11 / 34
面会という怒鳴り込み
しおりを挟むコンコン。
セシリアがリュシエールと居る部屋の扉がノックされる。
マーシャにより扉が開けられると、ヴェルリックが入って来た。
「で………リュシー様」
「如何した?ヴェル」
「報告が」
「ちょっと失礼するよ、セシリア」
「…………はい」
椅子から立ったリュシエールはヴェルリックが居る部屋の入口へと向かう。
「何だよ、もう少し話たかったのに」
「コンラッドが登城してきまして、私と父に面会を求めているんですよ、行って来ますので、早く仕事に戻って下さい」
「コンラッドが来たのか………領地の仕事もせず、暇なのか?あの男」
「知りませんよ」
「私も行こう」
「…………は?接点ありませんよね?今は」
「無いが、物申したいんでな」
「…………駄目でしょ、貴方はセシリアとコンラッドの事では関わっていない事になっているんですから」
「行くと言ったら行くんだよ」
駄々っ子の様に意見を押し通すリュシエールは、セシリアの方へ戻って行くと、セシリアの手に自分の手を添える。
「っ!」
「セシリア、コンラッドがヴェルに会いに来ているから、私も少し会いに行ってくるよ……」
「え………コンラッド様が兄に会いに来たのですか?」
「そう、本当は、君との話をもっと楽しみたかったが、私と君との婚約にも関わる事だからね………早く、コンラッドから助けてあげたいから、私に勇気をくれるかい?」
「な、何をすればいいのでしょう?」
「……………」
「っ!」
リュシエールはセシリアの手の甲にキスを落とす。
「まだ勇気は足りないけど、許されるのなら、少しずつ触れる許可も欲しいかな………ごちそうさま、セシリア」
「…………リュシー……様………」
娼館での辱めではなく、気持ちの篭った異性から触れられたのは初めてで、違う意味で身体が火照る。軽く触れたリュシエールの唇から、セシリアの身体が痺れる様だった。
リュシエールの背中を見送った時は、もうセシリアから離れていて、ヴェルリックと部屋を出て行く所だった。
「お嬢様」
「!………な、何?」
「素敵な方ですね、リュシー様は」
「…………ほ、本当に……紳士的な方……」
頬を覆い、火照る熱を抑えようとしているセシリア。
「コンラッド様と比べたら雲泥の差ですよ!………私は、お嬢様とリュシー様はお似合いだと思ってますからね!」
「や、やだわマーシャ!まだそうなるとは決まっている訳ではないのよ?………幾ら、婚約を仄めかされていても、私はリュシー様の素性がまだ分からないのだもの………」
「お嬢様なら、分かりますって」
「それをマーシャもお兄様も教えてくれないじゃないの」
「……………私では言えないんです~!申し訳ありません、お嬢様………」
マーシャも口止めされているのは余程の事だと思われ、セシリアは強くは詰れなかった。
❆❆❆❆❆❆
一方のリュシエールとヴェルリック。
「何、別れ際に口説いてるんですか?」
「いいじゃないか、可愛らしい表情を見せてくれる様になったんだ、私も欲が出る」
「…………私も、あんな表情は見た事は無いですけどね」
「コンラッドには見せなかったのか?」
「見せる訳ないじゃないですか、嫌ってたのに」
「社交場での彼女の表情は仮面だったか」
「あの顔をコンラッドは知りませんよ、優越感持てたでしょうから、執務室に戻って下さいね」
「は?私も行くと言ったが?」
「……………忘れてなかった………」
セシリアの部屋から、コンラッドを待機させている応接室迄は距離があり、コンラッドを待たせているだろうが、慌てて行こうとしないリュシエールとヴェルリック。
「嫌にゆっくり歩くね、ヴェル」
「コンラッドは短気なので、短気の時にする会話はボロが出るんですよ」
「…………コンラッドが彼女を娼館送りにした事も聞けると?」
「それも聞けるでしょうね、私達はもう知っていますが、コンラッドは私や父が自分が娼館送りにした事を知らないと思ってますので」
「…………クククッ………ヴェルも相当意地が悪いね」
「貴方程ではないですよ」
応接室に近付くと、カーター伯爵も近くで待っていた。
「殿下、何故此処に?」
「私もコンラッドの言い分を聞きたくてね」
