あなたも、尽きるまで、

天野 星

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あなたも、尽きるまで、

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 君達にとってのは〝恐怖の証明〟であって、俺達にとってのは〝職務の対象〟に過ぎないのだと。
 だからこそ、諦め続けてこられたのに。

 彼女と出会ったことで――
 ――向き合うことができたんだ。

     * * *

 人間でいうところの常世の一画で、俺と両親は紅炎に焼かれる玉座に腰を据える最高神に跪いていた。

「俺の半分。いや、全てを我が子に与えてほしい」

 どのような場所や相手であっても礼儀を重んじる父が見せた親の顔に、直立不動で整然と並んでいた神々に緊張が走る。それもそのはず。父が対峙している相手は、神の頂点に君臨する最高神なのである。

「静かにしい! これは身内の話だ! 部外者は全員退室! さっさと出ろ!」

 誰よりも気高い声が大広間を支配する嫌悪や侮蔑の重苦しさを払拭すると、俯く者も、不満を露わにする者も頭を垂れたのち。縦列の神々は足早に部屋をあとにした。

「ようやっと静かになったわ」

 玉座が軋む音が鳴ると同時に僅かばかり視線を上げると、右の肘掛けに頬杖をつき、全体重を預けているところだった。

「毎度毎度飽きもせず」

 悪態を吐いた真紅の唇から、何度目かの溜息が漏れた。

「そう言うてやるな。あの者達は職務を全うしているに過ぎない。毎回この場に付き合わせているのは私達なのだ。幾ら親族とはいえ、不敬を働いたのも事実。拘束されなかっただけ有り難い話だ」

「またそのような甘いことを」

 頭上で交わされる会話を聞き流しながら、いつまで赤い布と睨めっこをしていればいいのかなんて、痛みを主張し始めた首の心配をしていると。

「生涯一度きりの我儘を聞き届けてはくれまいか?」

 玉座へ続く階段から五十センチメートル程離れた場所に並んで傅く両親から、数センチメートル後ろに控えていた俺の耳に、軽口を断ち切る重低音が届いた。次に届いた声は、聞き慣れたソプラノだった。

「他の神々が猛反対する中【高天原を去り、忌むべき職に就くこと】を条件に婚姻を結ぶことを許して頂いたことには感謝しております。だからこそ夫も私も、様々な仕打ちは仕方のないことだと受け入れてきましたし、我が子にも全てを受け入れるようにと言い聞かせてきました。しかし――」

 親の因果が子に報いる。
 母親は俺を産んだ瞬間から罪悪を抱えて生きている。
 俺の父親は最高神と血縁関係にあるものの、生まれた瞬間から異端児としての宿命を負っていた。父親だけならば、高天原を追われることはなかっただろう。だが、はっきりと嫌厭の対象となり、一家諸共追放されたのは、母親の出自が原因だった。
 その為、普段は邸宅がある【死出の山】か職場でもある下界にいるのが常だったが、百年前から毎日、両親は高天原に通い詰めるようになった。
 そんな両親に代わって下界での職務をこなすことが俺の務めとなり、親孝行の一つとなってしまったのである。
 両親が足を踏み入れるたびに天が揺れ、地は雲に覆われる。神々の機嫌が下界を弄んでは人間が嘆く様子を、俺は他人事のように眺めていた。
 それは自分の為に頭を下げる両親に対しても同じで、俺は生まれて間もない頃から何もかもに冷めていたし飽きてもいた。
 迫害は日常で、侮蔑にはすぐに慣れてしまった。子どもながらに大人びていた俺を、両親は〝短命ゆえ〟だと嘆いていることも知っていたにも拘わらず。
 百年前から続く最高神への懇願も終盤に差しかかっても尚、俺は。
 傲慢で高慢な神々の退屈な親族会議を眺めているだけだった。

「――おい。お前も黙ってないで、何か言わないか」

 遠く聞こえた父親の声で我に返ると、鮮血色の唇が笑みを象った。
 嘲笑なのか、憐憫なのか、唖然とした結果なのか。
 今まで浴びてきた罵声の数よりも、たった一度の笑みが俺を、否、両親の行動の全てを否定しているように思えたのだ。
 生まれた時から冷めていた。
 生まれた時から飽いていた。
 生まれた時から諦めていた。
 どんなに両親が嘆こうとも、請うても、媚びても、希うても。
 俺はただの一度だって、変わらなかった。
 なのに。

