悪魔令嬢の冒険者ライフ

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第2話 淫魔

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 夢を見た。

 目の前には、1人の美しい女性が立っており、クロエの事をジッと見つめている。
 整った顔は男を魅了する様な妖艶さを持ち合わせており、彼女の背中からは、大きな蝙蝠の翼が生えている。
 艶やかな黒髪からは、捩れた角が2本生えており、彼女が人間では無い事がわかった。

「・・・淫魔サキュバス?」

 淫魔サキュバスは、快楽と精力を喰らう悪魔であり、人を誘惑する魔物として恐れられている。

「次はアンタの番よ」

 淫魔サキュバスは、そう言い残して、真っ赤な血になって溶けて消えた。

 溶けた赤い血がクロエの身体に纏わりつき、まるでクロエを悪魔に変えて行くかの様に、尻尾と翼と角を形成して行く。

「・・・嫌!」

 ベッドの上で目を覚ましたクロエは、全身汗だくであり、ドレスのまま寝てしまった様だ。

 ベッドから起き上がると、身体に違和感がある事に気が付いた。

「・・・尻尾?」

 お尻の辺りがムズムズとして、確認すると、お尻の付け根の位置から黒くて細長い尻尾が生えていた。
 しかも、先っぽは悪魔の尻尾の様にハート形だ。



「な、何なのよコレ!?」

 慌てて鏡の前に立って確認してみるが、完全にクロエの肉体と繋がっていた。

「ヒャウッ!?」

 触って見ると、ちゃんと感覚がある。

 まさかと思って背中を確認して見るが、蝙蝠の翼は生えていない様だ。
 頭も角らしきモノは生えていないので、悪魔の尻尾だけが生えてしまった。

「絶対、昨日飲んだ毒のせいだよね?」

 味からして、恐らく何かの血だと思われる。
 そして、悪魔の尻尾と昨日の夢からして、クロエが飲んだのは、恐らく淫魔サキュバスの血だ。

淫魔サキュバスの血には媚薬の効果があるとは聞いたことがあるけど、飲んだ人間を悪魔に変えるなんて・・・どうしたら元に戻れるの?」

 魔術学園で習った話では、淫魔サキュバスの血は薄めて加工する事で媚薬や精力剤になる。
 しかし、昨日飲んだのは、明らかに原液の血だ。

 そのまま飲むと、悪魔化してしまうのかも知れない。

「ってか、こんな姿を見られたら、終わりじゃん?」

 当然だが、淫魔サキュバスは魔物であり、討伐対象だ。
 見つかれば、殺されるか実験材料になるかも知れない。

 犯人がどういう意図で淫魔サキュバスの血を飲ませたのかは、分からないが、少なくとも、悪意がある事は確かだ。
 犯人は、クロエに何らかの影響が出ている事は把握しているはずだ。

 もし、クロエを貶める為に毒を盛ったのなら、何らかのアクションを起こしてくる可能性が高い。

 いや、間違い無く罠に嵌める気だ。

「・・・逃げた方が良さそうね」

 少なくとも、元の姿に戻るまでは、身を潜めた方が良いだろう。
 どの道、こんな姿で結婚式をあげる事は出来ないし、初夜なんて・・・論外だろう。

 まだ、夜明け前であり、外は薄暗く、屋敷の中は静まり返っている。

 脱出するなら今しか無い。

 クロエは、ドレスを脱いで、急いでシャワーを浴びた。



「な、何よこれ・・・呪印?」

 クロエの下腹部には、ピンク色のハートをモチーフにした淫魔の刻印が刻まれていた。
 当然、タトゥーなんてした事の無いクロエは、見覚えの無い刻印に赤面して困惑する。

「なんでこんな恥ずかしい場所に刻印されてるのよ・・・」

 とてもじゃ無いが人前には見せられない場所に恥ずかしいマークが出来てしまい、犯人に怒りを覚える。

「ハァー、時間も無いしさっさと着替えないと・・・」

 白いシルクの下着を履き、上着はフード付きの黒いパーカーを着て、下は黒のホットパンツに黒のロングブーツを履いた。
 これは、クロエが冒険者の仕事をする時の仕事着だった。
 尻尾はパーカーの下で胴体に巻きつける事で誤魔化す。

 腰には刃渡り40cmのダガーナイフを2本装備した。
 このダガーナイフはアダマンタイト製であり、有名なドワーフの巨匠が作った逸品だ。
 刃には特殊なルーン文字が刻まれており、魔力を流す事で、右は炎を纏い、左は冷気を纏う事ができる。

 更に、空間を司る聖女の力が封じられた指輪を右手の人差し指にはめた。
 この指輪には亜空間収納の力が込められており、王宮の倉庫並みに物が入る。

「取り敢えず、持っていける物は入れておいた方が良いよね」

 正直、元の姿に戻れる保証は無いので、2度とハートフィリア家に帰って来れない可能性も覚悟していた。

 クロエは、宝石類や現金など、換金性の高い物を収納すると、フードを深く被り、テラスに出る。

「来なさい・・・黒騎士ブラックナイト

 クロエが命じると、漆黒の全身鎧ゴーレムである黒騎士ブラックナイトが現れる。
 身長は2m以上あり、背中には、身の丈を超える両手剣を背負っていた。

「降りるわよ」

 黒騎士がクロエを優しく抱えて、一気に跳躍した。
 クロエの寝室は3階に位置しているが、アダマンタイト製の黒騎士は軽々と着地して、クロエを中庭に降ろした。

「貴方は目立つから入っていなさい」

 黒騎士を連れて街中を歩けば、直ぐにクロエのゴーレムだとバレてしまうので、黒騎士は亜空間収納に保管した。

「・・・さようなら」

 クロエは、少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、我が家に別れを告げると、屋敷を後にした。
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