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第6章 特異点

五話 目標

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「ほっときなさい。シグレにも考えがあっての事だろうしね」


姿を伺う事も出来ぬ、灯りの無い薄暗い古寺内、一人の女性が口を開いた。


「何言ってんだよカレン! こんな勝手、認めんのかよ!?」


一人荒れるユキを余所に、もう一人の特異点も冷静に口を開く。


「ただ、次に出会う時はお互い敵となるやも知れんが……それでもよいか?」


敵意を不思議と感じられないその言葉に、シグレは振り返る事無く呟く。


「ああ、俺は俺の道を往く。一人で最強を証明する為にな。その時が来たら敵として闘うだけだ」


シグレはそう口を紡ぎ、止めていた歩みを再び進めた。同じく彼にも敵意を感じられなかったが。


「そうか……ならいい」


一堂同意の下、決別したシグレ。誰もそれを止める者はいない。


「ライカまで? どうなってんだよ……。キリトも何か言えよ!?」


「……ふふ」


一人だけ納得いかない感じのユキは、その後ろ姿を睨み付ける様に見据えていた。


************


古寺から出たシグレは、前方に居る人物の姿に気付き、思わずその歩みを止める。


満月に照らされた、虫の音が聴こえる生温い静寂の中、近くの神木に寄り掛かる様に腕組みしていた白銀髪の青年、前ユキヤが彼を待っていたかの様に佇んでいたのだから。


ユキヤが腕組みしていた腕を降ろし、シグレの前へと立ち塞がる。


「やはり行くのですね? まあ何時か、この日が来るとは思っていましたが……」


シグレは反論する訳でも無く、その想いのたけを述べる。


「俺はお前達とは違う。天下を獲り、新たな世を創る考えに興味が無い。それだけの事だ……」


「アナタらしいですね」


お互いを見据え、言葉を交わす。だが其処に憎しみの念は見えない。


「それでもアナタが、私達の仲間で在る事に変わりはありません」


ユキヤはそう言い、シグレへ右手を差し伸べる。


「貫きましょう。お互いの信念を、死ぬまで……」


そしてシグレも右手を差し伸べ、お互いにしっかりと握手を組み交わした。


「ああ……」


シグレの後を一人で追い、物陰から二人の姿を見ていた幼きユキ。その目に映るは確かな絆が有る様に、そう見えていた。


「おい、チビユキヤ」


シグレがふと、物陰に向かって口を開く。ユキが後を追って隠れていたのを知っていたかの様に。


「チビとは何だよチビとは!」


図星を突かれたのか、声を荒げながら幼きユキが、物陰から躍り出る。


シグレは幼きユキを諭す様にーー


「お前はまだまだ幼い上に弱い。強くなれよ、その名に恥じぬ様にな……」


そしてシグレは踵を返し、二人に背を向け歩み出す。


「闘いの中でしか生きられない俺達にとって、真に正しいものが有るとするなら、それは強さだけだ。ただ誰よりも強くなれ。そしていつか、俺達を越えてみせな」


そう言い残し、ゆっくりと夜の闇に消えていくシグレ。


「餓鬼扱いしやがって。見てろよ、今は無理でも、いつか絶対アンタに勝ってやるからな!」


消えていくシグレに向かって、幼きユキはそう宣言するのであった。
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