「何か言いたそうだな? 何でも訊いてやるから話してみろ」

 尊大な態度はパフォーマンスだろう。俺を挑発して、何かをさせようとしている。そんな声色だった。

「一夏。三ヶ月だけ。人間の時節で六月から八月までの間に一人一年。合計して九十二年の時間を集められたら。その分だけ寿命を延ばしてもらえませんか? 延長した期間中は何でもします。だから」
「「何でも」なんて言葉を私に向かって言うことの意味は分かっておるのか?」
「はい。だからこれは賭け。俺から最高神へ勝負の申し出です。負ければ俺は寿命どおりに死ぬか、最高神の一言で死ぬか」
「しかし、お前が勝てば九十二年だけ寿命は延びるし、お前の両親の心も少しは救えるとでも?」
「はい」
「お前は親不孝者だな」

 どういう意味なのか分からない。と表情に出ていたのだろう。彼女の瞳が陰る。

「面白い。その賭け乗ったぞ。だが、九十二年というのはあまりにも中途半端だ。それに先刻の意味も分からぬ未熟者に、両親の想いも職責の重さも。そして命の重みも理解できまいよ。だから試させてもらう。お前の言葉の重さと強さを――」

     * * *

 私達は何の変哲もない平坦な道で出会った。
 袋の底が破れて林檎が転がり落ちるさまを彼が目撃していたとか、追いかけた先に赤い果実を拾う彼を認めたとか漫画みたいなものではなくて。ただただ追いかけてくる時間に乗り遅れないように、脳味噌の皺に刻まれた〝歩く〟という動作を行っていたときに肩が触れた。
 袖振り合うも多生の縁とはよく言ったもので、僅か数センチの隙間さえ与えてはくれない窮屈な交差点の端っこで、彼と私は触れ合ってしまったのだ。
「すみません」も「ごめんなさい」も雑踏に掻き消されてしまう世界の片隅で、私達は一秒だけ言葉を交わした。
 その刹那を運命や前世の因縁と言うならば、いつもの電車に乗り遅れようとも、運動不足の体で全力疾走しようとも、あの交差点だけは避けて通勤したのに。
 後悔はいつだって遅れてやってくる。
 日常を生きていくうえで当たり前のように時間に追われているのにいつも、いつも、追いかけているのに。追いついた先に待ち構えていたものが〝二択〟だなんて、あまりにも残酷やしないか?

     *

 夏も盛り。猛暑日にも拘わらず、その人はスーツの上着を肩に掛けていた。
 朝の八時とはいえ容赦なく射し込む日を反射しては、黒が白に変わっていく。
 まただ。車が通るたびに揺れる両袖を見ていると、羽ばたく鳥を連想する。そして真っ白なシャツはさながら腹毛のようで。
 心も頭も茹だっている。横断歩道の向かい側に立つ人を鳥に見立てるなんて。
 首を左右に振って雑念を払い落とす。その直後に周囲の人が動き出したことで、馬鹿げた妄想も人波と一緒に、思考の外に流れ始めた。
 さながらベルトコンベアで運ばれる荷物みたいに進む人々。今日も昨日と変わらない一日が始まるのだろうと、淡々と歩みを進めていると。
 とん。
 すれ違いざま。挨拶代わりと肩を小突かれた感触に近い気軽さを彷彿とさせる接触事故だったが故に、思わず右上に目線を遣ると、相手も私を見ていたようで、意図せず目が合ってしまった。そうなると私がすることは一つ。

「すみません」
「ごめんなさい」

 重なる謝罪の先に交差する視線。私の目に映る八の字眉毛の人の瞳に、困惑顔の自分を見たのも束の間。二人が立ち止まっている場所は大勢が行き交う道路上で。だから私達は十秒にも満たない時間で別れを告げた。
 人混みの中で謝意を表し、頭を下げた男女の姿を、白黒の戦場を渡る戦士の何人が見聞きしていただろうか。
 始まりの朝はいつも蒸し暑い。春夏秋冬が消え始めたこの国で、年中梅雨のように重苦しい息遣いで湿気っている交差点。
 勤め始めて丸五年。私は一年の大半を疲れ切った身体と、忙しない身体が行き違うコンクリートの上で消費している。
 赤と青が変わる数秒でさえ人々は立ち止まることを恐れているし、クールビズを謳いながらも未だにネクタイを締めている人も。炎天下にも拘わらず台襟ボタンまで止めている私も何かを恐れている。接触した人もまた漆黒のスーツを纏い、何かから身を守っているのだろうかと考えてから気がついた。
 信号待ちの交差点で見ていた人。一昼夜。何かに集り、何かに群れて、自由を謳歌する鳥。はたまた平和の象徴と言われる鳥を重ねてしまったあの人。アレこそ陽炎の幻影なのだと理解しながらも、比較しようもない在り方や、偶発的な出来事に意味を求めてしまうほどに、私は日常に倦んでいた。否、疎んでいた。
 交差点の端っこで肩が接触するなんて何度目かも分からない。ましてやぶつかった相手の性別や服装なんて、視界に入っているのかも謎のままに、流れ作業のように頭を下げて謝辞を述べてきた。通勤ラッシュ時のターミナル駅前の交差点なんて何処も同じだろう。
 なのに、どうしてか今日は違った。
 午前六時半に可燃物入りのゴミ袋を持って部屋を出て、コツコツと響く靴音をBGMに三階から階段を下りていく。見慣れた集積場に袋を置いて、通い慣れた坂道を下って最寄り駅まで向かうと、駅始発の電車に乗り、二回乗り換えてようやく辿り着いた場所で、記憶に残る事故が起きたのだ。
 理由なんて分からないし、何がどうしてとかも関係ない。積み重ねてきたようで、その実流されてきただけの五年間。
 耳元で「プツン」という音が鳴った。
 振り返る。男性の背中が人波に呑まれて小さくなっていくのが見えた。
 赤色に変わる時間を数え始めた信号機を前に右足に力を込めると、勢いよく荒波に突っ込んでいった。
 誰かが叫ぶ。罵倒する。矢のような声が鼓膜を貫いても、今の私には何も効かない。衝動に任せて男性の影を追いかけた。

