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第4章 氷の剣士 水の剣士
三話 殺気
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「何……だと?」
シグレの意外な一言に、流石にユキも戸惑いを隠せない。
「今のお前からは、かつての“死神の剣”を継いだ者としての気質を感じない。今のお前はまるで、飼い慣らされた猫みたいに……もう闘う気も起きない程にな」
“――私が……飼い慣らされた猫……だと?”
失望した様に淡々の語り続けるシグレに、ユキは頭に血が昇っていくのを感じる。その右手は既に、腰に差した雪一文字の柄に手を添え、鯉口を切らんとしていた。
“――殺す……”
「お前に順応な飼い猫の姿は似合わないぜ」
シグレはそんな彼に構わず続ける。
「ああ、親殺しは順応とは言わないか」
シグレのその一言で、張り詰めていた空気が切り裂かれた。
ユキが誰の目にも映らない程の踏み込みで、シグレの首筋を抜き打ちで袈裟懸けに切り払っていたのだから。
シグレはそんな刹那の剣閃を、瞬時に後ろに身を退き躱す。
ユキの居合いによる抜き打ちは、空気のみを切り裂くだけに留まったが、周りの目には切る方も避ける方も速過ぎていた。
“――えっ? 親殺しって……”
「姉様?」
シグレの漏らした信じ難い一言に、ミオは怪訝そうにアミに尋ねようとするが、彼女の哀しそうに俯く表情を見てその口を閉じ、思い留まる。
“――姉様は知ってるんだ、その事……”
それは俄には信じ難い事実。
ミオの知ってるユキは生意気で、些細な事でお互い衝突する事も有ったが、とてもそんな事実が有るとは思えなかったから。
「ほう? 少しは動きの質が上がったみたいだが、まだ気にしていたのか? そんな事を気にするとは、お前らしくもないな」
ユキの抜き打ちを軽々と避けたシグレが、笑みを浮かべながら挑発する様に口を開く。
余裕の顕れなのか、シグレはまだ左腰に差した刀を抜かず、丸腰で刀と鞘をシグレへ向けて双流葬舞の構えを取るユキと対峙している。
“ーーっ!?”
その時、誰しもが感じ取った。背筋が凍り付きそうな程の悪寒を。
“――これはユキの氷の力? でも……何か違う”
ミオが感じ取ったそれは、冷気と云った類のものでは無い。
「……それ以上喋るなシグレ」
ユキが恐ろしい迄に冷酷で、聴いた事も無い様な低く重い声をシグレへ言い放つ。
“――ユキ!?”
アミもミオも漸く理解した。彼から放たれていたそれは、冷気でなくても凍り付かせそうな程の“殺気”であった事に。
「ククク、少しはマシになったかな?」
ユキの殺気に充てられたのか、シグレは刀の鯉口を切り、その刀身を抜き放つ。
“妖刀ーー村雨”
シグレの愛刀であるその刀の刀身は、シグレの水の力と呼応するかの様に常に水滴が結露していた。この水滴により、刀身は血糊や油による殺傷力低下の影響を受ける事無く、常に一定の切れ味が保たれている。
『何という威圧感……』
刀を構え、対峙する二人の特異点。氷の力と水の力。その場に居る誰もが、これから始まるであろう人知を超えた死闘の始まりを容易に想像出来た。
それは危機的本能だろうか? 誰もがその場から更に後退りする。それでも何故か立ち去る事無く、対峙する二人から目を離せないでいた。
ユキとシグレ。
まるで何人にも侵食出来ない、この世でたった二人っきりの、そんな奇妙な空間が二人の周りには出来ていた。
シグレの意外な一言に、流石にユキも戸惑いを隠せない。
「今のお前からは、かつての“死神の剣”を継いだ者としての気質を感じない。今のお前はまるで、飼い慣らされた猫みたいに……もう闘う気も起きない程にな」
“――私が……飼い慣らされた猫……だと?”
失望した様に淡々の語り続けるシグレに、ユキは頭に血が昇っていくのを感じる。その右手は既に、腰に差した雪一文字の柄に手を添え、鯉口を切らんとしていた。
“――殺す……”
「お前に順応な飼い猫の姿は似合わないぜ」
シグレはそんな彼に構わず続ける。
「ああ、親殺しは順応とは言わないか」
シグレのその一言で、張り詰めていた空気が切り裂かれた。
ユキが誰の目にも映らない程の踏み込みで、シグレの首筋を抜き打ちで袈裟懸けに切り払っていたのだから。
シグレはそんな刹那の剣閃を、瞬時に後ろに身を退き躱す。
ユキの居合いによる抜き打ちは、空気のみを切り裂くだけに留まったが、周りの目には切る方も避ける方も速過ぎていた。
“――えっ? 親殺しって……”
「姉様?」
シグレの漏らした信じ難い一言に、ミオは怪訝そうにアミに尋ねようとするが、彼女の哀しそうに俯く表情を見てその口を閉じ、思い留まる。
“――姉様は知ってるんだ、その事……”
それは俄には信じ難い事実。
ミオの知ってるユキは生意気で、些細な事でお互い衝突する事も有ったが、とてもそんな事実が有るとは思えなかったから。
「ほう? 少しは動きの質が上がったみたいだが、まだ気にしていたのか? そんな事を気にするとは、お前らしくもないな」
ユキの抜き打ちを軽々と避けたシグレが、笑みを浮かべながら挑発する様に口を開く。
余裕の顕れなのか、シグレはまだ左腰に差した刀を抜かず、丸腰で刀と鞘をシグレへ向けて双流葬舞の構えを取るユキと対峙している。
“ーーっ!?”
その時、誰しもが感じ取った。背筋が凍り付きそうな程の悪寒を。
“――これはユキの氷の力? でも……何か違う”
ミオが感じ取ったそれは、冷気と云った類のものでは無い。
「……それ以上喋るなシグレ」
ユキが恐ろしい迄に冷酷で、聴いた事も無い様な低く重い声をシグレへ言い放つ。
“――ユキ!?”
アミもミオも漸く理解した。彼から放たれていたそれは、冷気でなくても凍り付かせそうな程の“殺気”であった事に。
「ククク、少しはマシになったかな?」
ユキの殺気に充てられたのか、シグレは刀の鯉口を切り、その刀身を抜き放つ。
“妖刀ーー村雨”
シグレの愛刀であるその刀の刀身は、シグレの水の力と呼応するかの様に常に水滴が結露していた。この水滴により、刀身は血糊や油による殺傷力低下の影響を受ける事無く、常に一定の切れ味が保たれている。
『何という威圧感……』
刀を構え、対峙する二人の特異点。氷の力と水の力。その場に居る誰もが、これから始まるであろう人知を超えた死闘の始まりを容易に想像出来た。
それは危機的本能だろうか? 誰もがその場から更に後退りする。それでも何故か立ち去る事無く、対峙する二人から目を離せないでいた。
ユキとシグレ。
まるで何人にも侵食出来ない、この世でたった二人っきりの、そんな奇妙な空間が二人の周りには出来ていた。
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