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セイドリックの災難5
しおりを挟む「コウさん! 待ってくれ!! コウさん!!」
早足で去ろうとするコウさんを追い掛けた。
玄関の扉に手をかけるすんでのところで追いつき、彼の腕を慌てて掴んだ。
「……なんで逃げるんだ」
「…………その、いや、勝手に入ってきてすまなかった」
「ここにはコウさんは自由に出入りしていいと言ったはずだ」
「……二人の、邪魔をしてしまった」
コウさんは気まずそうに、下を向いた。
「なんのことだ」
「…………」
まさか。まさかと思うが
「ロクさんとのことを誤解しているのか……!?」
「あーその、……いい雰囲気だったよな。外にも楽しそうな声が漏れていた。あー……いや、いいんだ。俺のことは気にしなくていい。ロクさんと気が合うなら、俺はそれで……」
「誤解だ!! ロクさんの食事の介助をしていただけだ!! なんでそうなるんだ」
「その、……かなり仲が良さそうに見えた。……ほら、ロクさんはセイドリックさんの好みのタイプだろ? 俺なんかより……」
「コウさん! 俺の話を聞いてくれ!! 俺が好きなのは……」
必死に弁明しようと、掴んだ腕を引き寄せようとする俺を、コウさんは拒絶するかのように、手を前に突っぱねて制する。
「すまない。なんでこんなに動揺してるのか、自分でも分からない。…………ちょっと考えたい。……また次の休みに来るから、その時、今後のことを相談させてくれ」
「コウさん!」
「セイドリックさん、腕が痛い。……離してくれ」
「あ……すまない…………」
コウさんの腕をかなり強く掴んでいたことにはじめて気付く。痛みで眉根を寄せたコウさんに言われるがまま、俺は手を離した。
「…………」
コウさんは俺の手が離れると、掴まれていたところを何度も擦っていた。
俺はコウさんの腕をそんなに強く掴んでいたのか。
「コウさ……「コウさん、話は終わったなら行くぞ」」
いつの間にか追いついていたレイルが、俺が名を呼ぶより早く、玄関の扉を開けてコウさんを呼んだ。
レイルは呆れたような目で見るだけで、俺には一言もなしだ。
コウさんはレイルの登場に、明らかにホッと安堵した表情を見せると、「また」とだけ小さく俺に呟き、足早にレイルについて去っていった。
——その場には俺だけが取り残された。
どれくらい俺はその場に立ちすくんでいたのだろう。
気がつくと少し離れたところから、ロクさんが心配そうな顔で俺を見ていた。
「あ……ああ、ロクさん。急に部屋を出てしまってすまなかったな。……せっかくコウさんが見舞いに来てくれたのに、話もさせてやれなくてすまない。……悪いんだが今日は、ちょっとひとりで過ごして貰ってもいいか」
「ごめんなさい、セイドリックさん」
「ん? 何がだ?」
「……言いそびれていたんですけど、明日、俺ここを出ますね。実は隣町に兄弟が住んでいるんです。そこを頼ろうかと思って」
「しかし、兄弟とは縁を切ったと……。それにまだ怪我は良くなっていない」
「——本当はちょっと仲違いをしていただけなんです。足は治ったし、骨折もあと少しで治るみたいなので、後は何とかなります。ここは居心地よすぎて、なかなか言い出せなくて、……すみません。お世話になりました」
「さっきのことを気にしているなら……」
「いえ、違います。行く宛があるのを俺がセイドリックさんの優しさにつけこんで、言わなかっただけなんです。セイドリックさんには二度も命を助けて貰いました。それなのに礼どころか、世話になってしまって……申し訳ありませんでした」
「……あちらで迎え入れてもらえるのか?」
そう聞くと、ロクさんは朗らかににっこり笑った。
「ええ、兄弟ですから」
「——そうか」
俺には引き止める権利もない。
むしろ俺が勝手に連れてきたせいで、ロクさんが兄弟と和解する機会を失わせていたのか。
俺の独りよがりで、ロクさんを引き止めたばかりか、そのせいでコウさんが離れていってしまった。
全てレイルが言ったとおりだ。
俺はほんとうにマヌケだ。
翌日、朝起きたらもう客間にロクさんはおらず、貸していた寝間着だけが丁寧に畳まれて置かれていた。
片手できれいに畳むのは大変だっただろうに。
俺は寝台に腰掛け、深くため息を吐いた。
ロクさんへの献身は、決して恋愛感情からくるものではなかった。それは断言できる。
なぜならロクさんに手をだそうなどと、これっぽっちも思ってなかったからだ。
だが、コウさんに会えない寂しさを、彼に尽くすことで埋め合わせていたのかもしれない。
もし仮に、コウさんがこの家に住んでいたとしたら。——ロクさんをここに住まわせるなんて、コウさんから提案でもされない限り、絶対にあり得なかっただろう。
それを今頃気づくなんて。
(きっとコウさんは、俺のことを多情なやつだと思っただろうな)
そう思われても仕方がない。
(コウさんはこの家に置いている荷を、よそに移そうとするかもしれないな)
俺は頭を抱え、髪をグシャグシャと指でかきむしった。
いつまでもこうしている訳にはいかない。
仕事に行かねばと、重い体を無理やり立ち上がらせる。
(今日はレイルに嫌味を言われっぱなしになるだろうが、それも仕方がない)
俺はのろのろと支度をし、いつもの仕事場に向かった。
事務室にはすでにレイルがいたが、意外にも俺の様子を見て鼻で笑った以外は何も言わず、むしろ無関心だった。
ロクさんが出ていったと告げても「へぇ」と言ったのみで、それ以外何もなく、彼にとってロクさんのことは本当にどうでもいい事のようだった。
「……あのな、レイル……コウさんのことだが、あの後何か言っていたか」
レイルは机に向かい書類にペンを走らせたまま、俺の質問に答える。
「……んー、いや、あの後、コウさんもあっちに戻るからって、すぐに別れたからな」
「……そうか」
レイルは一瞬手を止め俺をチラッとだけ見ると、また視線を戻しカリカリとペンを走らせ始めた。
少し何か言いたそうではあったが、この様子だともう言う気は失せたのだろう。
俺も席に座り、黙って仕事を始めた。
また今日からは屋敷ではなく、詰め所の寄宿舎での生活に戻る。ロクさんのために雇い入れた下女や使用人も、解雇した。
「……レイル、久々に夜、鍛錬につきあってくれ」
「ああ、分かった」
それからしばらく事務室には、いつもの無駄話が聞こえることもなく、ペンを走らせる音だけが響いていた。
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