「ま、って――」

 掴んだ肩は想像よりも厚く、逞しく。
 膝に手をつき、息を整えていると。

「えっと?」

 間抜けな声が降ってきたので、勢いよく顔を上げると。呆然と立ち尽くす、丸い目をした男性と目が合った。
 一瞬のうちに、自身の奇行を認識する。全身の血が沸騰し、穴という穴から汗が噴き出す感覚。触れた肩から男性の熱が移ったように湿っていく掌。そして、白黒し始めた男性の瞳を最後に、私の世界は反転した。

 見知らぬ場所で目が覚めたとき。彼の姿は何処にもなかった。
 入れ代わり立ち代わり様子を見に来る看護師や医師に訊ねてみるも、「そのような人は見ていない」と返されるばかりで。

 交差点でぶつかった人は誰?
 私が肩を掴んだ人は?
 救急車を呼んでくれた人は?
 救急隊に説明をしてくれた人は?
 接触して、追いかけて、掴まえて。
 額に口づけを落とした人は?
 
 思考を巡らせていると、猛烈な眠気に襲われた。

 確かにあの人は謳っていた。
 眉を八の字にして困ったように笑んだ彼の名前は――

     *

 世界が反転した直後。
 私は見知らぬ場所に寝転がっていた。
 そろそろと身体を起こして辺りを見渡していると、『ごめんなさい』と背後から聞こえた声に心臓が止まるかと思った。
 恐る恐る胸元に右手を当てて振り返る。

『あ』

 交差点の――という言葉を飲み込むと、右隣まで来ていた男性を見上げた。

『体調に異変はありませんか?』

 何の許可もなく隣に腰を下ろすと、抱えた膝に置いた頭をこちらに向けて問うた。

『えっと?』

 己の身に何が起きたのかも理解できずに男性と見つめ合うこと数秒。

『記憶が飛んでいるのですね』

 顔を上げて右拳の側面を左手にポンと乗せるという、なんとも古典的な仕草で得心するので思わず、『ふ』と息を漏らしてしまった。 
 失礼なことをしたと思い慌てて口を塞いで横を盗み見るも、当の男性は右親指とくの字に曲げた人差し指で顎を挟んで思案している様子で、こちらの行動など気にも留めていなかった。
 何処にも明かりなどないのに、何もかもが見えている不思議な空間。黒一色の闇が広がる景色に思い当たる場所が一つだけあった。

『地獄?』
『違いますよ。貴方はまだ死んではいないので安心してください』

 独り言を拾われたことよりも、私の存在を覚えていたことに喫驚した。

『あれ? 驚かないのですね。貴方はではないでしょう? だって貴方』
『ま、待ってください! 噛み砕いて説明してもらえませんか?』

 矢継ぎ早に話す男性を制止した途端、電池が切れたように閉口した極端な男性の行動に、母親に叱られた幼少期の弟が重なる。

『えっと、まずは、ここは何処ですか? 私、確か、貴方の肩を掴んで?』

 そこまで言葉にしてようやく思い出した。
 己の衝動を。奇行を。そして卒倒したことを。

『あの時はいきなり声をかけた挙げ句に、引き留めてしまって申し訳ございませんでした!』

 でしたあ! でしたあ! でしたあ!

