上 下
50 / 69
三の罪状

敗北

しおりを挟む
「死ねや!!」


「極零に散れ」


両者空中で二段加速。


時雨のうねる様な曲線を描く紅き双鞭に対し、雫の直線的に突き出される蒼掌――


『!!!!!!!!』


両者が交差した刹那、中心点が発光。


「ちょっ!!」


その衝撃で大気が震撼し、地表にもその余波で突風が吹き荒れた。


「もう少し遠慮しろやぁあぁぁぁ!!」


吹き飛ばされない様に、物陰でしがみつくジュウベエだったが、両爪だけを食い込ませて、まるで洗濯物状態だ。


“――って、どうなった!?”


広範囲に拡がった突風は数秒後には過ぎ去り、体勢を整えたジュウベエは、改めて辺りを見回す。


『居た――って、あれだけの事をやっといて、二人共無傷かよ!?』


周りの木々がなぎ倒された地表に、既に二人は降り立っていた。


ジュウベエが驚愕していたのは、極限の力が衝突し合って尚、何事も無く対峙している二人を目の当たりにしたからだ。


御互い全くの互角。


勝負の行方が全く分からない――


「ぐっ!」


そう思った矢先の事。


「ゆっ……幸人ぉ!!」


突然の異変。その光景に思わずジュウベエも叫ぶ。


何故なら雫の身体からは無数の血飛沫が吹き上がり、拮抗が崩れるかの様に時雨の前で膝を着いていたからだ。


雫の躰を覆う無数の裂傷が痛ましい。


傷の深さは致命傷には至ってはいないのかも知れないが、出血量は多く、膝を着いたまま動けないでいる。


「クククッ――カッカッカッカッカ! どうよ? お前は俺には勝てない事を思い知ったかよ!?」


それを見下ろしている時雨の高笑い。正に完全勝利の構図。


「ちっ……」


雫は言い返せないのか、悔し紛れの舌打ちのみ。


『嘘だろオイ……』


ジュウベエは遠く離れた位置で、その状況に信じられないでいる。


贔屓目無しで二人の力は、ほぼ互角だった筈だ。


時雨も無傷では済まない筈――なのに。


“何故幸人だけが倒れている?”


「バラバラにするつもりだったが、その程度で済んだ事は褒めてやるよ」


ただ一つだけ確かな事は――


「まあ次で身体のパーツ、サヨナラなんだけどな」


己の主人が危機だという事。


時雨は両手の紅い双鞭を捻る様に操作し、幾多にも枝分かれした血の鞭を雫の身体へ巻き付けていく。


腹部、左手、左腕、右手、右腕、両足――そして首へと。


「幸人ぉぉぉ!!」


それを見たジュウベエが二人へ向かって駆け出していた。


「どうよ、これから死ぬ気分は? 命乞いでもしてみっか? 俺の気が変わるかもしれねぇぞ」


ここで慈悲――と言うより、弱者を弄び嘲笑うかのような時雨に対し――


「命乞い? 馬鹿かお前は……」


雫のそれは死をも厭わぬプライドの顕れか?


「ぷっちーん。じゃあ死ねや」


時雨としてはどちらでもいいのか、遠慮無く指先を操作する。


「――やめろぉおぉぉぉ!!」


駆けながらジュウベエは絶叫するが、もう遅かった。


時雨が手を動かした瞬間――雫の五体は鮮血と共に別れを告げる。


ボトボトと――


其々の部位が地に墜ち、紅い波紋が拡がっていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

女性ですが、女の子を見て興奮してたら、やっちまいましたハマりそうです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:24

うさぎのキスは少々苦い

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

ショートショート集「どうしてこうなった高校」

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

ボクらは魔界闘暴者!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:2

クールな年下男子は、俺の生徒で理想のお嫁さん!?

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:173

記憶にないプロポーズをやり直して結婚した。

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:43

処理中です...