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時が経っても

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 別荘の襲撃事件から、2週間、3週間が経っても、騒ぎは収まらなかった。それは世間で騒がれる大きなニュースが無かったというのもあり、高嶺家へのマスコミ取材も続いていたからだ。娘が見つかったのだから、話を聞かせて下さい、という類いのものだが、櫻子を取材するな、と蒼太が突っぱねているのもある。櫻子の話を聞けば、自ずと高嶺家の他の4人にも、となり、逆もまた然りになるからだ。
 だが、噂というのは如何しても広がり、櫻子が育った孤児院や、勤務先だった保育園、その保育園に通う保護者への取材へと発展して行った。保護者や保育園からは櫻子を嫌な印象は無かったという話は出るが、世間では極道に批判的な見方が多い分、極道の娘が保育士で心配、子供に悪影響を及ぼす、そんな女を保育園でよく雇った、等バッシングも多かった。

「すいません、園長先生……取材が押し寄せてますよね」
『大丈夫ですよ、こっちは……櫻子先生に不満等言う担当した園児の保護者や先生達は居ませんし……ただ、急に辞められたでしょ?子供達がねぇ……』
「本当にすいません………子供達に謝りたいけど、今は行かない方がいい、と思うので」
『………そうね、子供達には、櫻子先生が心配するから、元気でいようね、とは言ってますし……一部保護者さんは担当していなかった方達ですけど、いい反応されてない方もみえて、擁護する保護者さん達と衝突したりして………落ち着くのを待っていたけど、なかなかねぇ……』

 保育園の様子を聞けば聞く程、胸が押し潰される櫻子。保育園の園長との電話を切り、新聞を読むと未だに週刊誌の見出し広告には、事件の事が書いてある。

 バサッ。

 新聞の見出し広告を見ていると、咄嗟に新聞を奪われてしまうのだが。

「読んでたのに………」
「見出し広告見てるから奪ったんですよ、お嬢」
「坂本さん、今日桜也はお父さんとお母さんに会いに行ったのよね?」
「はい、として」

 櫻子も自傷行為も衝動に駆られる時はあるものの、桜也が居ない時でも何とかその衝動を押し殺せる迄には回復してきていた。

「会いに行きたい」
「駄目ですよ………マスコミにも対応するのも」
「…………マスコミには対応する気なんてないけど……獅子王組の方は?」
「獅子王大和は相変わらず雲隠れしてますね………」
「でもこのままにしておけない…………」

 櫻子も雲隠れしているのも長続き出来そうになく、桜也の帰りを待ち、決断をしようと立ち上がる決意をする。

          ♤♤♤♤♤

「お疲れ様です、頭」
「………おう……坂本、変わった事は?」
「お嬢が考えてる様です」
「………またか…………」
 
 今迄も、櫻子は大和に会う為に案を出しては桜也に却下されていた。溜息が漏れる桜也。

「まぁ、却下するが意見だけは聞くか………」
「それと、新聞の週刊誌見出し広告に食い入る様に見てました。週刊誌の記者がでっち上げの場合がありますが、注意が必要かと」
「…………週刊誌か………何処の奴か調べろ」
「分かりました………失礼します」

 部下達も、桜也が帰宅したので、マンションから出て行く。奥から櫻子も出て来たので、坂本も早々に退散した。

「お帰りなさい」
「ただいま………」
「ご飯食べますよね?」
「…………癖だな、もう」
「ん?」
「敬語」
「……………あ……つい……」

 .•*¨*•.¸¸♬.•*¨*•.¸¸♬

 いつまでも敬語を止めない櫻子になかば諦め掛けていた桜也。そんな時に、櫻子のスマホが鳴る。

「………誰だろ…………美咲?」
「誰?」
「………短大で一緒に保育士の勉強した友達です………出て良いですか?」
「………ああ……それなら………但し、スピーカーで」
「…………信用しないなぁ……もしもし、美咲?久しぶり」

 スマホをスピーカー通話で取る櫻子。桜也は櫻子にスマホを返す代わりに、獅子王組の事が落ち着く迄、桜也の前ならスマホを使っていい、と念を押していた。通話も桜也の前で会話をする事が条件だ。

『櫻子~、久しぶり!元気だった?』
「うん………まぁ……まぁ……かな」
『ねぇ、引越したよね?櫻子………私ハガキ出したんだけど、戻ってきたからさ……』
「うん、引越ししちゃったの……ごめん、ハガキ何だった?」
『へへへ……私結婚するんだよねぇ~、だからハガキ出したんだけど、出席して欲しくてさ』
「きゃ~!!おめでとう!!……いつ?」
『来月の第1週の日曜よ………教会式の後、会費制だけど、パーティーするからさ………出席して欲しいなぁ、て……どう?』

 櫻子は行きたくて仕方ない。友人の門出だ、祝ってあげたくて、桜也を見た。保留にしろ、とメモを見せられる。

「ちょっと待ってくれる?予定見るから」
『はいは~い』
「獅子王に知られてる相手か?」
「………それがよく覚えてないんです……話には彼氏居るとは言ってあった気がするんだけど……」
「彼女が獅子王を知らなきゃ行ってもいいが、式だけな………パーティーは却下」
「パーティーも行きたいです」

 櫻子は、久しぶりに会う友人を大事にしたかったのもある。只でさえ制限がある生活なのだ。それは桜也も分かっていた。

「…………分かった……俺も行ってもいいなら許す」
 
 溜息は交じるが、桜也は了承する。

「ありがとうございます!…………もしもし!大丈夫なんだけど、人を同行させてもいい?」
『…………何何何何?彼氏?彼氏?』
「……う、うん………まぁ……」
『見たいから、連れて来て!』
「う、うん………分かった……」

 場所を聞き、電話を切ると、桜也は満足そうだった。

「ふ~ん……………」
「…………ち、違いますか?」
「違わない………櫻子を食べたくなった」
「ご飯先」
「…………はいはい」

 だが、浮かれていたのはこの日だけ。桜也はその場所やスタッフ、櫻子の友人の式の出席者等を調べ尽くさせた。しかし、獅子王組に繋がるものはなかった。
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