 土下座をしている自分の頭上で木霊する謝罪の言葉。
 何もかもが常軌を逸している状況に、全身が熱を帯び始めた。
 発熱でもしたのではないか。地面についた手も、頬も、耳も、膝も。あちらこちらが羞恥で熱くなっていく。血液が沸騰するとは、今の状態を指すのかもしれない。と現実逃避を開始した直後。

『足を崩して顔を上げてください』

 優しい音色が、沸騰した頭を冷やしてくれた。
 言われたとおりに男性と向き合う形で座り直すと、『僕こそ、ごめんなさい』と今度は頭を下げられてしまった。さっきも謝っていたことを思い出す。

『何故、貴方が謝るの?』

 顔を上げてとお願いすること三度。ようやく対面した男性の瞳には、困惑の色が滲んでいる。
 理由を訊ねようと口を開くと同時に、『説明します』と落ち着いたトーンで制止されると黙ることしかできなくて。一度だけ首肯すると、大きくて丸い目が緩やかに弧を描いた。
 男性曰く。
 私は自死願望者でもなければ、対象者? でもなかったみたいで。だけど――。

『本来であれば、貴方は一年後に死ぬはずでした。しかし何の手違いか、今日、あの場所で、貴方と僕は触れ合ってしまった。その結果。残りの寿命。すなわち貴方の寿命一年分を僕が吸い取ってしまった。普通ならお互いに何も気づかず、何も知らず。貴方は僕と接触した数分後には死亡して話は終わるはずだったのですが』
『私が貴方を追いかけてしまったと』
『そうですね。そして貴方は倒れて、今ここにいます』
『ここって?』
『冥道ですね』
『冥道?』
『人間でいうところの死後の世界です。道の途中にある死出の山の頂に、僕と貴方は肩を並べて座している』
『ん? 何を言ってるのかさっぱりなんだけど。死後? じゃあ、やっぱり私は死んだってこと? さっき、『まだ死んではいない』って言ってなかった?』

 にじり寄る私の肩に触れないように配慮しながらも、『落ち着いて』と両手で押し返そうとする男性に、『なら落ち着けるような説明をしてよ!』と、思わず声を張り上げてしまった。

『うんうん、そうだよね。そうなるよね。説明不足で申し訳ない。だから一旦落ち着こ?』

 私の勢いに圧されたのか、面倒になったのか。突如、砕けた口調に苛立ちが増していく。

『落ち着く? 死んだとか言われて落ち着ける人間がいる? というか貴方は誰なの? そういえばさっき寿命が云々とか言ってたけど』
『今から説明するから落ち着こ? ほら、深呼吸』と言いながら、男性は大きく手を広げては閉じて。同時に深く息を吸い込んでは吐いてを繰り返すこと三度目を数えた頃。一連の動作を眺めていただけの私に男性は言った。
『本当にごめんね』

 閉じた両腕は力なく下がり、倒れる前に触れた厚くて逞しかった肩は小さくなっている気がする。明らかに落ち込んでいる人に詰め寄る気にもなれず。項垂れている姿に居た堪れなくなって立ち上がると。

『分かったわよ! 深呼吸すればいいんでしょ!』

 深呼吸を三回繰り返すと、口をポカンと開けた間抜け面の男性の横に座り直した。

『それで?』
『あ、はい。ここは冥道にある死出の山の頂ではあるんだけど。さっきも言ったとおり、君がここに来てしまったのは何かのミスなんだよ』
『何かって?』
『それは、その……子細なことは話せませんが、ヒューマンエラー的な?』
『ヒューマンエラー?』

 誰かのケアレスミスで私は生死の境を彷徨っているのだとすれば、男性ではなくて信じてもいない〝神様〟という存在に文句の一つでも言いたくなってしまう。

『とにかく、こちらの不手際で君を巻き込んでしまったことは本当に申し訳ない。だから、その、君さえよければなんだけど……』
『ねえ、さっきから思ってたことがあるんだけど、訊いてもいいかな?』
『え? あ、はい』

 ばつが悪そうな顔をしている男性の瞳に疑問の色が浮かぶ。目は口より云々とは言うが、目の前の男性に限っては雄弁である。

『見た感じ私より一つか二つ年上? それか年下? だろうから、ため口なのは構わないのだけど』
『だけど?』

 首を傾けて問う仕草が愛らしい。
 この人を初めて見たとき、スマートな社会人だと思った。自由に空を飛ぶ鳥を連想した結果でもあるが、それ以上に短髪の黒髪と真っ黒な瞳が、全体的に落ち着いた印象を与えているのだ。涼やかという単語が似合う雰囲気にも拘わらず、小首を傾げるというのは、一種のギャップというやつか?

