束縛と緊縛の世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 由真が桐生の居なくなった頃、目を覚ます。
 普段使い慣れない筋肉や精神を使って疲れ果てていたのに気が付き、身体を起こせなかった。

「………あ、あれ……此処何処?……桐生さんの店に居た筈……」

 殺風景な部屋に無数のカメラや三脚、レフ板等が埃を被ってはいるが、整頓されて並べられている景色が目に飛び込んで来た。

「………と、撮られてない……よ……ね……」

 そう思っていると、意識がはっきりとして来る。

「っ!」

 ガバッと上半身を起こし、下腹部に入っていた筈のローターは無く、ベタベタした由真の濡れた太腿は綺麗に拭かれていた。しかも裸だった。

「ま………まさか……桐生さ……に抜かれ……い、いやぁぁぁぁぁっ!」
「如何した!」
「っ!」
「…………如何した!由真……」
「わ、わ、私……な、何で………此処……」
「…………あぁ、俺が店に寝かせるつもりなかったから、俺の部屋に連れて来た。悪いが触ってローターは抜いたが、それだけだぞ?」
「っ!」

 由真はもう茹でダコの様に顔が真っ赤になっている。

「服は今洗濯機に入れてる。乾燥終わる迄ゆっくりしておけばいい」
「は………裸……」
「そりゃ、汚れた服でそのまま寝させられるかよ………とりあえず、下着と……コス衣装で悪いが着るか?女物の服はコレしか無い」
「…………っ!き、着ません!エロコスじゃないですか!」

 桐生のベッドの布団で胸を隠した由真に、服と下着を由真の膝上に置いた桐生。下着は服で隠せるからまだいいが、服は露出度の高い卑猥なコスプレ衣装だ。

「そう言うと思って、俺のニットとズボン。洗ってある奴だから、暫くそれ着とけ」
「そ、そっちで………」

 服は洗っている、と聞いては帰れない由真は、桐生の服を借りる。

「あ、あの………み、見ないで欲しいんですけど……」
「今更?俺は女の裸見慣れてる。それに俺ももう寝たいんだ。ベッドはソレしかない」
「私はこのまま帰れ、と?」
「泊まっていけば?」
「い、一緒に寝るって事ですか!」
「手は出さないよ。ソファもあるが、狭くて寝れなくてな」

 確かに殺風景やリビングだったが、モデル並みの長身の桐生には、寛げる様なソファではなさそうな長さだった。

「わ、私がソファに寝ますから」
「女にソファで寝させられるか………幸いダブルベッドだからな、疲れてる身体にソファは辛い」
「…………そ、そうでしょうけど……」
「早く着ろよ、ソレ………下着のサイズは合ってる筈だ。アンタが着ていた下着より着心地は良いと思うがな」
「…………透けてますけど……」

 ブラジャーとショーツを目の前で翳し、翳した先に立つ桐生のシルエットが見える由真。

「生憎、店の新品の下着なんでな………店でSMプレイして、汚れた客用に売ってるもんだから」
「そんなサービスもあるんですね」
「いいから着てくれ………いい加減俺も寝たいんだ」
「っ!………す、すいません……」

 もそもそと、ベッドの上で布団で隠しながら由真は下着を着けると、桐生に借りたセーターとズボンを着用する。

「お待たせしました………」
「…………ん……ふぁぁぁぁぁっ……」

 大きな欠伸をする辺り、本当に眠いのだろう。由真に興味がありそうだった緊縛されていた時間とは全く違う対応をされて、1人だけで由真は舞い上がっていたのだと気付いた。

「電気、消させてもらうぞ………休みだろ?土曜は」
「は、はい……一応………」
「じゃあ、午後から買い物に付き合え………アンタのその服や下着のセンス変えさせろ………でなきゃ緊縛したいとは思えないからな」
「っ!」

 仕事のある日は、スーツに眼鏡で気を遣わないコーディネートをしている由真だが、普段着は可愛い物が好きだった。だが似合わないのでいつしかお洒落に気を回さなくなっていたのだが、桐生は由真を変えてくれると言うのか。

「…………おやすみ……」
「お、おやすみなさい………」

 寝落ちした由真を介抱し、服や寝る場所も提供してくれて、優しい面もある桐生。ただ、緊縛師として憧れているだけでは、桐生の本質は分からなかっただろう。
 
 ---SNSで、緊縛したモデルを撮影してるけど、あんなにいっぱいカメラ要るのかな……

 棚に並べられたカメラ達。レトロ感のあるデザインのカメラもあった。レンズだけならカメラの倍はある。桐生の写真撮影は、趣味の域を超えている様な気がした。
 由真の横で背を向け、もう寝息を掻く桐生に由真も背を向け、夜中の3時の中途半端の時間に再び眠りに着こうとするが、なかなか寝られなかった。

       ❂❂❂❂❂

 由真はまだ眠る桐生に、お礼になるかは分からなかったが、キッチンに立っていた。
 寝過ごした気もしたが、由真が起きたのは朝の8時。出社時間にはもう間に合う時間ではない大遅刻にはなっているのだが、由真は土日休みだ。

「何か、朝食になる物は………迷惑じゃなきゃいいけど………な、何もない……水だけ?こんなに大きな冷蔵庫あって、何もないの?………冷凍庫は!…………ア、アイスだけ………」

 アイスクリームやアイスキャンデーだけが大量にストックされていて、それ以外何も入ってはいない。
 調理器具は揃っていたので、材料さえあれば何かしら作れるキッチンだったので、由真はキッチンに立ったのだが、こんなに何も無いとある意味清々しい。

「…………朝から煩い……何してんの?」
「おはようございます……泊めて頂いたので、お礼に朝食でも作ろうかな、て思ってたんですが………」
「…………あぁ……飯は外で食べてるから……」
「でも、調理器具が揃ってて、何も無いって勿体無いですよ?」
「…………昔、此処で一緒に住んでた女が料理好きだったんだよ……置いて出てった」
「…………あ………な、何か……すいません……」

 1人暮らしにしては広いリビングダイニングのビルのフロア。マンションの様な間取りにしてあるのは、同居していた女の為だったのかもしれない。

「…………別に……何も無いこの部屋に、その女が持ち込んだ物だから」
「ずっと此処に住んでたんですね」
「大学卒業後からずっと………10年は住んでるな、俺の持ちビルだし」
「え!………テナントなんじゃないんですか?」
「まぁな………朝飯食いたいんだろ?食いに行こうか。アンタの服も乾燥終わってるだろうし」

 朝、由真は乾燥が終わった服を洗濯機から取り出している。しかし、皺がありアイロンを掛けたくて、桐生にアイロンがあるか聞きたかったのもあり、着替えずにいた。

「アイロンあります?皺取りたいんですけど」
「…………あるよ、持って来る……その前にシャワー浴びたら?昨日は身体拭いただけだから、シャワー浴びたいんじゃない?」
「あ、お借りしてもいいですか?シャワー」
「いいよ、使って」 

 エレベーターを降りると直ぐに部屋になっている桐生の住居は2LDKで、由真が思った以上に生活感があった。
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