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面会という怒鳴り込み
しおりを挟むコンコン。
セシリアがリュシエールと居る部屋の扉がノックされる。
マーシャにより扉が開けられると、ヴェルリックが入って来た。
「で………リュシー様」
「如何した?ヴェル」
「報告が」
「ちょっと失礼するよ、セシリア」
「…………はい」
椅子から立ったリュシエールはヴェルリックが居る部屋の入口へと向かう。
「何だよ、もう少し話たかったのに」
「コンラッドが登城してきまして、私と父に面会を求めているんですよ、行って来ますので、早く仕事に戻って下さい」
「コンラッドが来たのか………領地の仕事もせず、暇なのか?あの男」
「知りませんよ」
「私も行こう」
「…………は?接点ありませんよね?今は」
「無いが、物申したいんでな」
「…………駄目でしょ、貴方はセシリアとコンラッドの事では関わっていない事になっているんですから」
「行くと言ったら行くんだよ」
駄々っ子の様に意見を押し通すリュシエールは、セシリアの方へ戻って行くと、セシリアの手に自分の手を添える。
「っ!」
「セシリア、コンラッドがヴェルに会いに来ているから、私も少し会いに行ってくるよ……」
「え………コンラッド様が兄に会いに来たのですか?」
「そう、本当は、君との話をもっと楽しみたかったが、私と君との婚約にも関わる事だからね………早く、コンラッドから助けてあげたいから、私に勇気をくれるかい?」
「な、何をすればいいのでしょう?」
「……………」
「っ!」
リュシエールはセシリアの手の甲にキスを落とす。
「まだ勇気は足りないけど、許されるのなら、少しずつ触れる許可も欲しいかな………ごちそうさま、セシリア」
「…………リュシー……様………」
娼館での辱めではなく、気持ちの篭った異性から触れられたのは初めてで、違う意味で身体が火照る。軽く触れたリュシエールの唇から、セシリアの身体が痺れる様だった。
リュシエールの背中を見送った時は、もうセシリアから離れていて、ヴェルリックと部屋を出て行く所だった。
「お嬢様」
「!………な、何?」
「素敵な方ですね、リュシー様は」
「…………ほ、本当に……紳士的な方……」
頬を覆い、火照る熱を抑えようとしているセシリア。
「コンラッド様と比べたら雲泥の差ですよ!………私は、お嬢様とリュシー様はお似合いだと思ってますからね!」
「や、やだわマーシャ!まだそうなるとは決まっている訳ではないのよ?………幾ら、婚約を仄めかされていても、私はリュシー様の素性がまだ分からないのだもの………」
「お嬢様なら、分かりますって」
「それをマーシャもお兄様も教えてくれないじゃないの」
「……………私では言えないんです~!申し訳ありません、お嬢様………」
マーシャも口止めされているのは余程の事だと思われ、セシリアは強くは詰れなかった。
❆❆❆❆❆❆
一方のリュシエールとヴェルリック。
「何、別れ際に口説いてるんですか?」
「いいじゃないか、可愛らしい表情を見せてくれる様になったんだ、私も欲が出る」
「…………私も、あんな表情は見た事は無いですけどね」
「コンラッドには見せなかったのか?」
「見せる訳ないじゃないですか、嫌ってたのに」
「社交場での彼女の表情は仮面だったか」
「あの顔をコンラッドは知りませんよ、優越感持てたでしょうから、執務室に戻って下さいね」
「は?私も行くと言ったが?」
「……………忘れてなかった………」
セシリアの部屋から、コンラッドを待機させている応接室迄は距離があり、コンラッドを待たせているだろうが、慌てて行こうとしないリュシエールとヴェルリック。
「嫌にゆっくり歩くね、ヴェル」
「コンラッドは短気なので、短気の時にする会話はボロが出るんですよ」
「…………コンラッドが彼女を娼館送りにした事も聞けると?」
「それも聞けるでしょうね、私達はもう知っていますが、コンラッドは私や父が自分が娼館送りにした事を知らないと思ってますので」
「…………クククッ………ヴェルも相当意地が悪いね」
「貴方程ではないですよ」
応接室に近付くと、カーター伯爵も近くで待っていた。