『んん』

 咳払いをして邪念を飛ばしていると、『大丈夫? 水、出そうか?』と謎の文言混じりの親切心を発揮されてしまい、邪念だけでなく質問まで吹っ飛んでしまった。

『水は出さなくて結構です。それで話の続きなんだけど』
『あ、はい、どうぞ』

 大人しいのか、しっかりしているのか判別し難い応対に内心ずっと混乱している。

『あなたって呼び方、止めてくれる? 私には名前が』
『ここでは口にしないほうがいいですよ?』

 目が笑っていない。

『本当に死にたくなければ、ですけどね?』
『あなたで結構です』
『よくできました』

 今度は目も笑っている。ニコニコという擬音が形になって見えるかの如く、眼前の男性に翻弄される一方で、無意識に溜息が漏れた。

『大丈夫ですか?』
『大丈夫です。話の腰を折ってすみませんでした。続きをどうぞ』
『そうだ。提案をしようとしていたんだ。貴方、生き返る気はありますか?』
『は?』
『だから生きかえ』
『生き返れるの?』
『とは言っても一年だけですが』
『え?』

 期待に弾んだ胸が一瞬で凍り付いた。

『貴方の本来の寿命が一年だから』

 当然でしょ? と目が言っている。
 そうだ。ヒューマンエラーだかなんだかで接触事故が起きたせいで、私の寿命一年分を男性が吸い取ってしまった結果。
 私は今、死にかけている。
 因果関係などに意味はなくて、きっかり一年。奪取した分を返還するだけの話。
 それすなわち生き返る、ということでもあり、要するに。

『あと一年しか生きられない』

 零れ落ちた現実を耳で拾っても心が追いついてはくれなかった。
 そして新たに生まれた疑問は、身勝手な人によって運ばれてきた試練にしては、随分と残酷な選択であった。

『寿命を吸い取るとか、命の期限を知っている時点で薄々は気づいてたんだけど』

 わざと区切って、彼と目を合わせる。

『貴方は〝死神〟なんでしょう? だから私の寿命を把握できたし、人間の命を吸い取る。ううん刈ることができた。今更、全て作り話です。私は人間です。なんて話が通用するほど私、馬鹿じゃないから』

 声が低いのは仕方がない。現況の原因が、信仰などしていない神による仕業だとするならば、あまりにも勝手で意地悪だ。
 怒りを抑えるなんて不可能だった。人の命を弄ぶなんて。とぶつけなかった理性が残っている自分を褒めてあげたい。

『黙ってないで何か――』

 追い詰めたと思ったのに。
 私は指一本。ううん。眼球を動かすことも、呼吸をすることさえも赦されない程の威圧を感じた。
 立ち上がった〝彼〟が纏う雰囲気は人間のものではなくて。
 生きとし生けるもの全てを恐怖で支配する者。命を刈る〝死神〟であることを証明するかのように禍々しいものだった。

『貴方の言うとおり、僕は死神ですよ。今のところはね』

 意味深長な笑いとともに返ってきた答えに、喉を鳴らすことしかできない。

『ま。そんなことはどうでもいいじゃないですか。僕は貴方から奪った一年分の命を返還する。貴方はそれを受け入れて生き返る。それだけの事ですよ。何か問題でもありますか?』

 心底、何も間違ってはいない。己の存在がこの場所の全てだというような尊大な態度に、一矢報いたくなってしまった。
 身体が震えそうになるのを、後ろで組んだ両手に力を入れることで何とか耐える。気づかれない程度に小さく息を吸い込むと、悠然と立つ死神を見据えた。

『それは本当に私から吸い取った命なの?』
『え?』
『そのままの意味よ。今、私に返そうとしている命は、本当に私から吸い取った命なの?』
『だからどういう』
『分かってるでしょう?』

 一瞬たりとも目を離さずにいると、暗闇が僅かに揺れた。

『どうなの? 判別できるの? 今まで吸い取ってきた人達の命と私の命。死神なら〝命の違い〟が分かるの? どうなの?』

 彼の喉仏が上下に動くと同時に空気を呑み込む音が聞こえた。
 空気の違いなんて分からないけれど、現状を例えるならば〝空気が振動している〟なのだろう。硬直している男の緊張が肌に伝わってくるのだ。
 どれくらいの沈黙が流れたのか私には分からない。数秒だったかもしれないし、数十分、数時間だったかもしれない。永い、長い夜の静寂しじまが、私達を孤独にさせていく。

『意地の悪い質問をしてごめんなさい。だけど』

 彼を責めたかった訳ではないけれど、形としてはそうなってしまった。
 神だから何をしても赦されるだろう。神だから当然、命も返せてしまう。
 彼には、私を軽んじる気持ちなんて微塵もなかったはずなのに。
 恐ろしくなってしまったのだ。
 私以外の命だったら。
 その人が既に亡くなっていたとしたら。
 それは今日の私で一年後の私だから。
 見知らぬ人の命かも知れない。
 友人や親の命かもしれない。
 突然、他人の人生まで背負わされた気がした。
 その重責にたった一年。否、まだ一年耐えることに、何の意味があるのだろうか。
 視界が滲んで歪んでいく。咄嗟に俯いて言葉を切った。
 彼の前では泣きたくない。
 ああ、駄目だ。
 このままじゃ私。