「………火に油を注ぎそうなのですが……」
「父上も説得して下さいよ……仕事に戻って頂けないのです」
「ヴェル………お前で無理なのだから、私では難しい」
「私は聞くぞ、幾ら説得されようがな」
結局、ヴェルリックとカーター伯爵が折れて、応接室に入るリュシエール。
「待たせたな、コンラッド」
「ヴェル!お前、セシリアが居なくなったのに探しているのか!」
応接室入口でまだ3人入れていないのに、ヴェルリックが先頭に居た為、コンラッドはヴェルリックに詰め寄った。
「コンラッド、殿下の前だ………煩い」
「……………え?殿下?………リュシエール公子殿下!………も、申し訳ありません!」
「私の事は気にしなくていい、コンラッド卿」
コンラッドの怒りの沸点はリュシエールの存在で下がったが、何故この場に来ているのかが分からないコンラッド。
「コンラッド卿、座ろうか」
カーター伯爵がリュシエールを先に誘導し、座らせると自身とヴェルリックが座っても、呆然と立ち尽くすコンラッドに声を掛ける。
「っ!……は、はい……」
「如何した?コンラッド」
コンラッドが座るとヴェルリックが、第一声を発する。
「………セシリアが居ないんだ……」
「拉致されてしまったからな………」
「な、何故お前はそんなに落ち着いているんだ!………義父上さえも!」
婚約破棄もされ、結婚も出来ないのに、コンラッドは婿気分だ。
「へぇ~、カーター伯爵令嬢が拉致されたんだ」
「で、殿下………」
すっとぼけたリュシエールに、ヴェルリックとカーター伯爵は複雑な目線を送る。知っているし、この件に関わっているのに惚けているのは、リュシエールが面白いと思っているから。
「そ、そうなのです!セシリアは私と結婚も控えていて、結婚を待ち望んでいたのに、私の屋敷に来る途中で馬車が襲われ、セシリアは行方不明に!」
このコンラッドの焦り様に笑いを押し殺しながら、リュシエールはコンラッドの言葉に返す。
「心当たりは無いのか?コンラッド卿……カーター伯爵家やヴェルリックの方は誰かに恨みを買う様な人達では無いと私は見ているが?」
「………お……わ、私に対しての恨みからだと仰るのですか!」
『俺』と言い掛けていたのだろう。この辺りが、コンラッドの情けなさだ。冷静に判断も出来ず、出世術も下手だった。
「私は、ヴェルリックもカーター伯爵もよく知っている……ヴェルリックは私の副官で、カーター伯爵は公王の父の腹心だ………それに引き換え、貴方の社交場で耳に入る噂は、私には耳障りでね………特に女性関係に関しては………大方、貴方に縁がある令嬢が貴方とカーター伯爵令嬢との婚約を良く思っていないから、という事は無いのかな?」
「………そ、そうなのです!私は、セシリア以上の女は考えられないのに、次から次に他の令嬢に言い寄られて………」
「「「…………」」」
―――嘘吐き
3人がそう思って、言葉が出ない。
そして、笑いを堪えるのが必死であったリュシエール。
「それなら、貴方がその令嬢達の想いに答えてあげたら如何だ?」
「…………な、何を仰るのですか……?」
「カーター伯爵から少し聞いてはいるが、セシリア嬢との婚約は破棄を申し出た、と聞き、貴方の父上ドラグーン伯爵は言葉を濁したが、それは事実なんだと私は確認した………それなら、貴方がセシリア嬢を諦め、浮気性の貴方がいい、と言ってくれる令嬢と結婚をしたらいい」
リュシエールは、コンラッドを別の女と結婚させてしまえば、セシリアを諦める事も前向きになるだろう、と提案する。そうなれば、ゆっくり焦らずセシリアを懐柔し口説けるからだ。
「嫌ですよ!俺は認めない!セシリアは俺の女だ!全く俺を見ようとしないから、娼館に押し込んだのに、セシリアは消えたんだ!だから探してるのに!ヴェルは動こうとしない!何故だ!」
「……………コンラッド………お前、やっぱり……」
「…………え?………あ!」
感情的になり、コンラッドは自分で暴露してしまい、ヴェルリックに睨まれて気が付いた愚者らしい結末だった。
18
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる