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第2章 帰依

六話 精霊の力

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「……ちょっと待ちなさいよ! まだ終わってないわよ!」


ミオの意外な言葉に二人共、口をポカンと開けて立ち竦む。


“そうだった……”


ミオはとても負けず嫌いである事。妹の性格を熟知しているアミは頭を悩ませる。


“どうすれば打ち解けてくれるんだろう?”と。


「まだ私にはとっておきの力があるのよ! さあ表に出なさい!」


ミオのとっておきの力。それがどれ程の力であっても、二人のレベル差を考えれば通用する訳が無いのだが。


「もう、いい加減にしなさい!」


アミはミオを諌めようとするがーー


「分かりました。気が済むまで付き合ってあげますよ」


ユキの方はやる気である。


「ユキまでそんな事言って……」


「大丈夫ですよ。決して危害を加えるつもりはありませんから」


ーー辺りに日が落ち始める逢魔が刻。三人は家の外に出る事となった。


「さて、何を見せてくれるんですか?」


対峙する二人。その距離はおよそニ間(約4M)程だろうか。


アミは二人から離れた場所で、呆れ顔で見守っている。


“ユキの事だから、ミオに危害を加える事は無いけど……”


「はぁ……」


アミはこれに深いため息を吐く。


「そんな余裕でいられるのも今の内よ」


ミオを両手を広げ、精神を集中する。突如、周りの空気が変わっていく。


「……これは!?」


常温から低温へ。その温度の変化に、ユキは思わず目を見張った。


ミオの周りには幾多もの氷の結晶が現れ、それが中心に集まっていき、一つの大きな氷の結晶となっていく。


「これは珍しい。氷の精霊の力とは……」


関心した様にその力を眺めるユキは、ミオがアミの妹だという事を思い出す。


アミは精霊使いの巫女なのだから、その妹のミオが何かしらの精霊の力を行使したとしても、何も不思議では無い。


「さすがに驚いたようね」


ミオは自分より更に巨大化した氷の氷塊を、ユキへと向かって放つ。


「ちょっとミオ!」


アミはミオの行為に声を上げるが、既に氷塊はユキへ向かっている。これ程の氷塊が直撃したら、只では済まないだろう。


ユキはその場から動く気配は無い。


「流石の力ですが、私に氷は無意味です」


ユキは迫り来る氷塊へ右手を翳す。その瞬間、氷塊はその存在を否定するかの様に、音も無く消え去った。


「えっ!?  何でいきなり消えるの?」


ミオは突然氷塊が消えた事に驚くが、更に驚いたのが、先程まで目の前に居た筈のユキの姿が無かったからだ。


“ーーっ!?”


ミオは自分の背後に気配を感じ、首だけを振り返る。


「嘘……何時の間に?」


ユキはミオの斜め後ろに移動していた。氷塊が消えてから、その間僅か刹那の時間の出来事。


目では捉える事の出来ない、縮地法に依って移動していたのだった。
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