『俺のせいにしなよ。ううん。全部俺の都合で、そんな勝手に巻き込まれてしまった君は被害者だ。だから全部、俺のせいなんだよ』

 いつの間にしゃがみ込んでいたのか。上目遣いに見た彼は何故か笑っていて。その笑顔は今まで見てきた誰よりも美しくて眩しいのに、とても苦しいものだった。
 服の裾を握り締めて涙を堪える。
 彼には彼の事情があって、死神には死神としての役割があって。そして、叶えたい願いもあるのかもしれない。
 だからこそ私は――。
 覚悟を決めて顔を上げる。

『今更だけどやり残したことはたくさんある。一年後に死ぬのが分かっているなら、その時間を有効に使いたい。〝返還された命が他人の命〟だったとしても。私は自分の人生を生きるだけ。
〝生き返る〟という選択が間違いだとも、罰だとも思わない。絶対に、絶対に思わない。
 後悔なんかしたら、罪悪感が生まれちゃうから。苛まれたまま残りの時間を過ごすなんてしたくない。
 それに、どうして巻き込まれた私が他人のことまで考えなきゃいけないの? 神も死神も利己的で自分勝手な生き物なのに』
『なら、どうして君は泣いているの?』
『?』

 頬を、冷たい何かが撫でていく。それが眼前にいる男の親指だと理解したのは、彼の舌が涙を掬ったからだ。

『な?』
『な?』

 頬が熱くなっていく。
 少女漫画にありがちな一コマを恥ずかしげもなく再現した彼はやはり変わっている。
 人間の男性が同じ行動を取ろうものなら、『イケメンに限る』とか言われそうなのに。
 そもそも目の前にいる者は〝人間〟ではなくて〝死神〟なのだ。人間の常識に当てはめること自体がナンセンスだ。

『お、引っ込んだな』

 唇から覗く赤い舌が異様に妖しく見えて、また俯いてしまった。

『まだ止まらないのか?』

 衣擦れの音がすると思った次の瞬間。

『涙は止まったな』

 黒曜石の瞳と目が合った。
 覗き込んでまで確認することか! と叫びたくなる行動に、再び身体の熱が上がっていく。

『もう大丈夫です』
『分かったよ』

 漆黒の世界と等しく黒い瞳が視界から消えると、静々と顔を上げて彼と向き直った。

『生き返るのにタイムリミットはあるの?』
『ないけど、君が眠っている時間だけ、周囲の人間が悲しむかな?』
『そ、れを言われると……』
『ごめん。それで? 答えられる範囲で答えるよ?』
『……神様のくせに心が狭いのね』
『死神だけどね』

 何がおかしいのか。それとも何かを誤魔化しているのか。不自然に笑う癖のある不思議な死神。彼はどうして、人間の寿命から〝一年分だけ〟命を吸い取っているのか。死神のイメージからは、少しだけズレている行為が気になっていたから。彼の背景や心情などの一切に想像力を働かせることなく疑問を口にしていた。

『どうして一年分の寿命を吸い取ってるの? それじゃあまるで、寿命を集めているみたいじゃない? 死神のイメージとは少し違うなって』

 雷に打たれたような。鈍器で殴打されたような。ドラマで観る、突然の出来事に声を失った人間と同じ表情を浮かべる彼を見て、触れてはいけない傷に触れてしまったことに気づいた。
 誰にでもある人に知られたくない秘密や、心の奥底に沈めた苦くて痛い記憶や気持ち。
 彼の繊細で頑なな心に、無邪気に触れてしまったのだ。

 ごめんなさい――。

『謝らないで』

 音にする前に遮った彼の声色はとても柔くて穏やかなのに。一瞬交錯した視線に、真冬の清流みたいな静けさと冷たさを感じて。
 硬直している私から一人分の距離を取ると、私の背後に広がる暗闇を見据えた。
 そんな彼の横顔が寂しい。

『僕は神と、ある種族の間に生まれた禁忌の子どもなんだ。それが起因したのか、最初から父のような無限の自由もなく、母のように選ぶ自由もなかった』

 彼が私を見る。だけどその瞳は私を通り越した先にある闇を映していて。

『僕の寿命は四百年。仮にも〝神〟なのにね。笑えるよ、ほんとに。
 命の限りを知った両親は最高神に懇願し続けた。
 私達の命を分け与えてほしい。出来ないのであれば、代わりに自分達の命を捧げるから、僕に永遠の時を与えてくれってね』

