広がり、深い水の表を行き来する創世記の神の力ように国民を潤した。新国王と国民の正義と繁栄の為の統一は、永遠に続くように思われた。







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