お見合い、そちらから断ってください!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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【航side】困った兄貴

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「いい加減にしてよ、お兄ちゃん!」
「っ!」

 見合いを終えて、小山内家に戻って来た航。
 羽美と律也、2人の子供、そして裕司、紗耶香と裕司と紗耶香の間に産まれた息子も居る。
 店を臨時休業にし、彬良や茉穂、そしてその2人の子供1人も仕事が終わったら来る予定になっている。

「お見合い失敗したのか、航」
「ひっちゃかめっちゃかだったわよ、落ち着いてくれないし、お相手の人も乗り気じゃなくて、妹さんにお兄ちゃん押し付けようとして」
「律也が悪いんじゃねぇか!黙って見合い計画しやがって!」
「羽美が心配してたからな……たまたま、間野フーズの社長に、長女の亜里沙さんの嫁ぎ先を探してる、と言うんで年齢的に航に如何か、とな………同棲していた彼女と別れたんならいいじゃないか」
「結局、俺達に紹介もせずに別れてよ」
「裕司と彬良に紹介出来るかよ」
「裕司さん、それでも別れたんだから、会ってても一緒よ」
「それもそうだな」

 子供達は子供達で仲良く遊ぶ中、まだ羽美と律也の2人目の子は1歳にもなってはおらず、律也の膝の上であやされていた。
 3歳間近の翔也と、裕司と紗耶香の息子、1歳の裕斗がきゃっきゃ、と玩具で遊んでいる。羽美と律也がお見合いの場に居る間、紗耶香が子供達を見てくれていたのだ。

「航さん、彼女さんと別れた原因って何なんですか?」
「…………」
「お、それ聞かせろよ」
「……………言えん……」
「何で言えねぇんだよ」
「言えんったら言えん!」
「羽美は知らないのか?」
「知らない」

 親友の裕司や妹の羽美が聞いても決して答えた事が無い航。

「もしかして、羽美さんが理想だから比べちゃう、とか?」
「ゴホッ、ゴホッ!」
「図星か!航!」
「…………妹に懸想するのだけは止めてくれ、航……羽美は俺の妻!君の妹だぞ!」

 お茶を啜ってる航に、紗耶香は意表を突いた様で、航がお茶を咳き込む。

「止めてよ、お兄ちゃん汚いなぁ………もう妹離れしてくれる?」

 その羽美は至って平然で、航がシスコンなのはよく知っているからか相手にもしない。

「俺だってな!探すつもりねぇよ!羽美と違う所とか、似てる所とか!だが、『あぁ、こんな事羽美はやらねぇのに』とか『羽美が好きそうな服だな』とか言っちまうんだよ!」
「…………あぁ、それで毎回フラれるのか」
「航さん、言いそう……あ、言ってるんですね」
「重症だなこりゃ」
「兎に角だ!絶対に見合いはお断りだ!」
「…………お兄ちゃん」
「っ!…………な、何だよ……」
「初対面で、どんな人か分からないのに断る程、お兄ちゃん偉い人なの?」
「…………おぉ………航タジタジ……」
「羽美さん、凄い……」

 裕司、紗耶香夫妻は、羽美と航の力の差が面白い様で、羽美の向かいに座る航は小さくなっていく姿を見比べている。

「え、偉くねぇけどよ………」
「お父さんとお母さんを安心させてあげなよ」
「…………ぐっ……」
「今迄迷惑掛けてきたよね?」
「お、俺は…………だな………」
「何?」
「羽美」
「何?お父さん」
「それ以上言ったら、航落ち込むから止めてやれ………羽美を1番に考えていた航がやっと自分の事も考える様になったんだから」

 羽美がまだ中学高校時代、羽美と付き合いたいが為に、ストーカーじみた同級生達からの熱烈なラブコールを蹴散らしてきた航。途中からは裕司も加わってはいたが、それは羽美は助けられてきた経緯もある。
 大学生時代は、そんな航から距離を起き、交際してきた男達も居たが、結局はまたストーカー被害に遭い、また航の世話になってきた羽美。
 その後、律也と出会い紆余曲折あり結婚したが、航の心中は穏やかには暫くなってはいなかった。羽美が結婚し、子供が産まれやっと、彼女も出来たが、上手くいかずに別れたばかり。その彼女に本気だったか如何か等、羽美達には知らない事だ。傷付いている可能性もある。
 同棲も解消し、航は実家に戻ってはいないが、ほぼ実家で生活している様だ。

「料理の事には煩いのに、お父さんお兄ちゃんに甘くなってない?」
「そんな事はないとは思うがな……刺々しかった時期の航に比べたら、怒る気にもなれん」
「要は、航は馬鹿だったのが阿呆になったから、付ける薬も無いってか!」
「…………てめぇ!裕司!」
「何だよ、やるか?」
「もう、止めなさい!2人共!」
「「!」」

 孫の相手をしていた航と羽美の母も、暴れられるのは嫌なので、喝を入れられた航と裕司。この2人のやり取りは、大人になっても変わらないらしい。

「でも、お兄ちゃんの意思は置いといて、間野さんの2人の娘さん、対象的だったわね」
「長女は、見合い嫌がってたしな」
「次女は、航気に入ってたし」
「え?姉妹2人と航さんお見合いしたの?」
「目的は、長女1人だったんだけどな」

 裕司も見てきていたので、同行していない紗耶香に事の成り行きを説明をした。それには航の両親も聞く耳を持っている。

「間野フーズと言ったら、加工食品で少し使う事はあるが………そのお嬢さんと航は会ったのか……律也君、もっと庶民的な娘さんでいいんだぞ?航には」
「お義父さん、たまたまですよ……間野フーズと取引があって、誰か娘に紹介してもらえないか、と打診があったので」
「だが、あちらさんからは断り難いんじゃね?が入ってんだから」
「俺も困るんだよ……航はシスコンだが、羽美もブラコンだから、何かにつけて『お兄ちゃんは……』て言うから、嫉妬する」
「…………律也!てめぇの嫉妬で俺を振り回すんじゃねぇ!」
「納得」
「裕司!納得するな!」

 これに怒るのは航1人だけ。羽美は『そうかなぁ』と首を傾げていたが、裕司は更なる追い打ちを航に掛けた。

「彬良が聞いても納得すると思うぞ」
「裕司、今嫉妬してるから、彬良の名前言わないでくれ」
「………律也さん、心狭いですよ」

 兄弟も居ない紗耶香からすれば、ただただ羨ましい限りではあった会話だった。



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