 自嘲的に話している理由なんて訊けない。訊いてはいけない。

『俺はどうでもよかったんだけど、生きてくれって懸命に願う両親を笑われた気がしてね。だから〝賭け〟をしようって言ったんだ。人間でいうところの〝神々の悪戯〟ってやつかな。
 一夏。三ヶ月だね。人間の時節で六月から八月までの間に一人一年。合計して九十二年の時間を集めたら、その分だけ寿命を延ばしてほしいって。三ヶ月の時間をくれ。延長した期間は何でもするからって。可笑しな話だろ?
 両親は永遠を願ったけれど、俺はそれを望まなかった。悠久の時を生きたところで何の意味があるのか。最初から選ぶ権利もない俺には分からないし。かと言って両親の想いを無下にもできない。苦し紛れの折衷案だったんだけど、何故か気に入られてね。最高神様が出した答えがまた可笑しな話でさ』

 つい。と逸らされた目線を追いかけることはできなかった。

『面白い賭けだとさ。だけど中途半端だから、試しに八日間やってみろってことになってね。八年分の寿命を集めた結果、残りの九十二年を集めたら、永遠の命を与えてやるって。
 人間が永遠とも感じる百年が、真実、永遠となった瞬間だな。そんな訳で、六月一日から始めた〝寿命集め〟はトントン拍子に進んで本日、八月三十一日に君以外の人間から一年分の寿命を吸い取って賭けに勝利した俺は、永遠を生きることになる予定だったけれど』

 ふいに視線が絡む。

『君に捕らわれてここにいるってわけ』

 地面を指さして笑う彼の心意は分からない。
 私が追いかけなければ、賭けに勝利した彼は天国か地獄にいて、ご両親と祝いの宴を開いていたのかもしれない。想像を超えた世界の果てに、私の感情など何も及ぼさないのに。どうしてこんなにも辛いとか苦しいとか。胸が締め付けられるような痛みを感じるのだろう。

『俺、何歳に見える?』
『へあ?』

 唐突な質問に素っ頓狂な声が出た。

『ふは……何その声……』

 お腹を抱えて笑うこともできるんだな。なんて感傷に浸っていると、『質問の答えは?』と涙を拭いながら問われた。

『えっと……二十、二、三歳? くらい?』

 人間換算で答えてしまった。

『赤ん坊だね』
『成人です!』
『人間ならね。答えは四百歳』
『四百歳!?』
『君は本当に面白いね。俺達のせいで死にかけてるのに。さてと、そんな君をこれ以上拘束しちゃいけないから、そろそろ寿命を返すよ』

 真剣な眼差しを向けられて、自分の置かれた状況を思い出す。
 何もかもをはぐらかされてしまった私。
 だけど、これ以上は入ってくるなと彼の黒曜石の闇が言っている。

『分かった。そろそろ帰る。でも、最後にもう一つだけ訊きたいことがあるの』
『……これで本当に最後だよ?』

 幼子を見守る親の目。気遣いの目。
 だけど、何かを必死に隠そうとしている迷子の目。

『貴方にとって、命ってどういうものなの?』

 瞠目する彼に、また傷つけてしまっただろうかと、発言を撤回しようとした矢先。

『……君はどうして生き返るの?』

 相手の意図がつかめずに黙ってしまう。

『僕さ、最高神に言われたんだよね。両親の想いも職責の重さも。命の重みも理解できない未熟者って。それから自分の想いの重さも分かってないって。本当に、皆、好き勝手言いたい放題。貴方もその一人だよ? だから教えて、どうして君は、あと一年しか生きられないと知ったにも拘わらず生き返ることを選んだのか』

『そ、れは――』

 彼は全てを理解しているのに、諦めてきた時間が長いから。今更、向き合って受け入れることが怖いのだろう。

『貴方が教えてくれたのよ? 君が眠っている時間だけ、周囲の人間が悲しむかな? って。そういう事よ。貴方は最初から知っていたけど、諦めてきたものが大きすぎるし多すぎるから、今更、どうして? って向き合うことに恐怖心があるんじゃない? 人を死の恐怖に陥れる死神が、生きることに恐怖するなんて。貴方も私達人間と変わらないのかもしれないね。と長々と話しちゃった。ごめんなさい』

 人間風情が。とか怒られるだろうか。
 気づかれない程度に視線を地面に向けると。

『君は本当に面白いね。長い時間引き留めてしまってごめんね。ほら、もう帰りな?』
『え? それだけ?』
『ん?』

 質問に答えたのに、何も触れることなく帰還を促されてしまい、思わず訊いてしまった。

『ん? って、さっきの質問の答えは……』
『……そうだね。貴方の言うとおりだよ。本当にね……』

 これ以上は訊かないでほしい。と雄弁な彼の目が語る。

『わかった』
『それじゃあ、帰る準備はいいかい?』
『……うん』

 死神の彼にとって私という人間は命を刈り取り、あの世へ送るだけの対象に過ぎない。
 だからこそ、何も言わずに別れることに心が揺さぶれることなんてないのだろう。
 永い時間を生きる彼にとって、今、この時でさえも、私は路傍の石と同じ。息を吸って吐き出したら霧散する二酸化炭素と同等の靄みたいなもの。だけど私は彼との時間を一言一句抱えたまま残された一年を生きて、生涯を終えるのだろうと考えた矢先。

