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しおりを挟むその頃、騎士職を任期満了しフェリエ侯爵家に帰宅していたスヴェンの元に一通の手紙が届いていた。
「シスリー嬢?………初めて彼女から手紙が来るなんて……」
自室で父の仕事の手伝いをしていたスヴェンは、まだ慣れない業務を熟し、疲れを溜めていたので、シスリーからの手紙は癒しになった。
「…………観劇のチケット……僕と会ってくれるのか!」
シスリーからのデートの誘いと観劇のチケット。
それは嬉しい事なのだが、スヴェンにもシスリーがクレイオと噂が出ているのを知らなかった訳ではない。
騎士当時、シスリーは分け隔てなく騎士達を労いに差し入れを持って、談笑し騎士達からは人気もあった。
中には牽制して、シスリーをデートに誘う者も少なからず居り、スヴェンも誘いたかったぐらいだった。
しかし、クレイオがシスリーと親しそうにしている姿が半年程前から見掛ける様になり、相手が皇子という立場であるからか、諦めていく男達も居た。
スヴェンは諦め様とも思っていても、奥手な性格の為に、吹っ切れないでいてこの日に至る。
「諦めなくて良いのかも………」
モテない男程、恋愛に奥手であるし、少し気を持たせれば、有頂天にならずとも、勘違いしてくれる事をシスリーは知っているのかもしれない。
「さ、早速明日にでも服を新調しないと………シスリー嬢に見合う姿に………」
だが、スヴェン自身は洒落た物には無頓着で、誰かの助言が欲しかった。
「………ルティアに相談しよう」
スヴェンはこの時はまだ、ルティアが自身の恋路を応援してくれている、と思っていた。
王城で、ルティアとシスリーがひと悶着があった事も知りもしないのだ。
スヴェンはルティアに聞きに行こうとするが、まだ帰って来ていない事を思い出す。
「か、帰って来てからだな………今は仕事しよう……」
この時、もしルティアがシスリーとのひと悶着後、直ぐに帰宅していたら、スヴェンがシスリーと会うのは即反対しただろう。
しかし、ルティアはスヴェンに反対はしなかったのである。
スヴェンの思考がもうシスリーとのデートに向かう一方で、ルティアはリアンと王城で夕食を食べていた。
「ベルゼウス伯爵令嬢の事だけど……」
「はい」
「ティア、まだ何か隠してたりしない?」
「隠して………あ………」
ルティアは、ベルゼウス伯爵家が陞爵する、というシスリーの戯言をリアンに話をしただけだった。
シスリーがルティアに代わり、皇太子妃になる、と宣言した事は話していない。
「あるんだね?」
「ある、と言えばあるんですけど、何故シスリー様からあんな言葉が出るか、と」
「何?」
「私に皇太子妃を辞退しろ、と………その座は自分がなるから、って……」
「ある訳無いからな!それ!………でも、そうか……それだとクレイオの話は合致するな………」
ルティアは口にしたくなかった事だった。
皇太子妃を辞退、等と。
好きだったリアンが皇太子で驚いたが、リアンと別れたくないので、辞退という言葉は、リアンに言いたくなかった。
それを即否定してくれたリアンに、心が暖かくなるルティア。
「合致って、何ですか?」
「今、ベルゼウス伯爵が経営しているカジノを調べてる、て話をしてただろう?」
「はい」
「クレイオに、ベルゼウス伯爵令嬢に近付かせて、令嬢が客引きしているんじゃないか、と思って、その線を探らせていたんだよ」
「客引きって………カジノのお客にさせるつもりで、という事ですか?」
「そう………ベルゼウス伯爵令嬢は、頻繁に騎士の駐屯地をベルゼウス伯爵と一緒に回っていて、その騎士達を誘ってカジノに連れて行くのを、目撃されているんだ。しかも、ベルゼウス伯爵令嬢に好意を寄せる男達ばかりね」
「…………え……じゃ、じゃあお兄様も………もう騙されてしまっているのでは……もう任期満了して邸に戻ってますし………」
「え!………それっていつ頃から?」
「3、4日前に」
「…………しまった……」
リアンが手に持つカラトリーを置き、項垂れた。
「皇太子殿下?」
「まだスヴェン卿は騎士駐屯地に居ると思っていたから、ベルイマンにさっき頼んだ事も無駄になった………」
「何を頼んだんですか?」
「ベルイマンに、スヴェン卿に会いに行って、ベルゼウス伯爵令嬢との事を聞き出せ、と今頃…………あ……」
「あ………ベル兄様」
「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
明らかに苛立つ顔付きで、ベルイマンが食事をしているルティアとリアンの場にやって来ていた。
「べ、ベルイマン………」
「殿下は楽しそうですね」
「す、すまん………もう駐屯地に居なかった様だな」
「えぇ………無駄な時間でしたよ。しかもそのご報告に来たら、ルティア嬢と楽しそうに食事ですか。仕事もせずに」
「情報収集だ!ティアがベルゼウス伯爵令嬢に会った、と聞いたから」
「あぁ………それについては、ちょっと噂がもう出てますね」
「噂?」
「出処ですが、恐らくベルゼウス伯爵令嬢本人が、口の軽い貴族に、フェリエ侯爵令嬢から屈辱を受けた、と話したそうなので、明日にはもう貴族中、知られるでしょうね」
「屈辱?………そんな事話してません!」
礼儀を弁えなかったのはシスリーの方だ。
それに対して、ルティアも冷ややかな態度で返したので、それは因果応報だとも言えそうなのだが、先に屈辱を受けた、とシスリーが言い始めたら、訂正する方は大変だろう。
「していなくても、ルティア嬢はデビュタント前の令嬢で、社交場でルティア嬢を知る者は少ないんだ。それに、ベルゼウス伯爵令嬢は顔が広い。例え、屈辱を味あわせてなくても、その噂が消える事は時間掛かるよ」
「ティアからの話では、ベルゼウス伯爵令嬢は下位爵位なのに、ティアに敬意を払わなかったらしい………なんだろ?」
ベルイマンは噂だけしか知らず、ルティアから話を聞かされてはいないので、何方が正しいか如何かより、噂を揉み消しは苦労しそうなのを言いたいのだ。
「挨拶の言葉もありませんでした」
「敵意剥き出しだったんだ」
ベルイマンは腕組みをして考えている。
「何か思い付きそうか?ベルイマン」
「姑息で浅はかな考えなのだな、と……ベルゼウス伯爵令嬢の事ですよ?」
「明らかにさせればいい………どうやら、皇太子妃の座を狙ってる様だしな」
「…………え?それ本当ですか?」
「今、ティアから聞いた」
「…………分かりました……でしたら、此方も動きようがありますよ、殿下」
「「?」」
リアンの補佐官だけあって、ベルイマンは頭脳派だ。
ベルゼウス伯爵が何故、金儲けに躍起になり、シスリーの社交的な性格を利用し、金を集めるのか。
そして、その金は何処に回されているのか。
シスリーが皇太子妃を狙う意図と繋がったとベルイマンの顔が物語っていた。
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