雫 -SIZUKU- 最終特異少年戦記~破

ユキナ

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第6章 特異点

六話 越えていく

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そんな刹那の思考の中、ユキはもはや受け止める限界に達していた。


“――駄目だ! 意識が飛ぶ……”


「いや、まだだ!」


薄れゆく意識の中、かつてを思い起こし奮起する。


“いつか俺達を越えてみせな”


かつてシグレ自身が言った言葉の意味を。


“――だからこそ私は、アナタを越えていく!”


「うおあぁぁぁぁぁ!!」


絶対零度最大解放。全ての力を出し尽くし、ユキは受け止める水龍達を押し返していく。


「ばっ……馬鹿な!?」


シグレは見た。決して滅する事の無い、自らの血液で固めた緋色の水龍達が、多数に分離し崩れ散っていくのを。


お互いの最終技のぶつかり合いは、僅かにユキが上回った。そして勝負を決めようと、彼はシグレへと向かっていく。


「ちぃ!!」


それを迎撃しようと、刀を振りかぶるシグレの身体に異変が起きる。


“――なっ! 身体が動かない……だと?”


「これは……氷結の檻!!」


シグレは目を見開く。自身のその身体には、絡みつく様な氷に囚われていたのだから。


“無氷 ~氷結の檻 フリーズ ジェイル”



“星霜剣最終極死霜閃ーー無氷零月”


「これで終わりです、シグレぇぇぇ!!」


凍結して動けないシグレに対し、既に彼の間合いへ浸入していたユキは、絶対零度を集約した居合いを抜き放っていた。


“氷結の檻で身体の動きを止めた今の状態なら、無氷零月は必ず決まるーー”


この死闘に決着が訪れる事を、誰もがそう思っていた。


「俺をーー舐めるなぁぁぁ!!」


勝敗が決まる瞬間、その刹那の出来事。


シグレは己を縛りつけていた氷の檻を、力ずくで無理矢理引き剥がし、村雨を振り上げる。


『そんな……』


見守るアミの瞳が絶望に覆われていく。ユキの刃は届かず、逆に弾かれたその衝撃で刀は虚しく宙を舞った。


全ての時間が止まったかの様に、ゆっくりと弧を描き墜ちていく。


「もう刀を強く握り締める力も、残っていなかったか……」


シグレは降り上げた刀を、そのままユキへ向けて降り下ろす。無理矢理引き剥がした為、その腕は毛細血管が破裂し、血みどろになっているのもお構い無く。


「これで終わりだユキヤぁぁぁ!!」


丸腰では防ぎ様が無い。シグレが刀を降り下ろす勢い。その刹那の瞬間。


“ーーっ!?”


シグレは確かに見た。彼の右手が蒼白の輝きを纏っていた事にーー


“リュートゼロ・ゴッドクラッシャー・ハンドレット ~絶対零度:終焉雪 蒼掌極煌”


「ぐあっ!! なっ……何だと?」


降り下ろしたシグレの刃は届かず、村雨はゆっくりと地に墜ちる。


シグレの勢いを利用したユキの、右手による手刀が彼の腹部を貫いていた。そして其処からは蒼白い冷気で凍りつき、浸食していく。


「流石に内部からの絶対零度は、相殺しようが無いでしょう? 今度こそ、終わりです……」


決着の刻。


蒼白の冷気が吹雪となって二人を包み込むかの様に、静かに冷たく光り輝いていた。


「お前も一緒に死ぬ気か? 絶対零度の範囲内に居る以上、耐性が有っても只では済まんだろう?」


全ての物質の原子運動が停止し、分子結合が崩壊する氷点の最低温度、絶対零度の前では、例えそれを行使するユキであっても、生身ではその冷気には耐えられない。その為、絶対零度を行使する際には、他の物質へ依代にするか、直接浴びぬ様外部に放出する必要がある。


事実、凍りついていくシグレの腹部から、ユキにもそれが浸食しつつあった。それでも彼は決して退こうとはしない。


「ククク、そうまでして俺を殺したいか? 憎いか俺が!?」


シグレは退かないユキを自虐的に笑う。だか、引き剥がそうといった抵抗をしようとはしなかった。


まるで、この刻を受け入れるかの様に。


「ええ、殺したいですよ。アナタは大量殺戮者で救い様も無い極悪人だ」


ユキは腹部から手を抜く事無く、冷徹に言い放った。


それに対してシグレは「いいねぇ、最高の誉め言葉だ」と笑う。


シグレがしてきた事は、決して赦される事では無い。それは自身も重々承知。懺悔や呵責の気持ちも無い。だから笑った。悪は悪として生き、そして悪のまま死ぬのみ。


「だけど……」


ユキは同情する訳でも無く、想いを搾り出す様に呟く。


「私にとってはたった一人の……最後の仲間だった」
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