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第4章 氷の剣士 水の剣士

二話 目的

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「最後に闘って以来、約一年振りか……」


蒼髪の男、シグレが感慨深そうに呟く。それは過去を懐かしかむ様に。それはユキも同じ気持ちかも知れない。


だが今は状況が違う。シグレが何の目的で、この地に足を踏み入れたのか? それをはっきりさせねばならない。


どちらにせよ、闘いは避けられないにしても。


「そんな事より何しに来たのです? まさかとは思いますが、狂座側についたとか言うのではないでしょうね?」


ユキはシグレを見据えて、核心に迫る事を口にする。


もし、このシグレが狂座と手を組んだとしたら、これ程驚異的な事は無いからだ。


「俺が狂座側にだと? まあ奴等が何をしようが、俺には関係無い事だ。誰だろうが、五月蝿く纏わり付いて来るなら駆除するがな」


シグレはそんなのは関係無いとばかりに受け答えた。まるで自分以外の者は、害虫程度の存在としか思ってないかの様に。


「そうそう狂座と云えば、此処に来る前の森の入口に、第なんとか遊撃師団とかいう連中が絡んで来たから、ずっと纏わり付ついて来た探索師団の連中と合わせて、うざいから纏めて駆除しといたぞ。どうやら狂座が此処を狙っているという噂は本当だったか」


シグレは一連の状況を、恐ろしい迄に淡々と語っていた。


「まあ、そんな事はどうでもいいか。此処に来た理由は、再びお前と闘う事に有る」


シグレの目的は、やはりユキと闘う事にあった。


人智を超えた力を持つ、二人の特異点が闘う。そんな二人がぶつかり合えば、お互い只では済まない処か、周りにも多大な影響や犠牲を及ぼしかねない。


誰しもが本能的に、対峙する二人から距離を取っていく。巻き添えを喰らわない為だ。


「その筈だったんだがな……」


シグレが声のトーンを落とし、項垂れる様に呟いた。


「どういう意味です?」


ユキはシグレの意外な一言に、不思議そうに問い返す。それもその筈。彼は明らかに闘いに来たのに、筈だったと過去形になっているからだ。


シグレが項垂れる頭をゆっくりと上げつつ、その蒼き瞳でユキを見据えて口を開く。


「お前……本当に、あのユキヤか?」
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