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引きこもりに喝
しおりを挟むアニースはアリシアを誘い、ラメイラの見舞いに行く事にした。
「大丈夫でしょうか、ラメイラお姉様。」
「分からない。だがあのままではラメイラが壊れてしまう。」
「そうですね。」
「私達は暇さえあればラメイラに会いに行こう。ナターシャとは違い私達は勉強以外時間はあるのだから。」
ナターシャは皇太子妃として、公務も度々あり王宮を留守にする事が多い。
ラメイラも皇子妃として、公務は予定されてはいるものの、今はナターシャの仕事からの振り分けで、王宮の外を出る事はない。
そして、この数日公務だけでなく、皇子妃の勉強さえも出来ていないのだ。
「ラメイラに話たい事もあるんだがな。」
「…………タイタス殿下の妃候補に、というお話ですか?」
「…………そう……ラメイラはタイタス殿下が好きだったろう?今はトーマス殿下妃だが、何も私から言わないというのもな。」
「………本当、レングストンの王族の方々は見る目ありますわ。」
「何だ、唐突に。」
アリシアはアニースを見上げ、溜息混じりに呟いた。
「だって、わたくしが尊敬して止まないナターシャお姉様を筆頭に、ラメイラお姉様もアニースお姉様も素敵で、皇子妃候補なんだもの。」
「アリシアだってコリン殿下の妃候補じゃないか。」
「わたくし、コリン兄様には嫁ぎませんわ。」
「……………は?」
「決めたんです!わたくし、カイル一筋で!」
アニースは目を見開く。
(この子は本当に真っ直ぐな子だな。)
捻くれてはいるものの、決して嘘を付く子ではないのをアニースは知っている。
アードラからの報告はアリシアには入っていると、アリシアから聞いていたアニース。
カイルがアードラに旅立ってから、暫く落ち着かない様子だったアリシアが、報告がある度に明るさを取り戻していた。
「そうか………決めたのか。」
「わたくし……絶対に諦めません!」
話しながらトーマス邸に着いた2人。
衛兵に声を掛け、邸に入るとアリシアとは違い元気が無くなっていくラメイラがそこに居た。
「ラメイラお姉様………。」
「…………ラメイラ、あなたは自害したい訳?」
アニースは思わず素直な見解を言った。
「アニース様!!なんて事を!」
侍女も驚くが、ナターシャの叱咤に同感だったアニースは自分が言いたい事を言う。
「アニースお姉様………今そんな煽るような言葉……。」
「だってそうだろ?死にたくない、て言いながら自分の身体を労ってないじゃないか。食事もまともに取らず、引き篭もって………ずっとそれだと、本当に死ぬぞ!あなたが今死ぬと、お腹の子も死ぬんだ!いいのか!」
「……………いや………子供は死んじゃ嫌だ……。」
毛布を頭から被り踞っていたラメイラが、アニースの言葉に反応する。
「私は3年旅をしてきて、親に捨てられた路上暮らしの小さな子供を沢山見てきた。親が死んでしまったかもしれない子も居るだろうが、その子達が望んでその生活をしていると思うか?大人になる迄に生きていられても、保護も生活力の無い子の末路など、目に見えている。身体を売るか、犯罪に手を染めるか………そして、また子供を産み、親に捨てられた経験した子はまた子供を捨てる。」
「……………。」
「ラメイラは幸い、公女として産まれ、生活にも困らなかったが、今のラメイラのしている事は、それさえも放棄しているのだと思わないか?」
「…………子供を捨てるなんて考えてない!」
「では、もしラメイラが死んでしまって、残された子供はどうなると思う?」
「…………どうなる……って言うんだ?」
「トーマス殿下がお一人で育てるか、もしくは再婚してその子を育てるか………ただ、継母というのは厄介でな……。」
アニースとアリシアはよく分かっている。
一夫多妻制の国で母親が健在でも、自分以外の子を産んだ夫の子への扱いは無関心か嫉妬の矛先なのだ。
「…………アニースお姉様……。」
「ラメイラは、もし出産時に死ぬ恐怖心を抱えながら、本当に最悪の事態になった場合、後妻がその子にどう扱うか、て考えない?私の母上は自害したが、唯一悔やむ言葉が遺書に書いてあってな………『娘アニースの成長が見られない事が悔しくて仕方ない』だった。いいのか?ラメイラ………トーマス殿下に後妻が来ても……まだトーマス殿下は若いしな、ラメイラしか駄目という事はないだろうし、子供には母親が必要だ。」
「やだ!!もっとやだ!!」
「じゃあ、死ねないし死にたくないなんて言えないな。」
「………………あ……。」
アリシアやマーニャ、他の侍女達は絶句する。
ナターシャとは違う諭し方をしたアニースの言葉も一理あるのだ。
ラメイラの顔付きが変わる。
恐怖心のある表情ではなくなった。
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