『言い忘れていたけど、ここでの記憶は生き返ったとき。つまり命を返還した時点で消去することになっているから、安心して残りの人生を謳歌してよ』
『え?』
『え? って……。所詮、人は人。神は神。生と死に境界があるように、僕達にも明確な境界があるんだよ。ってそんな寂しそうな顔をしないでくれるかなあ……』

 後頭部を掻いて、僕は戸惑っています。なんて主張をされても、心を見透かされた私こそ、『戸惑っている』と反論したいのに。伝えたい思いを表す単語が一つも浮かんでこない。別れの時が近づいているにも拘わらず、私と彼は最初から最後まで独りぼっちだったのだろうか。
 あ、また、泣きそう。
 鼻がむずむずし始めた頃。

『仕方がないなあ』
『え?』

 両腕を掴まれたと思ったら勢いよく引っ張られてしまい、危うく彼の胸に倒れるところだった。離れようとするも手は握られたままで。どうすればいいのかも分からずに、向かい合ったまま立ち尽くしていると。

『どうせ忘れてしまう君だけど、これはお詫びと餞別の代わりだよ』

『失われた翼には夢があった。
 失われた夢には朝があった。
 失われた朝には光があった。
 失われた光には翼があった。

 手の届く先にはいつだって
 鳥が飛び雲が浮き時は流れ
 人の無力さと俯く歯痒さを
 素知らぬふりで越していく

 縋る手は虚しく宙を切って
 散った滴は目元から乾いて
 そしてまた人は希望を見て
 翼を手にする旅に出るのさ』

 小鳥の囀りにも、狼の遠吠えにも聞こえる音色は、彼の嘆きにも、望みの歌にも聞こえた。

『どうだった?』と腰を屈めて、顔を覗き込むのは彼の癖なのだろう。

 私には別れの寂しさや、彼との記憶を忘れてしまう悲しみを表現できる術はなくて。

『歌詞の意味は?』と訊ねるだけで精一杯だ。

 稚拙な私を責めることも、揶揄することもなく、風立つこともなく両手ごと離れていった彼は、月も星もない夜を見上げてこう言った。

『君への祝福。そして自分への激励。かな?』

 振り向いた彼の肩には当然スーツの上着なんてなくて。ましてや背中から羽が生えているはずもないのに。今にも飛んで消えてしまいそうな羽根を背負っているかのように見えた。

『さあ、時間だよ』

 大きな一歩でまた、私と彼の隙間が埋まる。
 いよいよ最後の時を迎える。それならせめて。

『ねえ、名前を教えてくれない?』

 彼の両手が柔い手つきで私の頬を包む。

『名前?』

 鼻先が触れ合う距離で彼がクスクスと笑う。そのたびに掠める息が、拍動が、心を擽ってむず痒い。

『どうせ忘れてしまうなら、最期に貴方の名前が知りたい。あとは質問のお礼とか? これ以上の理由が必要なら考えるから待ってくれる? 大切な人達を悲しませる時間が長くなっちゃうけど』

 多少の皮肉は許してほしい。限られた時間に、残された時間がどれだけあるのか。そもそも時間という概念が存在するのかも分からない二人きりの世界で一人。私だけが異質な存在なのだと、頬に触れる冷たい熱が主張している。

『これ以上待たせるのは駄目だよ。それに理由なんて本来必要のないもので。あるとすれば、を恐れる者が逃げる為にする言い訳だったと。僕は思うよ』

 まるで私がと向き合うきっかけになったみたいな言い方。もう少しだけ、彼のことを知る時間がほしいと思ったけど。
 見透かしたように私の頬を、彼の指の腹が滑っていく。

『さあ、目を閉じて』

 言われるがまま、静かに目を閉じた。

『うん。良い子だね。僕が〝合図〟をするまでは決して開けてはいけないよ。約束できる?』

 幼子を諭すように優しく、それでいて絡みつくような声に一度だけ頷くと、『ありがとう』と弾んだ声で感謝された次の瞬間。

 チュ――

 明らかな意図をもって鼓膜に届いた音と、柔らかい何かが額に触れた感覚。それから。

『俺の名前は――』

 夢の中で話した彼の名前を知ったのは、命が尽きる最期の時。記憶が薄れる直前だった。

不如帰ほととぎす。半人前の死神さ』

 眉を八の字にして困ったように笑っていた。

                 〈了〉
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