「殿下、何故此処に?」
「私もコンラッドの言い分を聞きたくてね」
「………火に油を注ぎそうなのですが……」
「父上も説得して下さいよ……仕事に戻って頂けないのです」
「ヴェル………お前で無理なのだから、私では難しい」
「私は聞くぞ、幾ら説得されようがな」
結局、ヴェルリックとカーター伯爵が折れて、応接室に入るリュシエール。
「待たせたな、コンラッド」
「ヴェル!お前、セシリアが居なくなったのに探しているのか!」
応接室入口でまだ3人入れていないのに、ヴェルリックが先頭に居た為、コンラッドはヴェルリックに詰め寄った。
「コンラッド、殿下の前だ………煩い」
「……………え?殿下?………リュシエール公子殿下!………も、申し訳ありません!」
「私の事は気にしなくていい、コンラッド卿」
コンラッドの怒りの沸点はリュシエールの存在で下がったが、何故この場に来ているのかが分からないコンラッド。
「コンラッド卿、座ろうか」
カーター伯爵がリュシエールを先に誘導し、座らせると自身とヴェルリックが座っても、呆然と立ち尽くすコンラッドに声を掛ける。
「っ!……は、はい……」
「如何した?コンラッド」
コンラッドが座るとヴェルリックが、第一声を発する。
「………セシリアが居ないんだ……」
「拉致されてしまったからな………」
「な、何故お前はそんなに落ち着いているんだ!………義父上さえも!」
婚約破棄もされ、結婚も出来ないのに、コンラッドは婿気分だ。
「へぇ~、カーター伯爵令嬢が拉致されたんだ」
「で、殿下………」
すっとぼけたリュシエールに、ヴェルリックとカーター伯爵は複雑な目線を送る。知っているし、この件に関わっているのに惚けているのは、リュシエールが面白いと思っているから。
「そ、そうなのです!セシリアは私と結婚も控えていて、結婚を待ち望んでいたのに、私の屋敷に来る途中で馬車が襲われ、セシリアは行方不明に!」
このコンラッドの焦り様に笑いを押し殺しながら、リュシエールはコンラッドの言葉に返す。
「心当たりは無いのか?コンラッド卿……カーター伯爵家やヴェルリックの方は誰かに恨みを買う様な人達では無いと私は見ているが?」
「………お……わ、私に対しての恨みからだと仰るのですか!」
『俺』と言い掛けていたのだろう。この辺りが、コンラッドの情けなさだ。冷静に判断も出来ず、出世術も下手だった。
「私は、ヴェルリックもカーター伯爵もよく知っている……ヴェルリックは私の副官で、カーター伯爵は公王の父の腹心だ………それに引き換え、貴方の社交場で耳に入る噂は、私には耳障りでね………特に女性関係に関しては………大方、貴方に縁がある令嬢が貴方とカーター伯爵令嬢との婚約を良く思っていないから、という事は無いのかな?」
「………そ、そうなのです!私は、セシリア以上の女は考えられないのに、次から次に他の令嬢に言い寄られて………」
「「「…………」」」
―――嘘吐き
3人がそう思って、言葉が出ない。
そして、笑いを堪えるのが必死であったリュシエール。
「それなら、貴方がその令嬢達の想いに答えてあげたら如何だ?」
「…………な、何を仰るのですか……?」
「カーター伯爵から少し聞いてはいるが、セシリア嬢との婚約は破棄を申し出た、と聞き、貴方の父上ドラグーン伯爵は言葉を濁したが、それは事実なんだと私は確認した………それなら、貴方がセシリア嬢を諦め、浮気性の貴方がいい、と言ってくれる令嬢と結婚をしたらいい」
リュシエールは、コンラッドを別の女と結婚させてしまえば、セシリアを諦める事も前向きになるだろう、と提案する。そうなれば、ゆっくり焦らずセシリアを懐柔し口説けるからだ。
「嫌ですよ!俺は認めない!セシリアは俺の女だ!全く俺を見ようとしないから、娼館に押し込んだのに、セシリアは消えたんだ!だから探してるのに!ヴェルは動こうとしない!何故だ!」
「……………コンラッド………お前、やっぱり……」
「…………え?………あ!」
感情的になり、コンラッドは自分で暴露してしまい、ヴェルリックに睨まれて気が付いた愚者らしい結末だった。
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