失恋した神兵はノンケに恋をする

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セイドリック、記憶をなくす1

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 俺は普段、怪我をすることがない。
 
 もちろん戦や討伐に出れば大怪我をすることもあるし、訓練でしごかれ打ち身を作ることもある。
 
 そうではなく、普段の生活で、という意味だ。
 蹴躓いて転んだり、重い荷物を運ぼうとして腰を痛めたり、そんなことは体を鍛えている俺には無縁の話だ。
 
 訓練では基礎を怠ることなく、もし何か不測の事態に陥っても、ある程度のことは回避できると自負している。
 
 怪我をするなど鍛錬が足りん。
 まあやるとしたらせいぜい紙の端などで手を切る程度だろう。
 
 
 ——それほど自身の身体能力に自信のある俺が、まさか階段から転げ落ちるなど、一体誰が予想できただろうか。
 
 
 
 
「ちょっと書類を神殿まで届けに行ってくる」
 
 俺はこの日、書類の束を持ち、ふんふんと鼻歌混じりで詰め所に隣接する神殿へ向って歩いていた。
 
「おう! セイドリック殿、今日は上機嫌だな!」
 
「ははは、そうか?」
 
 同僚にすれ違いざまに声をかけられるほどの上機嫌ぶり。何をそんなに浮かれているのかというとだ。
 
 実は昨日、コウさんの仕事が休みで屋敷に戻って来ていたのだ。
 散々二人でイチャイチャして過ごし、一晩中ヤリ続けていたおかげで、朝を迎えても俺はその余韻に浸りきっていた。
 
 
 ——あれからもう何度も、コウさんとは休日ごとにあの屋敷で過ごす日々を送っている。しかし何度会ってもお互い飽きることもなく、屋敷に戻るたび服を着る暇もないほどイチャイチャし、ヤりまくっている。
 
 俺はずっと、コウさんは性に淡白な人だと思っていたから、もし仮に付き合えたとしても体の関係はあまりないだろうと覚悟していた。
 だがいざ蓋を開けてみると、意外なことにコウさんは俺との行為に積極的で、持ち前の好奇心から、毎度ノリノリで楽しんでくれている。
 
 彼曰く、新しい扉を開いたとか何とか。
 
 まあそれは俺にとって、嬉しい誤算だったのだけれども。
 
 
 昨日の夜だって——
 
 
「コウさん、挿れるぞ」
 
 夜中に屋敷へ戻ってきたコウさんと散々イチャついた後、正常位でいざ挿入という時だった。
 
「ああ。…………んん……ん? ……おい、セイドリック、スゴイぞ!」
 
 コウさんの中に突きこんでいる真っ最中、なぜかコウさんは俺が期待していた喘ぎ声ではなく、驚きはしゃいだ声をあげた。
 
「ん……? はぁ…………何がすごいんだ」
 
「ここ、ほら、あんたのが浮き出てる」
 
 腰を支えていた俺の手を取り、コウさんが自分の腹の上に置いた。
 
「……! 本当だ」
 
 確かにボコリと長く太いモノがくっきりと浮き出ている。これまであまり気にしたことがなかったが、こんなに浮き出るものなのかと、俺自身少し驚いた。
 
「な? やっぱり腹に入ってんだなっておも…………ぐっ、ああっ……!!」
 
 俺がそれとなく浮き出たところを摩るようにしてぐっと押すと、コウさんが大きく仰け反った。
 
「い、痛かったか!?」
 
「マズい、それ、結構腹にくる……! ああっ」
 
 腹を押さえながら、一度大きく引き抜いてから突きこむと、またコウさんの体が弓なりに反った。
 
「気持ちがいいんだな?」
 
 俺の問いかけに、目を潤ませたコウさんが荒い息を吐きながらコクコクと頷く。
 
 そして喘ぎ声とともに「もっと、もっとしてくれ」と掠れた声でねだられ、俺の理性は完全に吹っ飛んだ。
 もうそこからは夢中で腰を打ちつけ、あれから何度コウさんが中イキし、精を放ったか……!
 
 ああ! もう昨日のコウさんの恍惚とした表情を思い出すだけでも、股間が疼く。
 
 ニヤニヤが止まらん!!
 
 
 
 ——この日、朝からこんなことばかり考えていた俺だ。注意散漫、鍛錬が足りんヤツだと嘲笑われても、反論などできるはずがない。
 
 歩きなれた神殿側の事務室までの道。
 目を瞑ってでも歩けるはずだった。
 廊下は真っ直ぐで、事務室へ行くには突き当りの階段を降りればすぐそこが目当ての部屋だ。
 
 だが、浮かれて心ここにあらずであった俺は、すでに階段前に到着していたことに気がついてなかった。
 
「あ、セイドリック殿!」
 
 そして誰かに呼ばれそれに気付くことが遅れた俺は、ふいに肩を押されたことで、体勢を崩し階段下へ落下してしまったのだ。
 ……おそらくすごい音がしたのだと思う。人が集まり大騒ぎする声が広がる。
 
「わーーー!! セイドリック殿!!?」
 
「おい! 大変だ!! 医務室へ連絡を!!」
 
 本当に俺は鍛錬が足りん。
 落ちるまでにいくらでも何とかできたはずなのに。
 
「セイドリック殿! セイドリック殿!!」
 
 この声はアンリか? 下の者に無様な姿を見せてしまった。恥ずかしくて堪らない。
 
 大丈夫だと言いたいのに、体が動かない。もしかして頭でも打ったのか? 
 何とか合図を送ろうと必死でもがくが、抵抗むなしく俺の意識はだんだんと遠のいていく。
 
 くそっ、こんなことコウさんに知られたら、絶対に怒られるだろう。
 きっと拳骨で説教だ。
 
 ——朦朧としながらも、コウさんのことを思い浮かべたのを最後に、俺の意識は完全に途絶えた。
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